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技術者目線らしくないペアレンタルコントロール機能の話 2/2

ペアレンタルコントロールは、PC、スマートフォン、ゲームコンソールなどの個人向けICT機器(以下、貸与ICT機器)の運用ルールの構築において要を成す機能だ。
本稿では、貸与ICT機器の運用ルール作成の際必要になる知見でもあり、子どもが説明を求めた時のよりどころになる知見を中心に、技術背景を含めたペアレンタルコントロールの機能や、医学的根拠に基づくICT機器の運用環境に関する解説を行う。
某都道府県の作った、ネット・ゲーム依存症罹患抑止啓発用資料の間違いも指摘するので、その県にお住まいの保護者や教職従事者は特に参考にしていただければ幸いだ。

オンライン環境は「残酷すぎるほど平等な世界」

そもそも、コンピューターをオンライン環境に接続した時点で、そのユーザーは、成人相当の対人コミュニケーションのスキル、物事に対する判断力、ICTリテラシーを持っていると扱われる。オンライン環境下では、使用している人のリアルの姿がわからないからだ。実際、初見では、そのユーザーが子どもか大人かは判断できない。だから、いったんは成人しているユーザーとして判定する。そのような人は多いかもしれない。
悪意のある人は、オンライン環境に集うユーザーの挙動を見て、仕掛ける攻撃に対する耐性の強弱を判定する。もしくは、耐性の弱い人がハマるように罠をこっそりと仕掛ける。
ほとんどの場合、オンライン環境下では、対人コミュニケーションのスキルや、トラブルを招いたり遭遇したりしたときの判断力については、こどものそれだと足りない。悪意のある人は、それが足りないと思われる人間を対象として、容赦なく獲物にする。子どもでも関係ない。正確に書くと、結果として引っかかった「哀れな獲物」が子どもだっただけの話だ。加えて、子どもが起こした金銭的なトラブルであっても、未成年者契約の取り消しが適用されない事例は多い
その意味では、オンライン環境は、残酷すぎるほど平等な世界なのだ。

保護者は、この事実を我が事のように認識しておきたい。認識していないと、スマートフォンを手に持って出かけたお子様が「最悪の姿で帰宅する」こともあるからだ。これは脅しではない

その“脅威”があるにもかかわらず、某都道府県は、貸与ICT機器の運用ルールの作成の目的を「インターネット / ビデオゲーム依存症の罹患を抑止するため」として、県民に公然と啓発をしている。これは全くの誤りであることがここでわかる。真の目的は、第1部に明記している。

ペアレンタルコントロール機能で「できること」と「できないこと」

本稿では、下図の機能大別に従って説明する。

スライド8

A. コンテンツのフィルタリング

定められた年齢層ごとに、アクセスすることが好ましくない内容が含まれたコンテンツへアクセス不能にさせる。本稿では、アプリも「コンテンツ」とみなしてカテゴライズした。
上図にもあるが、フィルタリングは、ペアレンタルコントロール機能の一部でしかない。
フィルタリング対象となる各ジャンルのコンテンツについて、導入方法や設定手順以外の重要な事柄を紹介する。

A-1.Webページのフィルタリング

実際のフィルタリングアプリにおけるコンテンツのアクセス制限内容と年齢カテゴリーの関係は、以下の情報を参照されたい。本稿ではKDDI社のものを紹介するが、この内容は、日本国内の携帯電話キャリア各社共通となっている。

今後はフィルタリングに際してAIの導入が進むと予想されるが、AIに投入するフィルタリングのルールと学習方針は、人間が作るものだ。これは、実際は、フィルタリングをAIの代行の形で人間が命令していることと、学習の結果によっては意図しないものまでフィルタリングされてしまうことを意味する。不具合のないコンピュータープログラムは存在しない。AIも、そんなコンピュータープログラムの一種だ。つまり、コンテンツのアクセス(使用)に関する最終判断は、必ず、保護者が行わないといけない

フィルタリングアプリでは判定できないWebページや、Web上での行動に関する安全性の担保については、マルウェア対策アプリで補完する。というのは、マルウェア対策アプリには、最新の情勢を反映させた、Webブラウザー経由でアクセスできるWebページや、ダウンロードしたファイルの安全性確認を行う機能を有しているからだ。故に、貸与ICT機器には必ず、マルウェア対策アプリを導入し、常に最新版に更新する。

有償のマルウェア対策アプリは、広告表示が一切ないほか、製品によっては、マルウェア駆除サービスなど、安全性をさらに強化するサービスが付属する利点がある。機能が制限されている場合はあるが、製品版をお持ちでない方は、ご契約のインターネットサービスプロバイダーが、契約者向けサービスで提供しているものも検討されたい。

A-2.アプリケーションソフトウェア(アプリ)のフィルタリング

フィルタリングアプリのリストにあってもなくても、アプリの使用前は、親子で一緒にそのアプリの使用許諾契約書をよく読むようにしよう。そこには、本投稿時点でガールズに大人気のアプリ『Instagramは13歳以上でないと使用できないと明記されている。いかにお子様に「クラスメートはみんな使(以下略)」と焚きつけられようとも、この年齢未満の人では法的に使用できないのだ。
というように、お子様が使用を希望するアプリの使用許諾契約書やユーザーレビューをよく見て、保護者がインストールおよび使用の許可を付与するか否かを決めることが重要だ。
使用許可を付与したアプリについては、インストール後の初期設定を適切に行う。特に、対人コミュニケーション機能があるアプリは、設定内容を誤ると、サイバー犯罪と、それを介したリアル世界での犯罪にお子様が遭遇する恐れがある。以下の事件は記憶に新しいだろう。この事件を起こした犯人が使ったコミュニケーション系アプリはTwitterで、そのアプリでやり取りされたメッセージに「釣られた」被害者の年齢は、12歳だった。

ここで、Twitterの使用許諾契約書の内容(使用許諾できる年齢:13歳以上)と、この事件の被害者の年齢を突合していただきたい。そこからは、この事件は、被害者の親御さんが、貸与ICT機器に適切なペアレンタルコントロールを施していて、お子様がそれに理解を示していれば、未然に防げた可能性がある。

重要なので何回も書くが、オンライン環境において、無知な者や弱い者は、格好の「狩猟対象」になる。

A-3.ゲームサービス・映像コンテンツ(映画)のフィルタリング

貸与ICT機器は、アプリに組み込まれたレーティング情報と、ユーザーアカウントの登録情報を突合し、ユーザーの年齢に対応したゲームサービスの起動可否を決める。
例えば、本投稿時点でキッズに大人気のビデオゲーム『Fortnite』は、レーティング制度(CEROでC指定)に基づけば、15歳以上でなければ原則起動不能になる。
レーティング制度による審査が通っていないゲームサービスについては、お子様が使うアプリの使用許諾契約書やユーザーレビューをよく見て、アクセス許可を付与するか否かを決める。なお、レーティング制度については、用語解説を参照されたい。

[ レーティング制度 ]
業界が独自に定めた内容に従って、購入者が、年齢層ごとにふさわしいコンテンツかどうか簡単に判断できるよう支援する制度。Web上の製品紹介や店頭販売品のパッケージには、レーティング制度に基づいたアイコンが掲示される。アイコンなどの詳しい内容は、直下のスライドに記載している。

A-4.映像コンテンツ(YouTubeやニコニコ動画にあるもの)のフィルタリング

コンテンツ提供者が、信頼できる事業者(TV局など)や個人(UUUM社などのエージェント事業者所属クリエーター)でない限り、すべての映像コンテンツを怪しいと疑う。「エルサゲート」も含まれる映像コンテンツの品質は文字通り玉石混合で、著作権法違反をしているものも少なくないからだ。映像ゆえ、視聴覚の面でもインパクトが大きいことが状況を厄介にしている。
保護者は、これらの映像コンテンツに対しては、TV番組以上に、その視聴時間の長さではなく、コンテンツの内容を注視しなければならない。なお、エルサゲートについては、用語解説を参照されたい。

[ エルサゲート ]
特に年齢の低いお子様にとって倫理的に良くない内容を含んだ映像コンテンツの総称。フィルタリング用アルゴリズムを騙すよう編集されている。この性質があるので、YouTube KIDSの映像リストにも紛れ込む。一見するとお子様向けの無害な内容だが、徐々にお子様にとってまったくふさわしくない内容に遷移する。その醜悪な内容は、大人でも不快になり、物理的に身を引くレベルだ。
なお、この言葉をここで初めて知った保護者としてのあなたは、ICTリテラシーについて非常に勉強不足であることを認識していただきたい。

樹形図的に技術を辿ると、YouTubeやニコニコ動画の映像を再生しているときの貸与ICT機器は「個人の志向に最適化された映像を自動選択して次々に視聴でき、かつ、家族のチャンネル争いから解放された占有型TV」と推測される。かつて子どものとしてのあなたが体験したTV視聴体験のある意味理想形でもあり、上位互換にあたる存在だ。占有型なので、保護者が介入しにくい特徴がある。

B. デバイスの使用時間の制限

貸与ICT機器の使用ができる時間帯を決める。曜日ごと、もしくは、アプリごとに「貸与ICT機器の使用ができない時間帯」を設定することによって規定する。時間を超えた場合は、貸与ICT機器の画面に警告表示が出る。この機能は、生活サイクルの乱れを防ぐこと、その付随効果として、睡眠時間の確保を確実に行うことが目的だ。これ以外の目的で設けられている機能ではない。

ビデオゲームの遊びすぎで人が死亡した事件において、医学的に見た直接的な死因は「睡眠不足」である。

人間の睡眠時間は、医学的な根拠に基づくと、6~8時間は必須だ。科学的にも、ノンレム睡眠とレム睡眠の1サイクル1.5時間を4~6回繰り返すアルゴリズムを脳が採用しており、ヒトはそれ前提で生命活動を行うことが判明している。

第1部で触れた「お子様の自己管理能力」には、タイムマネジメント力も含まれる。保護者から見れば理想ではないかもしれないが、お子様が「その条件ならできるよ」と応答があった取り決めの内容を尊重されたい。

C. 課金に対する制限

文字通り、有償のアプリやアプリ内の有償コンテンツを購入不能にさせる。機能大別図でも示したが、携帯電話各社のフィルタリングアプリでは、この項目については設定がされないことがある。
課金制限を行う目的は、金銭管理能力の向上の促進と、犯罪行為の抑止だ。これ以外の目的で設けられている機能ではない。そして、以下が、課金制限を行う正しい根拠だ。ここについては、保護者としてのあなた自身の人生を汚さないためにも、誤った知見を持つことは絶対に避けたい。

[ クレジットカードの利用規約違反につながる ]
クレジットカードを携帯電話利用料金の決済に用いている保護者は、自身の許可のもとでない限り、絶対に子どもにクレジットカード決済をさせてはならない。それは、以下の理由がある。
クレジットカードの利用規約には「原則、カードの契約者以外の人がカードを勝手に使用することを許してはならない」と明記されている。規約に明記されていることとは、違反すれば法的拘束力を伴う懲罰が課される恐れがあることを意味する。つまり、お子様が保護者のクレジットカード情報を勝手に貸与ICT機器に登録してお金を溶かすことも、規約違反(善管注意義務違反)になる。この場合、訴訟になれば、カードの管理責任について保護者のほうが問われ懲罰が課されるだけではなく、カード契約者以外の人=お子様、がカードを勝手に使ったことによって、お子様にも懲罰が課される(詐欺罪が適用される)恐れがある
そこについては、未成年であっても法は容赦しない。実際、この類の事件では、「未成年者契約の取消」が適用されない事例が多い。

決済手段がクレジットカードでない場合は、課金のために親の財布から現金を盗む行為に走る恐れもある。

また、課金額の多さは「金銭管理能力」の問題で、ゲーム行動症や情報セキュリティの強度とは一切関係がない。ただし、生まれ持った特性「ADHD」のある人には関係性が高そう、との研究結果は出ている。

以下は、とある香川県議会議員が公開した「課金の危険性に関する私見」だ。県議は「内容を見直した」そうだが、それにもかかわらず、上述した正しい根拠に基づく記載内容が存在しない。法令を立案する立場にある者が、法令で定める対象に関する正確な知見を備えていないことは、憂慮すべき事象だ。

D. 変更できるシステム権限の制限

文字通り、貸与ICT機器のシステム設定で変更できる内容を制限させる。以下のように、ICT機器の形態によって制限できる内容が異なる。

この設定項目については、以下の特徴があることに注意が必要だ。

D-1. ゲームサービス内のペアレンタルコントロール機能の有効範囲

システム機能の制限については、ゲームサービス内の「ペアレンタルコントロール設定」を介してできる場合がある。ただし、これは、そのゲームサービスを起動しているときだけしか動作しない。ゆえに、保護者は、システムソフトウェアの機能設定とセットで、当該機能のあるゲームサービスごとに、お子様の年齢やICTリテラシーの習熟度に応じて適切に設定する必要がある。

D-2. ペアレンタルコントロールには、ネットワーク接続を切断する機能はない

LAN端子のないICT機器に関しては、ネットワーク接続を切断するには「機能設定」から行う。無線LAN接続の有効化と無効化、機内モードの有効化と無効化が該当する項目だ。一方、LAN端子のあるICT機器に関しては、物理的にケーブルを抜くか、デバイス管理アプリから有線LANデバイス無効化の操作を行うことで可能だ。
要は、ペアレンタルコントロール機能には、当該設定項目は存在しない。

D-3. ICT機器には、通信容量制限をかける機能はない

データ通信量については、月ごとの総使用量や、アプリごとのデータ通信量を取得できる。この機能は、特に、モバイルルーターの契約プランやスマートフォンのテザリングで設定されている月ごとのデータ通信総量と突合させやすくするために設けられている。
月ごとのデータ通信の総使用量については、設定した上限値に迫ると注意喚起の表示を出せるが、システムソフトウェアは、それ以外のことはしない。下図の赤線部分にも、その旨が記載されている。
いずれも、機器本体設定の設定項目に属する。

notecontribution002_02_データ通信容量モニター
PC(Windows 10採用製品)の場合

D-4. システムソフトウェアにペアレンタルコントロール機能が統合されつつある

昨今では、ボイスチャット(マイク)の無効化など、ICT機器のシステムソフトウェアの提供するペアレンタルコントロール機能と重複、干渉するものについては、システムソフトウェア側に統合されつつある。ユーザーにとっては前述のとおり作業が煩雑なうえ、技術的に見ても、ソフトウェアの競合が原因で不具合を起こす事象があるからだ。これは、システムソフトウェアや基本ソフトウェアのメーカーが推進している動きでもあるので、覚えておきたい。

E. 貸与ICT機器の使用状況の監視

機能制限やアクセスコントロールを設定して「仕事が終わった」と思ってはいけない。情報システム全般に言えるが、設定が終わり運用を始めた瞬間、「システムの監視と保守」という真の仕事が始まる。ここを手抜きすると、ペアレンタルコントロールという情報システムは、家族みんなが望む形として機能することはない。
お子様のアプリやコンテンツの利用状況は、管理者である保護者所有のICT機器にインストールされた管理者用アプリからいつでも参照できる。ルール違反がひどい場合は、そのアプリを操作して強制的に貸与ICT機器のアプリを終了させるなどの措置ができる場合がある。これが「監視」だ。
また、お子様の年齢、ルールの順守状況、ICTリテラシーの習熟度合いに応じて、お子様と話し合いながら、お互いが納得のいくよう、適宜ルールの変更を行うよう努めたい。これが「保守」だ。最新の情報セキュリティやアプリの機能に関する情報を保護者自身も勉強し、知識を最新版に更新しておこう。サイバーセキュリティの脅威の内容も、常に更新されるからだ。

そのほかの注意事項

ここからは、ほかの「ペアレンタルコントロール機能によるお子様の保護」では書いていることが少ないが、実際は重要なことであり、かつ、ペアレンタルコントロール機能を強化、補足できる事柄を挙げる。

1. 全てのWebページの内容を性悪説的に捉える

Webページの内容は玉石混合だ。Googleなどの検索サービスで表示される項目でより上位に表示させるため、あるいは、Webマーケティングの世界における視聴率獲得を重視するためにデタラメやウソの情報を書いているもの、煽情的な見出しと文面に編成したうえでコンテンツを掲載しているものは、Web上に遍在している。

加えて、一見まともな内容だが、実際は個人情報を集めるサイバー犯罪支援のために作成されたWebページもある。

さらに、極めつけと書いては語弊があるが、技術的に見れば、WebブラウザーのURL入力欄に表示される「鍵マーク」ですら、必ずしも安全を示すものとはいえない

そのような「罠」満載のWebページが平然と混じっている以上、全てのWebページの内容を性悪説的に捉えるくらいが、警戒レベルの基準として妥当だ。

要は、技術的に見れば、フィルタリングアプリがあろうがなかろうが、Webページの内容を最終的にフィルタリングできる存在は、人間の持つメディアリテラシーと、技術的知見に基づいた正確なICTリテラシーの知識だけなのだ。それをお子様が学習するには、大人というガイドを付けてオンライン環境を利用するしかない。ガイド役に知識がないことも危険だが「危険だから」とお子様をICT機器から隔離すること、「そんなことは難しいから」とガイド役を放棄する行為はさらに危険だ。そのようなことをすると、お子様は、家ではそのスキルを習得できなくなる。その結果将来困るのは、お子様自身だ。

2. 年齢詐称してICTサービスに登録させない/しない

年齢詐称は、ペアレンタルコントロール機能を正常に機能させない原因になるほか、深刻ではないがそれ以外の予期しないシステムエラーも招聘する原因になる。それ以前に、年齢詐称が「使用許諾契約違反行為」だ。このため、ユーザーアカウントの年齢詐称登録が原因で起こった民事事件については、未成年者契約の取り消しが効かない恐れがあることも、忘れてはならない。

3. 情報セキュリティの強度を高める

言うまでもないが、お子様のものも保護者のものも、登録したサービスのユーザーアカウントの認証情報や認証手続きなど、情報セキュリティの強度に関わる項目の設定を手抜きしないようにする。重要なので何回も書くが、オンライン環境において、無知な者や弱い者は、格好の「狩猟対象」になる。

4.ソフトウェアの機能に親しむ

貸与ICT機器の運用ルールをより効果的に稼働させるためには、それにプレインストールされている、もしくは、任意にインストールしたソフトウェアが備えている機能を勉強し、親しむことも必要だ。貸与ICT機器の運用ルールの作成においては、公開権限通知の設定を優先して勉強されたい。

前者は「個人を特定できる情報を含むコンテンツをだれに対して情報を公開するか、その範囲を決定する設定」だ。設定を適切に行わない場合、お子様に対してはストーカー行為、家に対しては不法侵入や空き巣などの犯罪を招く恐れがある。

後者は「どのような情報を、あるいは、誰からの情報を、どのような方法でユーザーに伝達するかを決定する設定」だ。
特に、お子様のスマートフォンの長時間利用は、通知の設定が適切ではないことが一因である可能性は否定できない。「アプリ経由でクラスメートが応答してきたら即返信しないと嫌われる」圧力は、お子様にとっては拘束力が強い。

本当に知らせてほしい情報は何か。もしくは、非常時に置かれていても連絡があったことを知りたい人は誰なのか。貸与ICT機器の運用ルールを決めたり見直したりする際、お子様と一緒に、その優先度を考えてみよう。先の条件に当てはまるもののみ明示的な通知を行うよう設定すれば、貸与ICT機器に張り付くお子様の時間を減らせるかもしれない。

5. 法的な知識も勉強が必要

著作権法の勉強は、すべてのコンピューターユーザーにとって必須と心得よう。お子様がビデオゲーム内のイベントを静止画で撮影して知人とSNSやブログで共有するだけの行動にも、ゲームパブリッシャーが規定しているゲーム画面の掲載のルール(二次的著作物の扱い方)や、知人プレイヤーのアバター画像の扱い方(肖像権)が関わってくる。現在では、Webを介した情報公開が誰でもできる。オンラインでの表現活動を楽しく堂々と行うためにも、最低限のルールは覚えておきたい。

加えて、著作権法を知れば、ビデオゲーム、漫画、音楽など、コンテンツ産業の正式なサポーターになれる。「漫画村」などの違法コピーコンテンツ提供サービスは、著作権法の知識があれば、お子様に利用を避けるよう諭せたはずだ。

情報セキュリティの観点から見れば、違法コピーコンテンツ提供サービスは、「無料」という甘美な匂いで「獲物」を引き寄せるマルウェアの巣窟だ。違法コピーコンテンツ提供サービスをさまようことは、無数の地雷が埋まった密林をさまよう行為に等しい。

一方、誹謗中傷対策に関しては、被害者が法的手続きを履行する際の煩雑性を軽減する目的で、プロバイダー責任制限法の法改正が行われた。保護者と教職従事者は、変更に関する概要を注視しておきたい。

6. リアル世界で直に相手と対戦できるゲームから与える

遊びを通して対人コミュニケーション力を学ぶためには、リアル空間で直に相手と向き合って対戦できるゲームからお子様に与えることをお勧めしたい。お住まいの地域で、将棋や囲碁、対戦型ビデオゲームが楽しめるイベントが開催され、それにお子様が行きたいと希望するなら、同伴して一緒に参加してみよう。そこでは、様々な年齢の人とゲームを遊ぶことになるので、お子様の対人コミュニケーション力の経験値アップが期待できる。ビデオゲームなら、将棋などの伝統的な対戦型テーブルゲームをデジタル化したものや、『桃太郎電鉄』『いただきストリート』『マリオカート』(3作品ともCEROでA指定)など、TVの前で一緒に遊べる作品からデビューさせよう。

先述したが、大人でも子どもでも、オンラインゲームにデビューするには、対人コミュニケーション力という「装備」は必須だ。あなたは、ゲームに負けた、あるいは、プレイの経過が思わしくないからといった理由で、対戦相手やチームを組んだ人に暴言を吐いたり、即サインアウトしたりする人とまた一緒に遊びたいと思うだろうか。プロのe-Sportsプレイヤーは、そんな行為は決して行わない

7. 意外と重要:「やっちまっても」怒らない

お子様が「やっちまった」場合は、状況を子細に尋ねるほうを優先させる。実際の仕事でもそうだが、トラブルの対処については、発生を完璧に抑止するよりも、発生後の処置を冷静に正しい順序で行うほうが重要だ。大人もICTや法の知識を勉強しないといけない理由はここにある。これらを知っているのといないのとでは、トラブル発生時に行う手続きの正確さと迅速さにおいて彼我の差を生む。子どもに対して激しく𠮟責しても、発生したトラブルが収束することは絶対にない
もっとも、お子様が「やっちまう」前に、「ここまで書いたことを実行していない」というリスク管理のための環境整備の手抜きを「大人側」でやっちまっていないかどうかは、お子様を質す前に行っておきたい。リスク管理に手抜きがある状態で事件が起きれば、その管理ができていない側、すなわち、保護者が厳しく追及される

例えば、上で挙げた事件が起こった本当の原因は、ゲームの存在ではない。保護者が持つスマートフォンの物理的な管理方法に不備があったことと、親のスマートフォンを子どもが容易にロック解除できる環境だったことだ。「ゲーム」の文字列に目が奪われると、記事内にある以下の文字列を見落とす。

9歳の女児は携帯電話を持っていなかったが、自宅で父親のスマートフォンを使ってオンラインゲームをしていた

8. 医学的に正しいICT機器の利用環境を構築する

正しい科学的な知見を備えて、お子様が貸与ICT機器を使用することで発生する健康上の悪影響を抑止するよう努める。ICT機器は、長時間使うことより、休憩を入れない、無理な姿勢で使う、暗い空間で使うなど不適切な運用環境で使うほうが、健康上の悪影響は大きい。それが、科学的知見に基づく事実だ。
ちなみに、ICT機器の使用より、読書や筆記のほうが視力低下の度合いがひどい旨の研究結果がある。その意味でも、ICT機器の長時間利用が視力低下や姿勢の悪化(外科的症状の悪化)を招くと「断定する」表現は、間違っている

ICT機器については「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に基づいて、使用環境を整備する。これは、長時間ICT機器を業務で使うことが前提の環境で仕事をする(個人含めた)事業者向けに提供される、厚生労働省謹製の資料だ。この資料は、医学的根拠に基づいて作成され、30年以上にわたってビジネスの現場で運用されてきた実績がある。

この資料に従うと、貸与ICT機器を使用することで発生する健康上のリスクを軽減できる環境は、以下のとおりとなる。お子様の視力低下や姿勢の悪化を憂う前に、以下のスライドの内容を精読の上、できる限りの対策を行っていただきたい。

まとめ:契約内容(ルール)に盛り込む事柄

第1部の内容も踏まえた、具体的に盛り込む貸与ICT機器の運用ルールの項目のあらましは、以下のスライドのようになる。スライドの記載事項のとおりに貸与ICT機器をお子様が運用すれば、情報セキュリティに関するリスクや、リアル世界でのトラブルや犯罪に遭う確率を大幅に減らすことができるだろう。スライドでも触れているが、貸与ICT機器で許可するWebサイト、アプリ、使用可能時間については、お子様が納得するまで話し合って詰められたい。

最後に:カスタマーセントリック思考とリスク管理のできない大人は、子どもにコンピューターを与える資格はない

仕事でもそうだが、他者はあなたの思った通りに行動をすることは絶対にない。一個人としての人格を持つ大人がそうなのだから、子どものそれもそう捉えて然るべきだろう。その行動の工程や結果から、失敗を含めて様々なことを学ぶことも、大人も子どもも変わらない。

第1部で、貸与ICT機器の使用にかかるルールの作成においては、子どもが何をしたいかを最大限に尊重しなければならないと書いた。

それは、大人が縛れるものではない。つまり、コントロールできないものだ。ただし、その選択肢を採ったときに想定される障害の内容の予測と、万一それを起こした時のダメージの程度は、完全ではないがコントロールできる。
保護者が本当にしないといけないことは、それだ。それをするために、事実(ファクト)と正しい科学的根拠(ロジック)に基づき、リスクの内容と、リスクを軽減する手管を学ぶ必要がある。そこに精神論が入る余地は「一切」ない
業務においても、安全な作業とは、リスク管理がしっかりできている作業を示す。すなわち、正しい知識に基づき、事前に予想されるリスクを取り除き、リスクが発生した場合はそのダメージを抑えることのできる作業だ。(特に)機械・電気系エンジニアの仕事でそれができない者には、安心して作業を任せることはできない。このことは、貸与ICT機器の使用の管理についても同じだ。厳しいことを書くが、手持ちのICT機器のリスク管理ができない大人は、その子どもに安全にコンピューターを使わせることはできない。むしろ、使わせることで子どもにさらなる危険を招聘する。
逆に言うと、保護者としてのあなたが、そこを意識して正しいリスク管理ができるよう「実践」していれば、お子様などのあなたの周りにいる人も、安心して「作業」ができる。

そして、貸与ICT機器を使うお子様に対する姿勢においては、カスタマーセントリック思考を心がけたい。「貸与ICT機器を使うルール」という商品のユーザー=お客様は、保護者(あなた)ではなく、お子様だからだ。親に対するお子様のいろいろな行動は、親としてのあなたの考えや思惟が投影された「クレーム(要求)」なのだ。

ビジネスにおいて、お客様に商品やサービスを受け入れてもらう(満足を得て契約してもらう)には、自社サービスや製品をもってお客様の悩みを解決するため、お客様の置かれた状況を理解し、お客様の視点に立って「商品」を提案しなければならない。それと併せて、法に触れること、お客様にとって危険や不利益がある事柄については、必ず丁寧に説明し、納得してもらわないといけないはずだ。その意味では、カスタマーセントリック思考は、営業職従事者以上に、保護者が持つべき方針といえる。

前述したが、子どもという一人の人格を持った人間は、あなたがコントロールできるものではない。子どもの行動(興味、関心を含むもの)を完全にコントロールできないなら、その行動を見守りつつ、その行動の結果発生が予想される障害の除去やリスクの軽減を行うことくらいしか、保護者はできない。それをすることが、貸与ICT機器を使うルールの作成において最も重視する方針であることは、第1部で述べている。

さあ、奮起の時だ。お子様と、保護者としてのあなたの双方が満足できる「契約」を円満に成立させるために。お子様のコンピューター体験にかかる安全と健康の不安点を取り除き、これからの時代が求める力を、その体験を通じてお子様が自主的に習得できるように。それに必要な正しい知識の多くは、本文書に掲載済みだ。


以下のようなデタラメな内容満載の啓発資料は、それを大いに妨げる。デタラメな理由を指摘した文言の根拠は、ここまで精読いただいたあなたなら、ほぼすべて理解いただけるだろう。ちなみに、このデタラメな内容満載の啓発資料の作成者は、香川県庁と香川県教育委員会だ。税金を使い作成している分、質が悪い。…よくも、そんなことをする!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見やご感想は、著者 (Twitter:@Attihelo37392M)までいただけると幸いです。

参考文献:
・情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(厚生労働省)
・心のお医者さんに聞いてみよう  ゲーム依存からわが子を守る本 (花田 照久、八木 眞佐彦)


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