御座候に詰まった愛

ツレは甘味を切に愛している。

平等に分けようと拘るのは、きっと誰しも切実な思いを抱えていると信じているからだ。大きくなってしまった方を食べていいよと伝えた時の彼女の喜びようを見るだけで幸せになれる。それくらい彼女は真剣なのだ。

だから不意に損をすれば、怒り心頭に発する。ある時、ドーナツを人に食べられて大層憤慨していた。聞けばミスドのドーナツらしいが値段の問題ではないようだ。彼女が喜べばとちょっと良いドーナツを買ってあげた。喜んでくれたけれど、犯人に対する怒りは別の問題らしい。何年たっても彼女は犯人を許さない。そんな彼女の執念におそろしさといとしさを覚えた。それくらい彼女は真剣なのだ。

私も甘味を好む。生クリームのプールを泳ぐ夢は持てないが、好きだ。しかし、無情にもクローン病は食べられる甘味に制限を課す。特に洋菓子の多くはバターや生クリームといった動物性脂肪に富むから危険だ。

ある日、御座候(今川焼)を頂いた。私に気遣って油脂を避けてくれたらしいが、粒あんは不溶性食物繊維に富むため、私には消化が難しい。それでも体調と相談して一口だけ頂き、残りをツレに食べてもらうことにした。するとツレは皮の厚いところを千切って返してくれた。

どきりとした。彼女は普段、愛を口にすることはないのだが、不意に示してくれる。その度にどきりとする。

彼女が彼女の愛する甘味を自ら人に分けてくれた。きっと満足に甘味を食べられない状況を我が事のように不憫に思ってくれての行動だったのだろう。餡に代えて愛の詰まった御座候を受け取って不意に涙しそうになった。御座候一つで大袈裟なと思われるかも知れないが、彼女がいかにあまねく甘味を愛しているかは既に伸べた通りだ。

前にもパフェの具材から私が食べられそうなものを少しでも多く分けてくれた。完全な愛だ。


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