『称賛の見える化』が蓄える心理資本

 普段、社内で従業員同士が褒め合う、『褒めるコミュニケーション』というのは、なかなかあるものではありません。突発的に何かが起きて助けられたような場合に感謝を伝える習慣はあっても、日常的に褒め合うというシーンは会社に定着していないのです。考えられる理由としては――

▶『褒めるコミュニケーション』を阻む要因① 『感謝』からさらに一歩踏み込んで『称賛』するというのは照れ臭い。② 内心では『称賛』していても、伝える機会がない。③ 直接の繋がりがない人を『称賛』する、という機会も習慣もない。④ 『感謝』と違って『称賛』は、褒めるという行為は、上から目線と受け取られかねない。⑤ 『称賛』、褒めるという行為は上司が部下に対して行うもの、という認識がある。⑤ 単純に『褒める』という行為の価値が仕事として認識されていない。

――このような状況を打破して、『褒めるコミュニケーション』を会社に定着させようと考えたら、『今日からお互い褒め合いましょう』などとスローガンを掲げても実効性が薄いのは明らかで、そこで登場するのが、この記事【イオン系、社員が褒め合ってポイント獲得】で取り上げられた『称賛のメッセージとポイントを送り合うアプリ』なのです。

 そのようなアプリを導入してまで『褒めるコミュニケーション』を会社に定着させようとする理由は何なのか、今まで心の内にしまわれていた『称賛』を見える化するとどんな効果があるのでしょうか?

まず、記事から、実際にこのアプリを使った従業員の声をピックアップすると――

① 「気楽にありがとうを伝えられてすごい」② 「褒めることを意識するとメンバーの良いところに気づき、距離が縮まった」

これらも踏まえて、『称賛』を見える化することによって得られると考えられる効果を整理してみると――

▶『称賛の見える化』の効果①『称賛の日常化』・・・公然と『褒める』ツールが出来る事で、『褒める』という行為の敷居が低くなる。②『ポジティブな自己認識』・・・『称賛が日常化』する事によって、褒められた側は、自信に繋がったり、新たな自分に気付いたりと、ポジティブな自己認識が育って、モチベーションが上がる。③『ポジティブな人間関係』・・・『褒めるコミュニケーション』によって育まれたり、新たに生まれる人間関係は、協調的な『ポジティブな人間関係』となる。④『個人の強み、長所の見える化』・・・『称賛の日常化』によって、個々の従業員の強み、長所が理解され共有されるようになることで、チームが協調して仕事をしていくベースが出来上がる。

 『称賛の見える化』は、会社の従業員同士の人間関係をポジティブなものにし、連帯を強めるだけでなく、お互いの強み、長所が共有される事によって、助け合い補い合って仕事を進める協調体制が強化されると考えられます。つまり、『称賛の見える化』によって、従業員同士の協調性が育まれるのです。そのような協調的な組織が、楽しく働くこと、人材確保・定着率向上・生産性向上に有効な事は明らかです。この記事は、『称賛の見える化』が社会資本と心理資本の蓄積にきわめて有効な施策である事を教えてくれました。

▶企業の留意すべき4つの資本●財務資本Financial Capital・・・いわゆる資本。資本主義社会における投資。●人的資本Human Capital・・・財務資本を生み出す人の能力。●社会資本Social Capital・・・人が学習し、その人を支援する場としての、社会的ネットワークにおける人間関係。人的資本を生み出す人間関係。●心理資本Psychological Capital(PsyCap)・・・変転する環境の中で、ポジティブな心理状態を持続可能とする要素。財務資本・人的資本・社会資本など、全てを生み出す源。個人にとっては、自身の生き方、生きがいに向かって前進するため、自分の能力を最大限に発揮するために必要な心理状態。企業にとっては、競争力を最大化するために、どうやってそのような心理状態を引き出すかという課題。▶心理資本の、ポジティブな心理状態を持続可能にする要素とは――●自信・効力感Efficacy●楽観性Optimism●希望Hope・・・成功のイメージと、そのための具体的なプロセスのイメージ。●粘り強さ・再起力Resilience(【損なわれた社会資本と心理資本が招く日本企業の衰退】参照。本稿末尾に添付)

(追記) 『称賛の見える化』によって育まれる『協調性』は、第4次産業革命の時代の『会社のあり方』や『AIとの共生』にとっても極めて重要であると考えられます(【『素直でいい人』~成果を出すのに大切な2つの性格~】、【AIと共生する人間の立ち位置】参照。本稿末尾に添付)。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34357530Q8A820C1XXA000/

https://comemo.io/entries/8063

https://comemo.io/entries/9712

https://comemo.io/entries/9659

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