GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #22

ペダルを回すにつれ景色が変わってきた。何もなかった地平線は徐々に農地へと姿を変え、用途が不明な建物など人工物も増えてきた。アップダウンも緩やかになってくると、大きなピックアップ・トラックとすれ違ったりもする。それは街が、つまりゴールが近づいているということだった。僕が前を引いて疲れが出てきた森本を休ませようとしたが、平坦においてはTTバーがやはり強力で、TTポジションを取る森本が速度を乗せて僕を抜かして前を引くので、僕たちはロードレースの逃げ集団のようにローテーションを繰り返した。しかし森本は見るからに力を失っていて、やがて前を引くことができなくなったので、僕たちは木陰で休憩をすることにした。
思えば2人のエンジェルから給水を受けた際に2,3分ほど止まってボトルの水を入れ替えたりしただけで、森本がこぶし大の石の上に座っていた110km地点の休憩から40kmほどしっかりと休んでいなかった。気づけばもう150km地点だ。あと10kmで100マイル。もう終わってしまう。どれだけ苦痛を伴うライドでも終わりがけ、ふと寂しさを感じてしまったりする。今の感じだったらまだまだ走れるな、などと考えていたら、森本は撮影を開始してカメラに向かって話をしている。暑さにやられてしまったと語っていて、どうやら軽い熱中症のようだ。サイクルコンピューターは35℃を示している。僕は長袖シャツを着て首にスヌードをつけているので、上半身はほぼ日に焼けていない。また補給を受けて水の余剰ができると、こまめに頭から水を被っていたので暑熱に関してのマネジメントは完璧だ。
少し回復したと森本が言うので僕たちは走り出した。休憩を終えてすぐ、アメリカスという街に到着した。久しぶりの舗装は大きな癒やしである。木陰でサドルから降りて休憩するのも良いのだが、舗装路であれば軽いギアでほぼ力を込めずに進むことができる。低いパワーでペダルを回すのは疲労を抜く効果があることが実証されていて、グランツールを走るレーサーが平坦ステージの集団内でリカバリーを行ったり、100km以上のコースを完走した直後にローラー台に乗って回復走をする光景を見ることができる。この街でも家々の軒先から声援を送ってくれたり、手を振って応援してくれる。彼らも多くのライダーが家の前を通りすぎていく1年に1回の今日を楽しんでいるように見える。地元に愛されたレースは素晴らしい。走っている僕たちもなんだか誇らしい気持ちになる。
心身共に癒やしを受けていたが、小さなアメリカスの街はほんの1kmほどで通過し、またすぐにグラベルに戻った。アップダウンはもう無くなったが、向かい風は健在だ。僕は下ハンを握って上半身を折りたたみ、できるだけ前面投影面積を小さくした。脚が終わってしまった森本から離れないように淡々とペダルを回しているとコース脇に看板が立っていて、そこにはラスト10マイルと書かれていた。10マイルは16kmである。サイクルコンピューターの走行距離は154kmとある。この瞬間はじめて、UNBOUND Gravel 100マイルレースの全行程が170kmと知った。マジかよ、と僕は呟いたが、すぐに砂利を踏む音がその声をかき消した。

>>GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #23

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