『無目標』中計に異議あり

 株取引にあって、ザラ場(寄付から引けまでの間の取引時間)に飛び込んでくる開示情報は、チャンスであると同時に、緊張の一瞬でもあります。例えば、飛び切りの好材料が『取引終了後』に開示されると、既にその株を持っていた人はいいですが、その時点で予約注文を入れても、翌取引日に気配値がどんどん切り上がってストップ高に張り付いてしまい、その場合は時間優先などの証券会社のルールによる割り当てになってしまうので、好材料であればあるほど買える可能性は低くなってしまいます。それに対して、『ザラ場』で例えば12時30分に決算の情報が開示されると分かっていれば、状況にもよりますが、急騰に備えて予め逆指値注文を入れておけば何とかなります(現在値1000円近辺で停滞している時に、トリガー価格1030円以上になったら成行で買い、など)。決算がポジティブサプライズだった場合、予め注文を入れておかないとあっという間に急騰するので、人間業では無理があるのです……

今年の3月期決算でも、そんな場面がいくつもありましたが、その中には、もちろんネガティブサプライズもあります。この投稿は、特定の企業に関する論考ではなく、あくまで一般論だと前置きさせていただいた上で、私の言うネガティブサプライズというのは、『無目標』中計の事です。『無目標』中計には、極めて違和感がある、と言わざるを得ません。

 そもそも、中計のような成長戦略とは、言語化された定性的目標と数値化された定量的目標(利益目標は必須)の二つでセットです。

 成長戦略を人に伝えるには、

①言語化された定性的目標で、『根拠を示し』た上で、

②数値化された定量的目標で、それを『見える化』しなくてはなりません。

例えば、中計と称して、数値目標だけ出されたら、納得する人はいるでしょうか?……『根拠が示されて』いないので、その数値の信憑性はゼロです。

それと同じことで、言葉だけ出されても、『見える化』されていないので、その言葉の重みが全く分からず、極端に言えば絵に描いた餅と同じ事です。積算根拠のある数字は、中計の要ではないでしょうか?『無目標』とは、あまりにもアナログ的、非科学的だと思うのです。

その点も含め、『無目標』中計には、下記のような具体的問題が厳然として存在します。

(1)『無目標』中計を解読するには高度なスキルが必要

例えば、『無目標』中計を、個人投資家と一流アナリストが分析した結果は、後者の方が精度が高くなるのは避けられません。その株式の投資価値をなるべく正確に評価したいのは誰しも同じことで、機会は少しでも均等であるべきです。

(2)『無目標』中計は、内部的にも『無目標』なのか、という疑問

中計を策定するに当たって、内部的、社内的にも『無目標』、数値目標なしで作業が進められたのか、という問題です。もし、社内的には数字がある、と言うのであれば、その数字は中計の続く期間、外部に、一部の人にだけ漏れるようなことがあってはならない、ということです。

(3)数値目標がないと進捗状況が正確に把握できない。

数値目標がないと、そこで働く人にとっても、外部から業績を評価しようという人にとっても、進捗状況が把握しづらくなります。言語化された目標の進み具合は、数値目標に基づく進捗状況が分かってはじめて評価できます。途中経過が不明確では、迅速な軌道修正も難しくなりそうです。

(4)数値目標がないと、後から検証できない。

数値目標がない中計を、期間経過後どのように検証するのでしょうか。

(5)先行投資の規模は中計に反映すべきではないか。

もし成長分野への先行投資で一時的に利益水準が減益方向になるのであれば、その通り中計に表現して、さらに投資効果が現れてどのように利益が推移していくかも定量的に示すべきです。そのような中計であれば、株価に折り込むこともでき、サプライズは回避できます。

(6)大きな数値目標があれば、そこから細かく数値を落とし込める。

大きな数値目標には、そこから細かく、例えば1年、四半期と落とし込むことで、具体的な施策、計画を立てやすくなるという役割があると思います。

(7)数値がある事で、理想と現実のギャップを埋めることができる。

数値目標、そしてその進捗状況が分かれば、言語化された定性的目標が、現実離れしていた、あるいは、的外れであった、と気付きを得て、修正が可能になりますが、数値目標がないと、いつまでも手遅れになるまで非現実な目標にしがみつくことになりかねません。

 『無目標』中計の問題点はまだまだ指摘できそうですが、明白なことは、『無目標』は企業経営に本質的に馴染まない、という事です。数値目標とは、現在と未来を、文字通り定量的につないだもの、懸け橋なのです。未来に伸びた懸け橋が、さらに高く遠く伸びていくのか、途中で濁流に流される危険にさらされているのか、将来を見据える企業家にとって、数値という名の懸け橋はなくてはならない旅の伴侶です。

とは言え、記事にもあるように、「無目標中計には成長サインも潜んでいる」はずです。『無目標』中計は残念なことですが、先行きの業績を予想するのは難しくとも、慎重に見守っていく必要がありそうです。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30966510V20C18A5000000/

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