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コーヒーは飲まない夜に。

話題作『コーヒーが冷めないうちに』とは全く関係ない。

 先日夜更けまで仕事があった日、同僚にコーヒーを飲むかと聞かれて断った。前部署にはコーヒーサーバーがあったので毎日昼食後に一杯飲むのを習慣にしていたが、不眠を改善したくてやめた。前部署での出来事をあまり思い出したくなくて遠ざけているところもある。

 前の部署から今の部署への異動が珍しいため、僕は好奇の目に晒されているらしい。どうしてウチに来たんだ、とは4月に何度も聞かれた。しかし僕がのらりくらりと適当な事を言い続けたせいか、今はその質問はされない。かわりに人間性から探る事にでもなったらしく、最近は飲みへの誘いがやたら多い。あと、プライベートに関する質問。コーヒーを飲むかと尋ねてくれた同僚も、そこで終わらずに「あっとさんはコーヒー飲みそうなのにね」と話を振ってきた。「夜に飲むと眠れなくなるので」と無難に返したつもりだったのに、
「前のところでも食後のコーヒーとかしなかった?」「あっとさん酒もタバコもやらないから飲みにも一服にも誘えなくて、あとはコーヒータイムくらいしか無いんだよね」
と続けられ、溜息が出そうになるのを堪えた。またかよ、放っておいてくれ。
 
 仕事から帰宅して、昨年買い置きしてあったコーヒーを捨てた。家に遊びにきていた友達はそれを見ても「もったいない」とは言わず、「スマブラしね?」と言いながらオレンジジュースを差し出してくれる。
「ああ、でもお前あんまりジュース飲まないっけ」
と引っ込めかけた手から黄色いそれを受け取って一気に飲み干した。
「あれ?好きだっけ?」
僕は友達の問いには答えず、「3本勝負で夕飯奢りな」とコントローラーを渡した。優しいのだ、彼は。

サムネイルの写真は「オレンジ好きなの知らなかった、全部置いてくわ」と帰り際に冷蔵庫に詰め込んでいかれたオレンジジュースたちの一つ。彼の最初の記憶は正しくて、僕はジュースもあまり飲まないのだが。
ハードな仕事が続いたせいか連続で嫌な事を思い出した今夜、風呂上がりに一気飲みしたオレンジジュースは思ったより美味しかった。

コーヒーは飲まないけれど、
オレンジジュースは飲んだ夜。

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