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鉄道を使って『メネラウスの定理』を証明してみた

 東雲の好きな定理選手権で毎年上位入賞する、『メネラウスの定理』というものがある。

 上のようなキツネ顔の図形において、上記の式が成り立つ、という定理である。高校受験や大学受験で数学を使うなら必ず押さえておきたい、定番中の定番だ。中学受験経験者なら、小学生の時点で教えられていたという人も多いだろう(ちなみに、思考力育成の阻害になるので小学生にはメネラウスの定理を教えるべきではないという立場の教師もいる)。

※「拡張版の説明はしないのか?」とムズムズしている方もおられると思いますが、一旦メネラウスの定理はこれとして進めます(この企画の最後に触れます)

 上記の式を左から分子→分母→分子……と見ていただくと、BP→PA→AQ→QC→CR→RBと、点Bから出発して色々回ってまた点Bに帰ってくるひとつの道筋のようになっていることがわかると思う。私がメネラウスの定理を習った時は、この経路の覚え方を「ぴょん、ぴょん、ぴょ~~~ん、バック、ぴょん、ぴょん」とリズミカルに教えられた。このリズム感と印象的なキツネ顔で気に入っていたので、東雲少年は幾何の問題を解く度に「メネラウス使えないかな~」と楽しみにしていた。
 大人になった今でも、日常生活でふとキツネ顔を見つけると、メネラウスの定理を使いたくなる。例えばアステラス製薬のロゴとかね(検索してみてください)。別に見つけようと意識して探しているわけではないのだが、キツネ顔を無意識に求めるように身体が訓練されてしまっているようである。病気かな?

 「日常生活」には当然電車内も含まれる。
 先日電車に乗った時、席が埋まっていたのでドア付近に立つことにした。そのドア上には路線図が掲示されていて、何となく眺めていた。改めて見ても首都圏の路線図は複雑だな、鉄道オタクだったからよかったけどそうじゃなかったら大混乱だな、などと考えていた。これだけ複雑に絡み合うように張り巡らされているなら、この世の全ての図形がこの中にあるのでは? とさえ思えてくる。

……ん?

この世の全ての図形がある……?

当然全てあるわけはないが……
もしかしたら、キツネ顔ぐらいならどこかにあるんじゃね……?

えーと
相互に乗換できる路線l、mがあって、路線l、mどちらとも乗換できる路線n、oがあって、路線n、o同士も乗換できて、2路線の組み合わせを考えた時全て乗換駅が異なればいいのか?

うーん

めんどくせ〜(笑)

てか路線図複雑すぎて探すのきつ(笑)キツネだけにキツ(笑)いろんな路線組み合わせてキメラにして真っ直ぐに強制矯正したらできるかもしれんけど(笑)無理矢理キツネ顔作っても(笑)なんか(笑)おもんないし(笑)
はいぃ~撤収撤sh……


 あった。

 しかもめっちゃ狭い範囲で見つかった。東急は3路線を絡ませる大貢献ぶりだが、東急の路線設計者はメネラウスの定理を使われることを完全に意図してこの路線構成にしたということは間違いなく確定的に明らかに言えるといって一切差し支えないだろう。また、大井町、目黒、渋谷いずれも終端駅なのがなんとなく芸術点高い気がする。

 加えて驚愕したのは、地図上で見てみてもかなり綺麗なキツネ顔だということである。
 え? めっちゃすごいんでは?? うわ~~~すご~~いすご~~~~~い(語彙力運転抑止)

なんて興奮している最中に気付いた。

ん? てことは……

鉄道を使ってメネラウスの定理証明できるな……?


■メネラウスの定理を"鉄道で"証明する鬼才・東雲

 手法はこうだ。

 地図上で見てもかなり綺麗なキツネ顔ということは、上図における各線分の長さは、その区間の乗車時間で表せると言ってよい
 従って、

①:大井町~目黒の乗車時間
②:目黒~渋谷の乗車時間
③:渋谷~自由が丘の乗車時間
④:自由が丘~田園調布の乗車時間
⑤:自由が丘~大岡山の乗車時間
⑥:大岡山~大井町の乗車時間
を取得し、メネラウスの定理に当てはめ、矛盾しない結果が得られることを以て証明とする。

 なお、埼京線は目黒を通過する(そもそもホームがある線路を通らない)が、駅の真横を通過するため、目黒で区切って乗車時間を測定することは容易である。

 ちなみに、最初のほうで述べた「ぴょん、ぴょん、」の覚え方における始点を大井町とするか田園調布とするかで東急大井町線を通るか東急目黒線を通るかが変わるので、東急大井町線のデータを採るなら東急目黒線区間である
[5]:大岡山~目黒
[6]:田園調布~大岡山
はデータを得る必要がないが、"一応"採っておく

 乗車時間の測定ルールは以下の通りである。

  1. 列車が動いている時間のみを測定対象とする
    即ち、途中駅がある区間においては、途中駅での停車時間を乗車時間に含めない

  2. JR線区間に対して東急線区間は駅間が短いため、測定に用いる列車種別は東急3路線いずれも「急行」とする

  3. 区間①および②の測定に際しては、目黒駅構内に境界線を設定し、その境界線に先頭車両が初めて接触する瞬間にて区切り、測定を行う

  4. 各区間にて5往復(片道10回分)し、平均の乗車時間を採る、予定だったが、昨今の実験者のプレパラートより薄き財布の惨状を鑑み、片道1回の測定とすることを許可する

■実際にやってきた

測定

 お気付きの方もいると思うが、このキツネ顔は一筆書きできる。よって、前節の図の番号は無視し、自由が丘スタートで、東急大井町線→埼京線→東急東横線→東急目黒線の順に測定していく

まずはここから
雨降ってる
マークの意味を考えてみよう

 車体側面のこのマークですが、緑の線が矢印に合流するようにちょっと曲がってるのが細かくていいですね。
 ちなみに急行用車両にはこのマークはない(……よな?)。大井町に着いた時に向かい側にいた各駅停車のマークを撮りました。

続いて大井町のりんかい線ホームへ
変なタイミングで撮っちゃった(この後先頭に移動)
目黒駅の真横を通過!
渋谷到着 昔は埼京線ホーム遠かったよね
次は東横線
らでぃっしゅぼーやのトラックみてーだな(言うて似てない)
学芸大学に学芸大学はない(学芸大附属高校はある)
で田田で田
8両用の表示が増えてる

 東急目黒線は2022年4月から8両編成の運用を開始した。今までは6両編成しかなかった。今後は順次全編成を8両にしていく。2023年3月の東急・相鉄相互直通開始を見越してのことらしいが、それがなくても向都路線で6両しかないのはキツかっただろう。

計算

 ということで、データを採ってきた。各区間の乗車時間は以下のようになった。

 それでは計算しよう。
 東急大井町線を採用し、秒換算してメネラウスの定理の左辺に当てはめると、

これを計算すると、

…………

…………と、東急目黒線を採用し、秒換算して計算すると、

おっ、ふ、おお……(脚本に反して結果が惜しくなってしまい困惑する図)

 驚天動地の事態が発生した。

 古代ギリシャの天文学者にして数学者・メネラウスが「証明した」この定理は、なんとその約2000年後に反例を提示されてしまったのである。

 私はとんでもないことをやってしまったかもしれない。このことを論文にして発表するかはかなり悩むところである。絶対に正しいと信じて疑わない世界中の数学者たちが、こんなことを認めるわけにはいかないとあの手この手を使って口封じのために私を殺そうとしてくるに違いない。

■……とは言いつつも

 さすがに2000年気付かないほど人類も阿呆ではない。メネラウスの定理が間違っていると結論付けるのは尚早であった。証明の過程において何らかの不具合があったのではないかと疑ってみるべきである。

 まず問題点として考えられるのは、鉄道路線を平面的にしか捉えていなかった、ということである。りんかい線大井町や東横線渋谷などの地下駅もあれば、東横線自由が丘などの高架駅もあり、列車はアップダウンしながら走行している。乗車時間は実際の移動距離と対応するものであり、平面として捉えた見かけ上の距離とそのまま対応させるとズレが生じる。このことが考慮できていなかったのである。

 また、他にも、
・雨が降っていたので線路状況が悪く、匠の技を備えた運転士を以てしても、ほんの僅かに精密な運行ができなかった
・電車内でストップウォッチをいじりながら写真を撮っている不審者に対し見てはいけない人を見てしまったという表情をしている女子高生の存在に気付いてしまい、当の不審者が焦って正確な測定を行えなかった
・朝ご飯がジャッキーカルパスだった
ことが可能性のある原因として挙げられる。

■再検証が必要

 とにかく、何らかの事情により証明を正しく行うことができなかったと考えよう。より精確な方法で再度検証をする必要がある。では、どうするか。快晴の日に実験を行うか? ストップウォッチを持っていることが不自然にならないように、体育の先生風ジャージコーディネートで臨むか? 朝ご飯を鮭の塩焼き定食にするか? ……


……いや、違うな……

最も精確な方法であり、完全に精確な方法は…………やはり…………




行くしかねえな…………

■次回予告

メネラウスの定理の証明に「鉄道を用いる」という前代未聞の挑戦をした東雲。
しかし、寸分の狂いも許されないその作業は、さすがの鬼才にも一度の挫折を与える。
これまで数多の困難を乗り越え偉業を成し遂げてきた東雲は、2000年の歴史に名を刻むべく、ついに封印されし2本の宝刀を抜いた!!

東雲「俺には…………徒歩しかないんですよ……!!(SASUKE)」

次回

徒歩で『メネラウスの定理』を証明してみた

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