GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #14
森本と僕はやっと見つけた木陰に滑り込んで休憩をした。UNBOUND Gravelはアメリカの大平原を走るグラベルレースというイメージがありWebサイトで見かけるビジュアルにも峠道のようなものは無かったので、全域フラットなコースプロフィールと思い込んでいた。オフィシャルサイトのコース概要図にはスタート直後に最も低い標高1,098ftのポイントを通過し25マイルぐらいの地点が最高点1,513ftとあった。差は415ftとなるがこれは126mということであり、約40kmでの獲得標高126mなどは平坦のようなもので気に留めるものでもないと思っていたが、その後のコース高低図はさながらノコギリの刃のようだったのを覚えている。いま実際に走って理解した。あれはGPSのログデータでしばしば見かける誤差がビジュアル化したようなものではなく、本当にノコギリ様とした地形だったのだ。つまり、強烈な斜度で立ち上がった高さ20−30m程度の丘のようなものが繰り返される地形が続くのである。たしかにスムーズな平原部分からここまでの約25kmほどは徐々に心が無になっていくようなアップダウンの繰り返しで、それを100マイル、160kmのサイズの縮尺に合わせるとノコギリの刃になるということだ。
森本は動画の撮影をしている。コンパクトなデジタルカメラを持ってはいるが、コース脇でひとり大声で話す黄色人種を他のレーサーたちはどう見ているのだろうなと思った。僕は両足をペダルから外し、自転車を支えに脚をストレッチした。スタートして1/4程度でこの疲労感では先が思いやられるし日が昇って気温はどんどん上昇していて不安要素はあるが、チェックポイントのカウンシルグローブという街まではあと25km程度だ。このまま淡々と走れば問題なく到着できるだろう。そこで長めの休憩を取って水を補給し、うまく冷えた炭酸飲料なんかを飲むことができれば残りの70kmを走り切ることは難しくないだろう。完走のイメージをしながら、噛みごたえがセールスポイントらしいグミを口いっぱいに入れて咀嚼する。噛む刺激は脳を活性化するらしいので、僕はロングライドの時は必ずグミを補給に選んでいる。グミを噛んだからすぐに目が冴えるというような実感はないが、集中力を切らさない験担ぎのようなものだ。口内の糖分を洗い流すとボトルは空になった。ダブルボトル1本は空で、1本は3割程度だが、ステム横のスナックポーチに入れたペットボトルはほぼ満タンだ。いまのところ補給にも不安はなくプラン通りに進んでいる。森本は撮影を終えて、バイクに跨っていた。こちらを振り返って目を細めたので、僕もバイクに跨って右足のクリートをペダルに押し込むと、パチンという音が森本と僕で2回響いた。お互いのバイクはもう埃だらけだった。