GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #17

グラベルに鉄線の簡易的なフェンスや用途のわからない鉄柵など人工物が多くなってきて街に近づいているような気配がするのだが、広い範囲で見るとやはり見渡すかぎりの草原に低木、真っ白なグラベルしか存在しない。先程から森本の後ろについて風を避け楽をさせてもらっているのだが、ずっと右のふくらはぎが攣りそうだ。このペースを維持されると十数分ともたないかもしれない。できるだけふくらはぎに負担がかからないようにと思うのだが、自転車のペダリングはハムストリングスと腰や臀部の筋肉を主に使うので、どのようにしてふくらはぎをいたわるのかわからない。森本に休憩をしようと言うのは簡単だが、もうすぐにチェックポイントであるカウンシルグローブに到着するはずだ。ここが1番苦しいところだと自分に言い聞かせ、ふくらはぎからの信号を無視するために心を遮断して、僕はペダルを回す機械になることにしたが、ふと前方に森のようなものが見えた。グラベルはゆるやかに右にカーブし、その森に吸い込まれている。ふとサイクルコンピューターが右折を知らせる。前を引く森本のペースが緩くなった。そこにはゲートがあり、自転車と人のマークが描かれた黄色い菱形の標識が立っていた。サイクリングロードやな、と森本が言った。
グラベルは整備された河川敷のようにスムーズで両側に木が生い茂り日陰をつくっていてオアシスのようだった。木漏れ日を受けながら涼風を感じると、自然とペースも緩まり僕はもうふくらはぎの攣りを気にしなくてよくなった。この道はおそらく散歩やサイクリング向けに整備されたトレイルだろう。チェックポイントまでは5km程度のはずだ。森本は撮影を開始して、僕はその横に並んだ。しばらくその調子で走り続けると思ったが、トレイルは3kmほどで終わった。つまりカウンシルグローブに到着した。そして、舗装路になった。実に85kmほど、4時間ぶりの舗装路は違和感を覚えるほどにスムーズで、これまでに経験した自転車における快感の中で最も低温だった。しばしば乗り心地の良いロードバイクを指して魔法のじゅうたんと表現する比喩を目にするが、本物のそれは85kmグラベルを走り続け、脳も内蔵も筋肉も身体の全てが振動を続けた上で舗装路に乗る瞬間、その怖いほどの静けさだ。それはレースに勝利したり、極上のトレイルをマウンテンバイクで下ったりという高温のものではなく、ただ何もないという超低温の、しかし強い感動だった。感情のシグナルは意識を超越して、僕の口を動かす。そこでカラカラの口から溢れた言葉は「あ...ほそうさいこう...」だった。
小さな緑地にかかる橋を渡ると突如視界が開け、拍手とカウベルを鳴らす音が響いた。チェックポイントに到着したのだ。計測ポイントをクリアすると、高校やフットボール場がある公園のような施設で、大きな駐車場にフィードのテントが並んでいるのが見えた。事前に調べた情報だとライダーはボランティアスタッフをウェブサイトを通じて雇うことができて、そのスタッフからフィードを受けることが可能なようだが、僕たちは雇っていなかった。チェックポイントが街ということだったので、商店のようなものがあるだろうし、そこで購入すればいいと思っていた。誘導されるままに進むとコースに復帰し街外れへと進んでいったので、僕たちはコースを外れて商店を探すことにした。

>>GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #18

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