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「本物」に触れる


梅雨に入った。

僕は車の中で聴く雨の音がとても好きだ。

周りが雨に降られている中で自分たちのこの狭い空間だけが守られている感じ。それと車の屋根で飛び跳ねる雨粒の音。

そんな車内の感覚を頭に思い浮かべていると、子供の頃のことが思い出される。隣の県まで旅行に行った時、高速道路を走る車の後ろの席で今にも眠りそうな子供の自分、そして静かにかかる音楽。これ以上の安心感ある空間が他にあっただろうか。


家族で出かける時に、車で流れているのはいつもミスチルだった。そう、父も母もみんなミスチルが好きだ。Mr.Childrenが好きだ。

僕の音楽のための耳はミスチルの曲によって育てられたといっても言い過ぎではない。気がついた時には、常にミスチルを聴かされていたので当時の2000年の始めから2010年くらいの曲はほとんど知っている。知っているというよりも耳に残っているといった方が正しい。タイトルを当てろと言われたら少し難しい。

ライブにも家族で行った。初めてのライブだった。

今までは車やウォークマンで聴いていた音楽が、生身の人間によって耳に届けられる。忘れられない経験のひとつだ。高校生になって、当時の書道の先生から「本物に触れなさい」と言われたことがあった。その時から、そのミスチルのライブは、まさに本物に触れた体験だったんだと気づいた。


ライブによって、心が動いた瞬間は大学生になってからもあった。

高二の頃から勉強しながら常に聴いていた地元のバンド。その頃はまだApple MusicもSpotifyも知らない。というかなかったか。大学に入学し、ライブにも自由に行けるようになった大学二年生の終わり頃、ようやく聴きに行けた本物。場所は地元ではなく、大阪城ホールだった。大きかった。

ギターの音がなった。大音量で耳の穴が開かれる感覚。鳥肌が立った。その最初の音だけで涙が出てきたのは自分のことながら驚いた。

これが本物に触れるということなのか、と思ったのは一瞬であったが、やはりその瞬間は忘れられない。


音楽でも、絵でも、人でも、いつでもどこでも見ることができる、会える時代。そんな便利な時代だけれども、自分の足で本物に出会いに、体験しに行く労力は惜しまずに生きていきたい。

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