どのようにブランド価値を構築するのか

 この記事「八丁味噌、製法巡る論争続く GI制度で老舗2社が対象外」のような事が起きているとは知りませんでした。八丁味噌の江戸時代初期からの製法を守る老舗2社の製品が、GI制度の対象外だと言うのです。消費者目線では、言うまでもなく、旧来の製法で作られた老舗の製品も含めたトータルで八丁味噌です。老舗の製品を除いたものが八丁味噌だと言われても、意味が分からず、常識と乖離した状況になっています。

制度設計上の問題はいざ知らず、何故このような状況になっているのか、両者の主張の核心と思われる部分を引用してみると――

(老舗側) カクキューの早川社長は「苦しい時代も製法を守り続けたからこそ、今のブランド力がある」と基準は受け入れられないとの立場。(組合側) 愛知県味噌溜醤油工業協同組合の富田茂夫専務理事は、「出荷量が減る中で、県全体で八丁味噌ブランドの認知度をさらに高める必要がある」と力を込める。

どちらの主張にも一理あるように思われます。そもそも、地域の産品の個性を明確にし品質を保持するには、生産地域・製造法・熟成法などをある程度厳密に規定する必要がある一方で、地域の産品が常に今という時代と一緒にあり続けるために、時代とともに起きてくる変化にどう対応するか、という問題も避けて通れません。

一つのブランドの総体的な繁栄を築き上げるにはどうしたらよいのか、いろいろと考えさせられるうちに、私は、フランスのワインの事例を思い出しました。ワイン法で、ブランド価値の守られたワイン……。どの地域でもよいのですが、例えばボルドーのワインは第1級から第5級まで格付けされています。ボルドーにしろ、ブルゴーニュにしろ、その地域のワインが、格付けなしに十把一絡げに一つに定義されているという事はありえません。そんなことになったら、それこそ大論争が起きるでしょう。

一つの産品をある程度広域で定義しようとすると、製法などにバリエーションが出てくるのは間違いない所です。それをまとめるには、違いを認めるしかありません。ただし、『等級』ないし『格付け』という表現では、価格的な階層、品質的、味的な上下関係を想起させ、本当に等級通りに評価できるのか、という問題も起きてきます。種別にするのか、どのような表現にするのか、同じ産品であっても製法に違いのある事が明記・付記されれば(例えば、2年熟成木桶仕込み、古式製法、近代製法など。あるいは伝統的な製法のみ記載を認める。味噌玉・熟成期間・仕込み桶・重しなど項目ごとの『表示』も考えられる)、消費者にとっては極めて分かり易く、納得のできる表示となると思われます。消費者が知りたいことは、どの製品が地域の産品でどの製品が違うのか、そして、製品によって製法にどのようなバリエーションがあるのかという事ではないでしょうか。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30139000V00C18A5CN8000/

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