GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #13
スタートから北方(つまり街が一切ないエリアだ)に向かうにつれて道幅は細くなり砂利のサイズも大きくなってくる。それでもスムーズなグラベルと言えるが、身体に伝わる振動は大きくなり速度の維持にもパワーを使うようになってきた。また広大な平原は緩やかに隆起しているので、道はそれに合わせて緩い上りと下りを繰り返す。この上りが確実に脚を削ってくるうえに、日が昇ってくるにつれ気温も上昇し、影のない草原を走る間、絶え間なく日光に晒され疲労は確実に蓄積する。
あまりに長い直線とどこまでもただ続く地平線と真っ直ぐな道は、本当に美しく素晴らしいものだが、人間には馴化という現象がある。刺激が長時間繰り返し与えられることにより、その刺激に対して鈍感になり反応が徐々に見られなくなっていく、というものだ。要はとにかく道が単調なのである。丘を上りきったときに見える広大な草原を延々と続く道が見えると、最初は深い感動を覚えるのだが、それが繰り返されると、丘の頂上で待っている感情は無である。あんなに感動した大平原も、照りつける太陽と微妙な向かい風の中で約20kmほど(つまり1時間程度)走行を続けると、その間は何も起こらずに淡々としたもので、無と向き合うのはそれはそれで苦行なのである。
そんな中、平原の中でも地形に特徴があり、ふと木々が点々と数本だけ生えているようなところに入ったりもする。そこは草も深く、道にも大きな石が転がっているが、こういうところの日陰はとてもありがたいし、風によって木が揺れるだけでもなんだか癒やしを感じるし、なんならガレていても変化を感じて嬉しい。変化はとても重要だ。
そうして感動ですら苦行に変化させる自分のさもしさを紛らわして走っていると、やがてコースの最北あたりに到達した。45km地点あたり区間、かなり荒れた路面へと変わっていき、パンクを修理していたりラインを外し深い砂利にタイヤを取られて降車するライダーも見かける。スムーズなエリアと異なりライダーごとに速度域が変わるので、ここではラインを次々に変更し、多くのライダーを抜く必要があった。僕も森本もマウンテンバイクおじさんを自負しているので、こういう荒れた道でのバイクの取り回した慣れたものだし、そもそもこの荒れた道ですら日本ではナイスなグラベルと呼べるだろう。荒れた路面への適応レベルがそもそも違うのである。人を抜くという行為は人間の競争の本能を呼び覚ます。僕と森本は本能のままにグイグイ加速する。すぐに風景はまた平原へと変わっていくと、向かい風も強くなってきている。そして66km地点、僕たちの脚は止まった。
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