高校一の狼少年になった日
狼少年という寓話をご存じでしょうか。そう嘘をつく少年の物語。そんな、寓話にあるような話を実体験し、数百人の生徒を巻き込んだ主人公になってしまった話です。そう主人公は筆者の私です。
今から30年も昔ですが、毎年8月の終わり頃にTBSの特番で全国高校囲碁選手権が1時間の番組で放送されていました。
高校1年生の私は、囲碁棋士になるという勘違いをしてしまい、折角都内有数の進学校に入学したにも関わらず、勉強を全て辞めてしまいました。
授業中は全て居眠りの時間に費やして、空いた時間は囲碁漬け。そして暇さえあれば、碁会所や都内の小さな大会に参加しまくるという生活を送りました。
学校の成績は全て赤点。毎年の追試の時だけ必死になる問題児でした。
そんな事もあり、囲碁に膨大な時間を費やした事もあり、高校1年目にして、夢の全国高校囲碁選手権に東京都代表として出場することができました。
残念な事に1年目の夏は、全国32以内程度の成績で終わってしまいました。肩をガックリ落とした私でしたが、全国高校囲碁選手権の全国放送が毎年のように放送されました。
勿論、結果は残せていないので、自分が放映される事はありませんでした。
しかし!
番組を1時間最後まで見続けていると最後の最後のエンドロールで、全国大会に出場した高校名と選手名が流れました。ほんの一瞬ですが、自分の高校名と名前が流されました。当時実家にいたのですが、家族総出で大喜びしていました。
私は、結構人見知りであり、というか頭の良い人や性格の良い人や自分に良くしてくれる目上の方には、心を開き喜怒哀楽の感情をフルに開放する分かり易い高校生でした。今でもその気質は変わらず、作り笑顔がとても苦手で、感情と表情がリンクしない大人の表情ができずに稀にアラフィフにも関わらず、ドクターからADHDだろうと言われることもあります。
そんな、人見知りな自分でしたが自分の性格を知り尽くした親友の目の前では、大はしゃぎに語りました。
「○〇ちゃん。俺囲碁で名前と高校名が全国放送に流れたんだよ。」
親友は、良かったねと心底な笑顔で応えてくれました。
・・・
高校2年目も1年目と変わらず、囲碁漬けの毎日を送りました。実際にはストレス発散にストⅡなどの格闘ゲームやその当時流行したRPGゲームなどはやりつくしていましたが。
高校2年目は、残念ながら敗退してしまいました。高校1年目から全国に出場できていたので、出場して当然と思っていたので、大変悔しい思いをしたのを今でも少し覚えています。
そして、高校3年生の予選は、危ない状況もありましたが、決勝で勝ち切り全国大会に出場することができました。この時、日本棋院が今でも出版している新聞「週刊囲碁」に自分の棋譜が掲載されました。
今思えば、開成高校などの進学校の優秀な生徒も出場して中、私の棋譜を新聞に掲載して頂いた当時の編集部の方々には、今でも感謝してもしきれません。
そして、私はその高校3年生最後の夏に全国大会に出場しました。
私は勢いよく勝ち進みましたが、残念ながら当時優勝した愛媛の同級生に完敗しました。結果はベスト16以内という可もなく不可もない成績でした。
ただし、当時高校1年と明らかに違ったのが、リックドムが担ぐバズーカのようにでかい撮影用カメラがベスト8争いの自分を5分程度撮影していました。
結果はでなかったけどやった!
高校1年の夏は、ほとんど成績も残せていないのに高校名と名前がエンドロールに流れた。そして、高校3年目にして真剣な状態が5分も撮影された。そして私は東京都で2名しか出場していない1名だ。
これらの事を総合的に判断すると、高校名と名前がエンドロールに流されることと恐らくはベスト8争いから各選手が放送される事は間違いない!
8月中旬に終了した全国大会の後、受験勉強で忙しい親友数名に上記のような事を報告しました。8月の下旬にTBSで夕方5時から1時間番組で、必ず俺がでるから勉強忙しくても、囲碁興味なくても家でTVを視てくれよな!
8月下旬に全国高校囲碁選手権が放送されました。
家族全員がTVの前に釘付けで、自分がでないかでないかと名前と高校名がでないかと楽しみにしていました。
すると同じ東京都から出場した開成高校の1年生が、解説の前評価が非常に高くTVに何度も出場していました。結果としてベスト8に残ったので当然です。
そして、俺は?
最初から最後までトイレに行かずCMの間もチャンネルを変えず最後まで視ているとベスト4~優勝者までの様子が流れ出しました。
この瞬間に自分は、撮影されたけどカットされたんだと気が付きました。
最後の望みは、毎年恒例のエンドロール。
アナウンサーがその年の全国大会の様子を棋士と締めの挨拶をしだしました。まだ大丈夫。エンドロールがあるさ。
アナウンサーがご視聴有難うございましたと言った直後、CMがながれそのまま放送は終了しました。
エンドロール!!!!(涙)
なんと、その年から番組の編集が変わったか、個人情報の観点か分かりませんが、名前と高校名が流されなくなりました。
・・・
私は、放送直後親友数名に謝りの連絡をいれました。折角時間を取ってくれて興味のない囲碁を視聴してくれてごめんなと。
親友は、笑いながら視聴してくれた事と残念だったねと慰めてくれました。
自分は、親友の優しさが嬉しくて、嬉しいと同時に異様な悔しさがでました。
・・・
8月下旬の放送から1週間程度して、夏休み後の初登校。いつも通り学校に入ると普段とは様相が少し違いました。
普段距離のある仲が良い訳でも悪い訳でもない、気さくな同級生達がこぞって
「俺囲碁全然興味ねーけど、お前と高校名がでるから1時間視たよ」
とクレーム半分と本当に出場したのという懐疑半分、不思議な気持ちで相手も声をかけてくれました。
作り笑顔が下手な自分が、必死に作り笑顔をして「ごめんな、ありがとうな」しか言えなかった。
親友数名が過去3年間のTV放送の状況をさかなクンのようにテンション高く舞い上がって嬉しそうに語った自分に善意に感じ取り、親友から更に親友へと気が付けば、高校3年生全員とその下級生の一部に口コミで伝わったのだ。
更には、自分の同級生がTV出演するもしくはエンドロールで名前と高校名がでるからと、皆自分のために高校受験の追い込み忙しい中、番組表をチェックし家族でTVを視てくれたのだ。
そう、気が付けば嘘を一切言っていないのだが、結果として「高校一の狼少年」になっていた。
当時を振り返ると都立の進学校だったお蔭もあり、皆優しい人達ばかりだった。今思えば、大学受験の追い込みシーズンで大変な時期に高校3年生全員の1時間を奪い取るという罪を犯したのは、その高校では自分が初めてだろう。
周囲の人達は、現役合格のための追い込みをする中、私は留年しないための追試を受けていた。
・・・
今の囲碁キッズ達は、とても優秀で囲碁もできるし、きちんと受験勉強もしている。そして、私のように勘違いをして道を外す(浪人したり、以後の人生でちょっと苦労する)という事をしていない。
ここ1~2年、高校生の有とあらゆるイベント事がコロナで自粛になったり、高校生の全国大会が中止もしくは辞退という事を平気で大人達はやっている。
大人達は自分達の社会や所属組織の建前は重視したり、自分達の利益のみ優先している。オリンピックはやるけど高校生達のイベント事は中止にしてしまう。
更には、ワクチンの接種順番にしても非就労世帯の年寄りから接種している。お年寄りは、重症化しやすいという理由だが、結局は有権者の票がその世代に多いからその世代を優先している。ご高齢者でクラスターの原因になるのは、介護している人達からの経路が殆どなのでやはりそちらから接種が正しかっただろう。
自分は総合的に判断して、ワクチンは打つことができる高校生以上の若手から優先して欲しかった。
人類皆平等とは言え、言葉は悪いが、人生終活している年寄りの1年より高校1年の青春はとても価値が大きい。
こんな大切な事を理解できない大人達が要所要所で見せかけのリーダーシップをとっている。子供達の大切な青春を守れないリーダなど要らない。
平成・令和の子供達には、今の馬鹿な大人達を反面教師にして、20歳以上になったら自分達の世代から頼れるリーダー達を選んでいかなければならない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?