Study83_1.「レンコン」の粘りを抑えて舌触りの良いポタージュをつくるには?(レンコンの部位編)
今回のテーマは「レンコン」です* これまでも「朝のひとくちめ」という野菜Laboの冷凍ポタージュ開発のために何度も実験を行ってきたのですが、12月に発売した分のポタージュスープが昨年のものより少し粘りが強くなったため、その粘りを少し抑えたいと思っています。
「トロミ」があることはいいのですが、舌にねっとりと残る「粘り」が強すぎるとせっかくの野菜の甘みや旨みを感じにくくなってしまいます。
ありがたいことに年末を前に仕込んだ「朝のひとくちめ」は一度完売となりました。たくさんのご購入ありがとうございました!購入希望の問い合わせを頂いていることもあり、この実験結果によるさらなる改善を加えた上で、近日追加の仕込みを行う予定です。最新の情報はSNSをチェックしてみてください*
そもそも粘りが強いレンコンだった?
原因として思い当たるのは、レンコンが「規格外品」ではなかったこと。野菜Laboのポタージュはなるべく流通にまわらない「規格外野菜」を使うことを目指しているのですが、今回は農家さんの都合上「規格内」のものを使用していました。レンコンは品種や育った畑によって粘りの強さが違ってくると農家さんから聞いたりもするので、そもそも粘りの強いレンコンだった可能性があります。
ここで並行して共有しておきたい話題が。レンコンの粘り成分は「ムチン」と呼ばれる成分と認識していたのですが、この認識に間違いがある可能性が出てきました。では粘り成分の正体はなんなのか?調べたのですがはっきりとした成分名は見つからず、一旦は正体不明の「粘り成分」と記述することにしています。詳しくは同時にまとめた記事「Study83_2.レンコンの粘り成分=ムチンは間違い?」をご覧ください。
いろんな文献を読みあさっていくと「もっとからだにおいしい野菜の便利帳」にこんな記述を見つけました。
つまり、身が成長しきって太っている状態のレンコンは粘りが強い傾向にあるんですね。実はレンコンは身が太りきっていないものが「規格外」とされてしまいます。つまり、「規格外のレンコン=粘りが弱い」可能性が出てきたということです。前回ポタージュを仕込んだのは、今回よりも時期が4ヶ月遅い3月のことでした。収穫時期の違いによって粘り成分の量が増減する可能性も考えましたが、この記述を見ると結局は「太いか」「細いか」が影響している可能性があります。
ではこの仮説をもとに実際に実験していきましょう。用意したレンコンはこちら。いずれも規格外品です。
左上からA、右B、下Cとします。Aは販売できるサイズですが、傷があるため規格外になってしまうとのことでした。今回はこれを企画内のレンコンと見立てて使っていきます。レンコンは泥の中でこの一つひとつの「節」が連なっており、レンコンは泥の中でこの一つひとつの「節」が連なっており、「節」によって繊維・粘り成分・タンパク質・甘味の量が異なるため、どの「節」を使うかで味も食感も変わってきます。(これについても同時にまとめた記事「Study83_2.レンコンの粘り成分=ムチンは間違い?」に記載がありますのでご覧ください)今回はその「性質の違い」と「レンコンの太さ」に関係性があるのかどうか?をポイントに探っていきます。1節の中でも太さが変わるので、「真ん中」と「端っこ」に53gずつ分けて比較します。
輪切りの大きい面がこちら。
右上のBは同じ量を用意しようとすると分割できなかったので、丸ごと使います。切った面の裏表でも直径が変わります。輪切りの小さい面がこちら。
両面の平均をとってそのレンコンの直径とすることにします。
これをポタージュの本番レシピと同じように酢水に浸水し、5㎜ほどにスライスしていきます。
スライスしながらそれぞれの部位で「切りごこち」が違うことに気づきました。サイズが小さかったBと、A・C共に端っこの部分はレンコンが筋張っていて、粘性が少なく、脆い。切りながらレンコンがボロッと崩れてしまう時があります。カシュカシュしている感じ... 続いてフライパンで表面が焼けるまで油と共に炒めていきます。
35gになるまで20分ほど炒めます。ただレンコンを炒めているだけなのに、エビみたいないい匂いがしてきます...幸せです... そして炒めながらも気づいたことが。
写真では分かりにくいのですが、一番小さかったBのレンコンだけ赤みがあるように見えました。
ここで頭をよぎったことが一つ。過去に行った実験で、レンコンの変色がどうにも止められず苦しんだ経験があります。(その時の実験はこちら)肉の厚みが薄い規格外は、そもそも変色しやすいのでは... その後20gの水と一緒にペーストにしました。今回塩は入れていません。
レンコンが肉薄だと赤みが出る。
ペーストにすると、色味に違いが出てきました。一番小さなBは一番赤みが強く、A・C共に端っこはいずれも赤みが出る。A・C共に真ん中は赤みが出ていません。レンコンの直径が小さいほど赤みが強く、大きいほど赤みが少なくなりました。
硬さを調べるため、ペーストをスプーンで山盛りすくって45度に傾け落下するのにかかった時間を計りました。角度や盛り具合を厳密に再現できないので、2回行いその平均値をとります。
この比較からは正直傾向が読み取れませんでした。直径にも、端っこであることにも関係性が見つかりませんでした。続いて、ペーストをスプーンで混ぜた時の粘りの強さの感覚を比較します。こちらも、先程の落下にかかる時間と少し相関があるようにも見えるものの、直径との関係性は見えませんでした。続いていよいよ、気になっていた舌で感じる粘りの強さを比較します。
レンコンが肉厚だと、舌に感じる粘りが出る。
先入観に左右されないようにどれがどのレンコンかはわからない状態にし、舌に残る粘りの感覚を1〜5の 5段階で評価します。すると、相関係数が約0.9となり、直径の大きさと粘りの強さに強い相関が見られる結果となりました。(相関係数が1に近いほど2つの数字には相関があるということです)続いて、よりポタージュに近い状態にするため、水10gを加えよく混ぜたものを試食します。
こちらもほぼ相関係数が約0.8となり直径が大きいほど粘りが強い、という傾向が見えました。「ほぼ」というのは、一番直径が大きい2つであり1㎜違いの「直径5.7㎝のC」「 直径5.6㎝のA」において、直径が大きいはずのCよりもAの方が粘りが強いと感じたからです。A・C共に真ん中部分の肉厚な部分であり、肉厚で直径が大きいレンコンほど舌に感じる粘りが強いと言えそうです。
規格外のレンコンはポタージュ向き
混ぜた時の粘りの強さについては傾向を読み取ることが難しかったのですが、舌に感じる粘りには「肉厚な方が粘りが強い」ということが分かってきました。このことから考察すると、スプーンで感じる粘りと舌に感じる粘りは関係している成分が違うということ。スプーンで感じる粘りの違いは「繊維」や「タンパク質」等その他の成分のバランスなのではないかと考えています。ひとまず、直径が小さく肉薄なレンコンを多く使用することで、ポタージュスープの粘りを少なくする、ということは解決できそうです。規格外のレンコンほど肉薄の傾向にあるので、ポタージュとの相性が良さそうでなにより*
新しく仕込むポタージュスープの完成を、お楽しみに*
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