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僕がエージェント・オブ・G.I.R.L.になった理由(わけ) 〜祝・邦訳! アンストッパブル・ワスプについていま一度、もう二言三言〜

こんにちは、アットワンダーのアメコミコーナーです。

毎週【火曜と水曜】、アメコミ担当: 藤田は休みをいただいております。
ですので、店舗自体は休まず営業していますが、アメコミ関連のお問合せにつきましては、お返事に少々お時間いただく場合があります。ご容赦ください。
(※今週は7月30日【木曜】も、デパート催事の搬入に出かけるため、半日不在にしています)

というわけで、担当的には本日休日なので、心おきなく雑談をさせていただくことにします。わざわざ休日使ってなんの話題かって? そりゃあこの件に決まってるじゃないですか。

みなさん書店/ショップへGO!
いよいよ今週、『ワスプ』の翻訳版が発売になりますよ。

ってことです。

レッドルームからの逃亡者、
初代アントマン=ハンク・ピムの娘、
善なる科学で悪を討つ。
そう、ナディアは……〝アンストッパブル・ワスプ〟!

原題『UNSTOPPABLE WASP』、映画にも登場したMARVELヒーロー、ワスプにスポットをあてたシリーズで、主役は2016年に初登場した新世代ワスプ=ナディア・ヴァン・ダイン。彼女と科学を志す仲間たちからなるGenius In action Research Labs=G.I.R.L.の活躍を描いた作品です。

担当: 藤田は2017年の第1シリーズ(全8号)の創刊当初から本作にベタ惚れしており、日頃Twitterをごらんになっている方ならご存知のとおり、折にふれては『おもしろいよ』と言及し、隙を見つけては『みんな読もうね』と布教にいそしんでまいりました。古書として入荷しているわけでもないのにです。

2018年に第2シリーズが刊行されたときにはこの喜びよう!

刊行決定のニュースを聞くや、動揺のあまり〝どうやら〟が重複し、

実際に刊行されると句読点が消し飛ぶ始末。

それで、今回翻訳されるのは、上記の第2シリーズです。
一度はキャンセルになった第1シリーズがTPB化ののちに評判を呼び、ライター: ジェレミー・ウィットリーの続投、そしておなじみグリヒル先生をメインアーティストに迎えての連載再開をもぎとった、稀にみる大逆転劇。
そんな奇跡の一作、待望の日本語版第1巻はシリーズ前半の5号を収録、カバーもグリヒルさんの最高の描き下ろし画で、とにもかくにもマストバイなのであります。
必ずしも、その素敵なカバーに象徴されるような、ポップでキュートな面だけを見せてくれるわけではなく、そこには“スーパーヒーローのメンタルの危機”を扱うハードな展開もあります。それでも、グリヒルさんの真骨頂たる繊細な表情描写と、前シリーズから丁寧に布石を打ってきたジェレミー・ウィットリーの絶妙なストーリーテリングがナディアたちをやさしく着陸させる、5号の見事なエンディングを見届けてほしい。
(ウィットリー&グリヒルでは、2015年のSECRET LOVE誌に収録されたアイアンフィスト/ミスティ・ナイトの短編でも近いフィーリングのコンビネーションがみられて最高なのでぜひ)

ともあれ、後編の第2巻につなぐためにも、繰り返します、みなさん書店/ショップへGO!

さて、前シリーズから丁寧に打たれた布石と書きましたが、もしかすると、今回の『ワスプ』で初めてこのシリーズを読む方の中には、要所要所「これは?」とひっかかる向きがあるかもしれません。

たぶんそれは、第1シリーズから継続しているストーリーの糸です。

アメコミツイートまとめ アンストッパブル・ワスプ!
2018年7月15日(月)のTwitterモーメント

これは第2シリーズ開始が発表されてまもない頃に作った、第1シリーズのご紹介ツイート集です。
実は、今回の翻訳紹介のことを知った当初、本作をずーっと推し続けてきた者として、『第2シリーズから初めてアンストッパブル・ワスプを読む人のために、第1シリーズのおさえておくべきポイントを、興を削ぐようなネタバレは避けつつお伝えする、自分にはその使命があるんじゃないか……?』なんてことを考えていました。上記のモーメントは第2期開始前に作ったので、当然そういうフォローはできておらず、いっちょ作り直したろうかとも思っていたのですが。

でも、自分の文章力ではただただ野暮になるだけでしょうし、今回は控えておくことにしました。そもそも使命などないっ!
なので、もし、そういったアレコレですとか、ナディアの最初の冒険やG.I.R.L.のオリジンが気になるようでしたら、あとからでいいので、遡って第1シリーズを読むことをお勧めします。

↓こちらデジタル版ですが。
UNSTOPPABLE WASP (2017) - Comixology
(プリント派の方は各ショップへ!)
あと、ALL-NEW ALL DIFFERENT AVENGERS誌の14号 も、おさえておいて損はありませんよ。

しかし、とはいえ、じゃあ今日はこれで終わりにします、ってのも味気ないじゃないですか。せっかく好きな作品が多くの人の目に触れるんだから、ファンとしてはもうちょっと泥臭くジタバタしてみたい。

そこでふと、自分は『この作品のどこが最高なのか』をしつこく繰り返し繰り返し訴えてきた一方で(↑こんなふうに)、本当の腹の内というか、『どうしてこれが好きなのか』ってことを、実はちゃんと書いてこなかったんじゃないか、ということに思い至りました。

それはG.I.R.L.が軽やかに世界を変えたから

第1期アンストッパブル・ワスプが創刊されたのは2017年の1月初週です。担当: 藤田が初めて本作に言及したツイートが、同じ月のこれ。

これ、なんの余談なのかというと、この時の連続ツイートのテーマが【コミック脚本も手がける小説家】というもので、チェルシー・ケインの『ビューティ・キラー』シリーズとともに、ケインのモッキンバード誌について少し触れたのです。

同誌のキャンセルに前後するケインへの激しい中傷のことをご記憶の方も多いかと存じますが、ウィットリーはアンストッパブル・ワスプ誌1号で、ボビー・モースをナディアの幼少時のヒーロー/女性科学者としてのロールモデルに位置付けることで、モッキンバードの歴史と、あらためて彼女にスポットをあてて画期的に輝かせたチェルシー・ケインに対する深いリスペクトを表明し、

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同時に、科学への愛情に溢れた若き女性たちがいまだ世に知られざるその才能で世界を変えてみせようと奮闘する、ド直球のヒーローコミックの幕を開けてみせたのでした。
(シリーズの名シーンは無数にありますが、何回読み返しても、最大風速でブチ上がるのは1号のこの場面ですね。『だけど世界を変えるのなら、わたしには助けが必要だ』のセリフは、第2期のある展開を暗示してるような気もします←結局野暮なことを言っちゃう)

担当: 藤田は『ジェレミー・ホイットリー(※こないだまでこう読んでた)、やるじゃん!』と猛烈に感動しました。
先行作品への敬意と新しい解釈。ひどい言葉をぶつけられようと、ヒーローコミックの歴史はこうやってバトンを繋いでいくのだ!  というのを見せつけられた思いでした。

もっと言うと。そもそもアンストッパブル・ワスプ誌の第1期は、2016年秋から2017年にかけて展開された【MARVEL NOW!】キャンペーン下で発表されたシリーズでした。
予期される罪を先んじて罰すことの是非とヒーローの対立——ブライアン・M・ベンディスのCIVIL WAR IIを抜け、マーベルユニバースが迎えた次のフェイズ。ひび割れたMARVEL NOW!のロゴ、『DIVIDED WE STAND』のコピーとともに分断されたヒーローを描いたコンセプトイメージ画は、現政権の誕生にいたる今日のアメリカ国内のムードを反映したものでもありました。
マーク・ウェイドは、アベンジャーズ的な解決ではない、新しいスーパーヒーロー像の模索を新世代チーム・チャンピオンズに託し、ニック・スペンサーは、2017年早々のあのあまりにもショッキングなCIVIL WAR II: THE OATHを経て、SECRET EMPIREでヒドラの指導者スティーブ・ロジャースの手中に落ちた世界を描き、トランプ時代に突入したアメリカに真っ向からぶつかっていきました。

(完成した作品があまりにエバーグリーンなのでつい忘れがちですが)アンストッパブル・ワスプ第1期刊行時期にはこういうバックグラウンドがあって、その第1号のリリースも、先述のとおり、そんな2017年の初週の水曜だったわけです。そこでナディアが打ち出したステートメントには、時代と取っ組み合い続けるMARVELの、他でもないこの2017年の最初の新作ヒーローコミックとして充分にまっとうで、力強くて、それ以上に、予想だにしない軽やかさが備わっていました。そのことにも、バッチバチに痺れたんですよね、当時。

そこから17年の夏に向けて、マーベルユニバースを取り巻く物語の大筋はSECRET EMPIREに集約されていき、刊行中の殆どのタイトルがそのサイドストーリーを追っていく中で、アンストッパブル・ワスプ誌の物語はそこに合流することなく進んでいきました。
ウィットリーが吹き込んだキャラクター(ここにはナディアの生みの親のマーク・ウェイドにも出せていない味があります)と、天才エルサ・シャルティエのアートを原動力に描かれる、ナディアとG.I.R.L.のファーストミッション。クライマックスが訪れる5号・6号の、ほぼほぼ戦闘能力のないタイナ・プリヤ・シェイ・アレクシスの活躍、それにごぞんじ盲目の弁護士の立ち回りも粋でした。

MARVELは暗いって? 仲間割れや内輪揉めばかりだって? 
ちょっと待ってよ。ここにまさしく、〝明るくまっすぐなヒーローコミック〟があるじゃないか!

問題意識に満ち満ち、ほのかに黒いユーモアもまぶしつつ、ヒーローが逆襲の狼煙をあげるSECRET EMPIREも確かに傑作でした。しかし同時期に、裏表の位置で本作が展開されていたことは、今後も訴え続けていきたいものです。

ただ、そのキャンセルは相当早い段階で決まっていたということも伝え聞いています。
当時目にしたアンストッパブル・ワスプ誌のレビューに、『MOON GIRL誌が成功した時のような猶予を与えられる余裕は、今のMARVELには無いはず(だからより早いテンポの展開が求められる)』というものがあって、おい〜意地悪なこと言ってくれるじゃないのよ〜と思ったものですが、悔しいかな、芯は食った指摘だったのかな、と。

でも、このシリーズを真の傑作に押し上げたのは、キャンセルを受けて物語をたたみに入った7号と8号の成果だとも思っています。ウィットリーはここでカメラの位置を大きく動かし、ついに登場した初代ワスプ=ジャネットの視点で、物語の“明るくまっすぐ”だけではない面を捉えていきます。読者の誰もが知るハンク・ピムをめぐるある事実にもきっちり向き合いながら描かれたナディアのゴールとヴァン・ダイン家のリスタートは、『これ本当に打ち切り作品なの?』と訝しんじゃうほどに見事な着地でした。そして、物語を締め括るナディアたちの3カウントは、読者である自分までいっしょになって声を上げちゃうような祝祭の響きに満ちていたのです。(こうして、アメコミ担当: 藤田はエージェントオブG.I.R.L.になったのである!)

付け加えると、ウィットリーのアンストッパブル・ワスプ誌は、このエピローグで明らかになったとおり、ジャネット・ヴァン・ダインの物語でも、もっと言えば(登場はほぼしない)ハンク・ピムの物語の最新版でもあります。

第2シリーズでのハードな展開も、メンタルの問題をヴィラン的な邪に回収させるのはやめようというウィットリーの方針のもと綿密なリサーチを経て書かれており、読者は、ナディアとG.I.R.L.の選択を通して、遡ってかつてのピムにも思いを馳せることになります。

数奇な歴史をもち、ともすれば一言で切って捨てられることも多いハンク・ピムに時間をかけて寄り添っていこうとする姿勢にも、担当は好感を覚えたものですが、残念ながら第2シリーズも、その本題の入口をみせたところでいったん終了してしまいました。

それからというもの、担当:藤田が『第3シリーズをくれえ!ウィットリーをくれえ!』とジタジタしつづけているのは周知の通り。しかしここであらためて確認しておきましょう、先行作品への敬意と新しい解釈をもって続いていくのがヒーローコミックだということを
ちゃんとバトンは渡っています。前2シリーズの純然たる続編として、サム・マッグスによる小説版『The Unstoppable Wasp: Built on Hope』が先日リリースされました!

担当もまだ読んでる途中ですが、さすが『Fearless and Fantastic!(マーベル最強ヒロインファイルBOOK)』のサム・マッグス、彼女も熱いエージェントオブG.I.R.L.のひとりだということが充分に伝わってきます。ほんとうに素晴らしいです。
(マッグスはIDWで現在展開されているMARVEL ACTIONシリーズにも、ナディアとG.I.R.L.を登場させています。)

このように、熱心なアンストッパブル・ワスプ読者は世界中にいて、その中には、担当: 藤田のような30代男性(コミック読者のメイン層)だけではなく、ナディアたちと同世代や、もっと若い世代の女性もいます。

そういう若い人たちが、これからウィットリーやマッグスのバトンを受け取って、未来のMARVELコミックを引っ張っていくかもしれないし、あるいはワスプ誌の巻末コーナー、毎号実際に活躍する女性科学者へのインタビューを載せた〈AGENTS OF G.I.R.L.〉をきっかけに、科学の道に飛び込んでいくかもしれない。

そう、すでにナディアとG.I.R.L.とウィットリーは、(まだほんの少しかもしれないけれど、たしかに)世界を変えているはず。

DON’T STOP INVENTING. 
DON’T STOP BEING AMAZING.
KEEP G.I.R.L. ALIVE!

未来はいつも明るい。ナディアとG.I.R.L.の今後に期待しましょう。

——

もちろん、ジェレミー・ウィットリーにも、いつかまたナディアの物語に戻ってきてほしいな、と願っています。

彼がワスプ誌のあとに立ち上げたフューチャー・ファウンデーション誌が5号でキャンセルされてしまい、あまりにも早すぎるMARVELの見切り方(1号が店に並ぶか並ばないかくらいの時期にそれ決めてるんだからして)に、『ホントそういうとこだぞ!』と担当いまだに腹を立てていますが、まもなくPAPERCUTZから、JAMIE NOGUCHIと組んでの新作ヤングアダルトグラフィックノベル『SCHOOL FOR EXTRATERRESTRIAL GIRLS』が刊行されます。

ALL-AGES COMICに深い愛着と誇りを持つウィットリーが本領を発揮するのは、書下しYAの分野ではないかとは常々思っていたので、これすごい楽しみにしています。
MARVELもこれからスカラスティックと提携して同分野に乗り込んでいくと聞いています。悪いこと言わないから、ウィットリーが他社でヒットメーカーになっちゃう前に連れ戻しておくべきですよ(小声)

——

さて、初の雑談回でしたが、Twitterでもすぐ店に関係ない話題に持ち込もうとする担当: 藤田も、さすがに開設したてのnoteでゴリゴリの私語を並べ立てることに抵抗がないわけじゃないんですよ。こんだけ書き散らかしといてなんですけれども。
そこで、ここまでお付き合いくださった方 先着1名様に、こういうものをご用意してみました。

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【ワスプ予習用3冊セット!】UNSTOPPABLE WASP: G.I.R.L. POWER / ALL-NEW ALL-DIFFERENT AVENGERS Vol.2&3 - 通販サイト〈日本の古本屋〉

通販サイト〈日本の古本屋〉に、第1シリーズ全8号を収録したダイジェストサイズのTPBと、ナディアの初登場〜ワスプ誌のプロローグ的エピソードを収録したANADアベンジャーズのTPBをまとめた3点セットを出品しておりますのでよければぜひ。ここまで読んでくださった方なら、多かれ少なかれアンストッパブル・ワスプにご興味をもっていただけてるのではないかな、とすこし期待も寄せつつ…

なにはともあれ、まずは今週、みなさん書店/ショップへGO! (本日3度目)
我々エージェントオブG.I.R.L.はいつでも、↓こんなふうに新しい仲間がやってくるのを待ってます。

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アンストッパブルにとりとめなく、延々書き連ねてまいりましたが、本日はこれにて終わります🐝


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