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5月11日(土)大手町独演会 ザ・柳家さん喬 其の十(よみうり大手町ホール)


小きち  金明竹

さん喬  夢の酒
 
師匠・柳家小さん宅へ向かう途中、山手線で乗り過ごし、一周してしまった話やお花畑でアグネス・チャンと手を繋いでスキップした話をマクラに振る。
 本篇は小咄をふくらませて一席に仕立てたのだろうか?若旦那の話を聞きながら、次第に唇がワナワナふるえだし、嫉妬の形相になるお花がかわいらしい。
 大旦那に夫の不行跡(だから夢だと…)を訴えるお花はいじらしいが、夢の女に意見しろとは無茶苦茶な。
 淡島様の上の句を詠んで夢の中に来た大旦那。女将は歓待しながら、お清に次々と指図を出すのがおかしい。
 ふっと漏らす大旦那の一言で軽やかにサゲる。

さん喬  おしゃべり往生
 
黒田絵美子作

【筆者注】黒田絵美子さんは中央大学教授であり、落語研究会顧問である。このオチケンに所属していた女子学生が「落語家になりたい」と申し出た。黒田先生はかねてから親交のあった柳家さん喬師に紹介する。さん喬師が「誰に入門したいの?」と尋ねると「林家正蔵師匠です」と言う。

さん喬「もうお前とは口聞かない」(真打昇進披露口上より)

 その女子学生も無事、正蔵師のもとに入門し、今年3月に晴れて真打に昇進した。彼女はいま、林家つる子を名乗っている。

ーここまでは筆者による前口上である。さん喬師がマクラで喋った訳では無いー

 そんな黒田先生が書いた新作である。
 おしゃべりの清さんが鯛の骨を喉に詰まらせ死んでしまう。女房が悲しみに暮れる中、清さんは相変わらず喋りながら、三途の川から渡し船に乗り込んだ。

 清さんのおしゃべり(小唄も)がひたすら楽しい。子供がふねに乗り合わせている場面では、しんみりする。噺は思いがけないサゲを迎える。

ー仲入りー

さん喬  双蝶々 雪の子別れ
 長兵衛は家主から息子の長吉が日頃、後妻との不仲もあってか、いくつもの悪事を働いている事を聞される。 このままではよくないと、家主は長吉を奉公に出すよう提案する。父は息子を上野下谷町は山崎屋に奉公に出す。目端の利く長吉は周囲に可愛がられるが、いつまでも大人しくしているわけはなかった。

 自らの欲望のためには盗むことや人殺しをためらわない長吉はサイコパスなのであろうか?いつからそうなってしまったのか? 長兵衛が先妻と別れ後添えをもらうあたりか?知らず知らずのうちに長吉は自らの内なるモンスターに侵食されてしまった。

 息子が人を殺め、住む処を転々とする長兵衛夫婦。加害者家族としての父親の苦悩や叫びをさん喬師が壮絶に描き出した。

 親子の再会。母親は義理といえど優しく迎える。だが、罪を犯した息子に父親は厳しい。やがて長吉は開き直り、出ていこうとする。そんな息子に長兵衛は羽織を着せる。そして、「1日でも長く生き延びろ」と言うのだった 。父親の不器用なやさしさ。

 笑いの少ないシリアスな長い噺を、さん喬師がドラマティックに演じ切った。名人と言うほかない名演であった。

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