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天は二物を与えない #パルプアドベントカレンダー2023

 この日、天国では、年に一度のおつとめがはじまろうとしています。

 天使のポルカは、毎年この日を待ちどおしく思っていました。
「はい、これが今年のタマゴですよ」
「ありがとうございます」
 大きなつばさを持った天使から渡されたのは、両手で持てるくらいのタマゴです。
 タマゴはぽかぽかとあたたかく、まっしろでつやつやとしていました。

 これから七日のうち、天使はタマゴにいのりをこめて、雲に乗せます。
 そうすると、タマゴはぷかぷか地上へおりて、新しい人間の命になるのです。

 ポルカはタマゴをなでながら、
「おまえはどんな人間になるんだろうね」
 と話しかけます。
 タマゴはポルカの声にこたえるように、
【かたん!】
 とゆれました。

+++

 次の日、ポルカは太陽が起きだすよりもずっと早く起きました。
 そしてタマゴをかかえて、天国でいちばん景色のいい丘へ行きました。

「ごらん、おひさまがのぼるよ」
 ポルカはタマゴを、まだうすぐらい空へ向かって持ちあげます。
 すると、お日さまが顔を出し、朝がきました。

 空が明るくなってしばらくすると、天使たちが自分のタマゴを持って、次々に丘へと集まってきます。
 一日目のおつとめは、タマゴにたっぷりとお日さまの光をあびてもらうことでした。
 たくさんお日さまの光をあびると、大きな人間になれるのです。

 ポルカはタマゴをなでながら、
「すくすく、大きくそだちますように」
 といのりをこめました。
 タマゴはポルカの声にこたえるように、
【かたん!】
 とゆれました。

+++

 次の日、ポルカは大きな布を取り出して、タマゴを包みました。
 そしてしっかり自分の体にくくりつけ、空へと飛んでいきました。

 つばさを羽ばたかせながら、ポルカはものすごいスピードで空を飛びます。
 地面はとっくのとうに、背すじが凍りついてしまうくらい、はるか遠くにありました。
「怖くても、しっかり見ているんだよ」

 しばらくすると、天使たちがポルカと同じようにタマゴを背負って、空へとあがってきます。
 二日目のおつとめは、タマゴを高いところにつれてきて、怖い思いをしてもらうことでした。
「怖い」を感じたタマゴは、勇気のある人間になれるのです。

 ポルカはタマゴをなでながら、
「いつでも、勇気をもてますように」
 といのりをこめました。
 タマゴはポルカの声にこたえるように、
【かたん!】
 とゆれました。

+++

 次の日、ポルカはタマゴを抱えて、森へとやってきました。
 この森にはたくさんの種類の果実がなった、大きな木が生えています。

 ポルカは木の上から下までを何度も見わたして、一番おいしそうな果実をもぎました。
 そして大きく口をあけて、がぶっ! とかじりつきました。
「おまえにもわけてあげようね」
 果汁でぬれたくちびるで、ポルカはタマゴにキスをします。

 ポルカが果実を食べおわるころには、たくさんの天使たちが果実を探しに集まってきていました。
 三日目のおつとめは、タマゴにはじめての食事をさせることでした。
 大地の恵みを与えることで、健康な人間に育つのです。

 ポルカはタマゴをなでながら、
「いつまでも、健やかにそだちますように」
 といのりをこめました。
 タマゴはポルカの声にこたえるように、
【かたん!】
 とゆれました。

+++

 次の日、ポルカはお日さまが一度のぼって、沈む時に起きました。
 ですがおねぼうをしたわけではありません。

 お日さまが沈むと、お星さまがかがやきだします。
 ポルカはタマゴを抱きしめながら、夜空を見上げていました。
「お空にはたくさんのお星さまがあるんだよ」
 きらきら光る夜空の宝石を指でつないで、ポルカはタマゴにたくさんのお話をしました。

 ぽつ、ぽつ、と、天使たちの家のあかりがともりだします。
 四日目のおつとめは、タマゴと一緒に星を見ながら、お話をしてあげることでした。
 たくさんお話を聞かせると、かしこい人間になれるのです。

 ポルカはタマゴをなでながら、
「学びたい心を、忘れませんように」
 といのりをこめました。
 タマゴはポルカの声にこたえるように、
【かたん!】
 とゆれました。

+++

 次の日、ポルカは海へいきました。
 白い砂浜の波うちぎわから、たくさんの魚や鳥を見ることができます。

 ポルカが砂浜の上にタマゴをおくと、生きものたちが近づいてきました。
 生きものたちはみんな、姿やかたちがちがいます。
 キレイなウロコを持つ魚。
 するどいキバを持つ動物。
 ふわふわの羽を持った鳥。
「見た目はみんなちがうけど、みんながおまえの友だちだよ」

 気づけば砂浜には、タマゴを連れてきた天使たちと、たくさんの生きものたちであふれかえっていました。
 五日目のおつとめは、いろんな生きもののすがたを、タマゴに見せてあげることでした。
「ちがう」ことは「怖くない」と分かれば、みんなにやさしくなれるのです。

 ポルカはタマゴをなでながら、
「やさしく、おだやかな心を持てますように」
 といのりをこめました。
 タマゴはポルカの声にこたえるように、
【かたん!】
 とゆれました。

+++

 次の日、ポルカは動物たちがたくさんくらす場所へとやってきました。
 昨日とは比べものにならないほどたくさんの動物が、そこにはいました。

「ごらん」
 ポルカがタマゴを地面に置くと、動物たちが集まってきます。
 その数の多さに、タマゴはカタカタと震えているように見えました。
「今は怖いかもしれないけれど、大丈夫」
 ポルカはタマゴをなでながら言います。
「おまえが人間になった時、彼らをすべてしたがえる力を持つんだよ」
 すると、動物たちがいっせいに、タマゴに向かって頭をさげたのです。

 六日目のおつとめは、タマゴに「人間になる」ことを「自覚」させることでした。

 ポルカはいのりをこめました。
「立派な人間になりますように」

 タマゴはポルカの声にこたえるように、
【かたん】
 とゆれました。

+++

 次の日。
 ポルカは、机の中から一本のペンを取り出しました。
 これは「天使の羽ペン」といって、かみさまの力が込められたふしぎなペンです。
 このペンを使ってタマゴに「おねがい」を書くと、生まれてくる人間はそのようになるのです。

 七日目のおつとめは、「おねがい」を考えて、タマゴに書きこむことでした。

 書きこめる「おねがい」は、たいていがひとつだけです。
 ですから、ようく考えて「おねがい」を決めなければなりません。
 ポルカは今までに雲に乗せてきたタマゴのことを思い出していました。

 思えば、たくさんのタマゴに「おねがい」を書いて、雲に乗せてきました。
「きれいな字が書けますように」。
「背が高くなりますように」。
「足が速くなりますように」。
「歌が上手にうたえますように」。
 どのタマゴもうれしそうに【かたん!】とゆれて、ぷかぷか地上へといきました。

 生まれてくる人間の命が、どうか幸せになれますように、と。
 ポルカは日が沈むまで、たくさん、たくさん考えました。
 ようやくひとつの「おねがい」を決めたころには、すっかり夜になっていました。
 ポルカは羽ペンを手にとって、タマゴにお願いを書きこもうとしました。
 ですが、なんどペンを動かしても、タマゴには文字ひとつ書きこめません。

 おどろいたポルカは、タマゴを抱いたままかみさまのところへと走ります。
 かみさまは、天国でいちばん大きなお城の中に住んでいました。

「かみさま。かみさま。タマゴに『おねがい』が書きこめないのです」
 ポルカが泣きそうな声でそう言うと、まっしろな光の向こうからかみさまの声が聞こえてきました。
「そのタマゴは、それでいいのですよ」
「かみさま。教えてください。どうして『おねがい』を書きこむことができないのですか」
「それがそのタマゴに与えられた『うんめい』だからですよ」
「それではあまりにこのタマゴがかわいそうです」
 とうとうポルカの目からは涙がぽろぽろとこぼれ落ちてしまいました。

 ポルカがさめざめと泣くものですから、かみさまはそんなポルカをかわいそうに思いました。
「ならば三文字だけ書きこめるようにしましょう」
 かみさまがそう言うと、ポルカが抱きしめていたタマゴに三つの光がともりました。
「明日の朝、タマゴを雲に乗せるまでにですよ」
「かみさま。ありがとうございました」
 ポルカはかみさまにお礼を言って、急いで家に帰りました。

+++

 次の日、ポルカはタマゴと一緒に天国のはじっこにやってきました。

「幸せにおなり」
 ポルカはいっとうふかふかな雲を選んで、七日のあいだ大切にいのりをこめたタマゴを、そっと乗せてあげました。
 タマゴには「ポ」「ル」「カ」と、三つの文字が書いてあります。

 ぷかぷか、ぷかぷか。
 タマゴを乗せたたくさんの雲が、地上に向かっておりていきます。
 ぷかぷか、ぷかぷか。
 天使たちのいのりをたくさんつめこんで、新しい命になるために。

 ポルカはタマゴが見えなくなるまで、ずっとずっと手をふりつづけました。

+++

 帰り道、ポルカはかみさまに呼び止められました。

「百回目のおつとめを終えたあなたに、なんでも一つだけ願いをかなえてあげましょう」

 ポルカは少しだけ考えて、
「では、僕がさっき送り出した新しい命に、いつかまた出会えますように」
 と言いました。

 するとポルカはまっしろな光に包まれました。



 かみさまは、まっしろなタマゴをひとつ、まっしろな雲に乗せました。
 ぷかぷか、ぷかぷか。
 タマゴは雲に乗って、地上へとおりていきました。

 ぷかぷか、ぷかぷか。

 二つのタマゴが一緒にならんで、新しい命になりました。


おしまい


+++

【おつとめ。】

去年は夢であってくれ…なお話だったけど、今年は「夢みたいだけど本当かもしれない」お話でした。
クリスマスにはDREAMがつきもの。この企画もまさかの五度目まして、ニイノミと申します。主催、お誘い頂き感謝します。

名前は自分に一番深く刻まれる「縁」だと思っています。
主人公が選んだ三文字はどんな運命に繋がったんでしょうか。

去年までは色々と後書き書いていたんですが、今年は内容も内容なのでシンプルに。
企画もあと少しです。今からでも飛び入り、遅くないですよ。

明日22日は主催の桃之字さんによる「ドレッド・レッド・バレット」です。
お楽しみに。

来年もどんな形であれ書くことは続けていたいと思います。
メリークリスマス。良い夢を。

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