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おいしいお肉の創りかた

 諸君、僕は肉が好きだ。

 好きなものを好きなときに好きなだけ食べたいという願望に、どうして理由が要るだろうか?

 この世界には『魔法』が存在する。

 人々は地に空に海に充たされたこの不思議な力を自在に操り、暮らしを豊かにするために創意工夫を重ねてきた。
 社会にその力を還元する機関も発展し、魔法学研究者がその役割を果たすようになってから数百年。
 僕も例に漏れずその一人であったが、目的は専ら『肉を好きなだけ食べたいから』。


 今では畜産業は魔法の力でその作業行程の多くがシステム化され、大規模農場・大規模生産が主流になりつつあった。
 だが、僕の研究は更にその一歩先を行く。

 動物愛護精神が問われだした昨今、『動物をと畜して食用の肉とする』ことに批判的な意見が増えだしている。
 ならば、家畜を殺さずとも『魔法で肉を生成することができれば』どうだろう?


 実験室兼キッチンである自宅で、無駄に大きな作業台兼調理台を前に、僕は肉をこねていた。
 片手には家畜解剖学の本を手に、台の上に無造作に置かれた様々な部位の肉を並べては、積んだり練ったり。

 命に連なる魔法研究の多くはいつの時代になっても理解が難しく、仕組みも複雑で困難を呈する。
 しかし人間はその道を進むのを諦めようとしないし、その『目的』のために情熱を絶やさない。
 それは僕だって同じだった。

 僕は、
 肉を、
 いつでも、
 好きなだけ、
 食べたい、
 それだけなんだ!


『捌き、乖離せよ、繋ぎ、形造れ』
『自ら識り、学び、成長せよ』
『廻る運命からはずれ、新たな円環に嵌まれ』

 小難しい魔法の呪文も、実はそんなに意味を成さない。
 …まぁ簡単にいうとさ、『おいしくなぁれ、もえもえきゅん』

 なんちゃって。ーーーえ?光った!


 …こうして僕は、なんというかまぁ、
 新しい生命種を創造することに成功してしまったわけで。

 …うーん、そうだね。『喋って動く肉塊』、まずはどう調理しようか。


 (つづく/スペース抜き777字)



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