リレー小説

リレー小説

あらすじと作成方法

この小説は、オンラインサロンの物書き部メンバー十数名で、リレー式に書き上げた小説です。400文字を目安にバトンが回ってきたら、3日以内に次の話を投稿して、ここまで完成させました。その1、その2と続くのは、書き手が代わった印です。

舞台はオンラインサロン。
アプリを登録し、サロンメンバーが交流する物語。

登場人物


若狭真由美:スマホアプリの断捨離をした会社員女性
山口克美:定年退職をした63歳、トライアスロンが趣味。小百合の義父
山口小百合:克美の血のつながらない娘。サルが好き
五竜太郎:さるやま倶楽部の部長。真由美の彼氏
谷口ユリコ:オンラインサロンで知り合った克美が気になっている。真由美の親友

*登場する人物はフィクションで、実際にオンライサロンに入会している人物とは関係ありません。


リレー小説 その1
【若狭真由美の場合】
スマホを使わないようにしている。
使わないといっても家の外で、という意味で。

それまでの私の生活は、朝はスマホのアラームで起きる。出勤まで、メイクの時間以外はスマホを触っていた。家を出てからも、職場に行く間もYahooニュースで興味もない情報を見て、休み時間も TwitterやLINEをチェックして…

この間は、親友のユリコと新宿で飲み過ぎたことがあった。
朝起きた時に、財布よりも、大事な書類よりも、まずスマホを心配してる自分に気が付いて、スマホに依存してる自分に引いた。

だから、断捨離をしてみた。
といってもスマホごと捨てる勇気は無いから、アプリだけの断捨離を!
使ってないアプリをアンインストールして、他の物で代用できるアプリもアンインストールして…一番辛かったのは結構ハマって課金してたゲームのアプリをアンインストールしたときだった。
でも実は、このときが、一番気持ちよかった!!

その2
【山口克美の場合】
「早く自転車を降りて、走りたい」
いつも、BIKE終盤、150キロを過ぎたあたりで、山口克美は、そう思う。
BIKE180キロが終わっても、42.2キロ長丁場のRUNが待っている。
しかし、今は、とりあえず、早く自転車を降りて、楽な姿勢になりたい気分だ。
定年退職、今は無職の克美。
スポーツコミュニティを通して、多くの友人は持つが、「動けなくなったら、どうなる?」との思いが、頭をかすめている。
イケジイであり続けるために、運動以外に、何か、楽しみ、人の輪を作っておかないと…。
そんな克美が、ふと目にしたのが、
「大人の小学校」という名前の付いたオンラインサロン。
古臭い雰囲気の、イケテナイ風のジイさんにならない為には、頭と身体が大事。あと、仲間。
知り合いを増やさないと、淋しいジイさん化が待っている。
オンラインサロン、という今風のモノに入るだけでも、若返るかも?
そんな想いを勝手に抱く克美、63歳。

その3
【山口小百合の場合】
「おかえりなさい。」
ルービックキューブを回しながら、テレビを見ていた小百合が、克美に声を掛けた。
テレビには、音大を卒業した女性芸能人が、課題曲として与えられたピアノを弾いている姿が映っている。
「あっ!今、音が外れた!」
小百合は、自分が間違えたように悔しがった。

「来ていたんだ?」
トライアスロンの最高峰であるアイアンマンレース
、スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmもの距離を走破し、疲れ切った身体で自転車を片付けながら、克美が小百合に質問した。

「夕飯、お父さんの分も、作っといたよ!」
小百合は、克美の実の娘ではない。
克美が若いころ、結婚した妻の連れ子である。
その妻とは、死別している。
小百合は立ち上がり、キッチンで味噌汁を温めた。
「大会から帰ると、しばらくろくなもの食べないんだから…しっかりと栄養の付くもの食べてよね。」

小百合は、愛知県の犬山城の城下町の動物病院で獣医師の手伝いをしている。
子供のころから動物が好きだった彼女は、「休日は、サルを見に行くことができる」と、サル専門の動物園の近くの動物病院で働くことを希望した。

父親を心配し、時々、食事を作りに帰ってくる。
「お父さんと一緒にごはんを食べてくれる、いい人いないの?」
温めた味噌汁をお椀に注ぎながら、小百合は克美に聞いた。

その4
【克美と小百合】
克美はふと、「田村淳の大人の小学校」というオンラインサロンのことを思い出した。

「心配しないで大丈夫だよ、まだ63歳だし、今さっきアイアンマン終えたばかりで体力は、ばっちりだ。」
克美は自分の腕で力こぶを作り、ぽんと叩きながら自信満々に言った。

「今はいいけど、10年後もこんな元気に走り回れるかなぁ。違う趣味も持った方がいいんじゃない?」
「人の心配してないで。小百合はどうなんだ?
そろそろ彼氏を連れてきてもいい頃じゃないか?」
「私は大丈夫。サルがいれば幸せ。」
「小百合こそ、サル以外の趣味が必要じゃないか!」
克美はそういうと、ケタケタ笑う。

「趣味を増やすと言えばさ、これ見つけたんだけど、興味はある?」
克美はスマホで、「田村淳の大人の小学校」のページを見せた。
「これって、あのロンハーとかやってる田村淳さん?その人のオンラインサロンなの?」
「趣味を増やすという意味で、色々部活や習い事もできるし、人のつながりも増えるかな…って」
「いいじゃん、やってみなよ!お父さん!!面白かったら教えて、私も入るかも。」

その5
【五竜太郎の場合】
仕事を終えた五竜(ごりゅう)太郎は家に戻ると、お気に入りのハイバックチェアに腰掛けるのが日課だ。アウトドア用の折り畳みのものだが座り心地がいい。まず包み込まれるように腰かけると、息を大きく吐いてスマホのとあるアプリのボタンを押す。仕事中は見ないのが、マイルール。
 
「田村淳の大人の小学校」に入学して、3か月が経つ。なかなか交流に飛び込むのは勇気がいるが、少しずつ慣れてきた。
見知らぬ人とわいわいオンラインで話すのも楽しいが、一番満喫しているのは自分の趣味を発信したり、同じ趣味を持つ人とやり取りすることだ。そんな人たちと会って、思う存分に語り合いたいと思う。
 
つい先日、勇気を出してつくったサークルが発足した。サークル名は『さるやま倶楽部』だ。太郎は動物園のサル山が大好きで、大人になった今では全国のサル山を見て回っている。物珍しさでサークルに入る人もいるが、情報交換するだけでも楽しい。
今は『さるやま倶楽部』を充実させ、サル山の奥深さをみんなに知ってもらうんだ!という意気込みが、普段の生活にも張りを持たせてくれている…ありがたい。「大人の小学校」に入ってよかったな!

その6
【若狭真由美の憂鬱】
カーテンを開けると、眩しい朝日が降り注ぐ。
最近、時間に余裕ができたように感じる。
今日は日曜日。久しぶりに部屋もゆっくり掃除できたし、ゴルフの打ちっぱなしにも行ってきた。
料理もしてみた。いくつかの惣菜を作り置きできたので、お弁当も作れるし、これで大分、食費を節約できるだろう。
随分と充実しているように感じるのだが、なんとなく気分が晴れない。
コーヒーを入れながら、テレビの横の写真立てに視線を動かす。
ため息がこぼれる…。
その原因はわかっている。真由美の彼氏、五竜太郎のオンラインへ向かう時間の長さ、である。
仕事に支障をきたしているわけでも、寝食を惜しんでのめり込んでいるわけでもない。
ただ自分自身がスマホのアプリ断捨離をし、オンライン時間を減らしたら、余計に太郎のスマホの使用時間が目につくようになった。
最近は何だかよくわからない、オンラインサロンなるものに入会したようで、暇さえあればそのサイトを覗いている。
昨夜は見知らぬ女性と、何やら親しげにオンライン上の会話で盛り上がっていた。
出会い系のサイトなのか?と疑いさえ持ちたくなる。
オンラインとはいえ、目の前にいる相手を無視してのめり込む、そのサロンの存在に、真由美はたまらなく疎ましさを感じてしまうのだった。

その7
【小百合のオンラインサロン入学】
ピンポーン。
克美がドアを開けると小百合が大きなタッパーウェアを目の前に差し出した。どうやらカレーを作り過ぎたらしく、克美にお裾分けをしに来たらしい。
テーブルにある克美のスマホが振動する。スマホを手に取り、克美は言った。
「そう言えばどうだ?いいだろ?」
「いいだろって、何が?」小百合はとぼけた声で、答えた。
克美は、小百合が内緒で「田村淳の大人の小学校」に入学していたことに気付いていた。入学式で使っていたアバターとアイコンを見て、すぐ小百合だと分かった。
「入学したんだろ?入学おめでとうさん。それにしても隠す必要はねぇだろ?」と、いつもの体育会系の張った声で言い捨てた。
小百合は、克美の実の娘ではない。
その縮まらない距離感を悲しむような淋しそうな声にも聞こえた。
そんな小百合は『さるやま倶楽部』というサークルで出会った太郎と言う男性のことを思い出して、ニヤけていた。

その8
【谷口ユリコの場合】
Zoomミーティングが終わり、スマホを確認すると、親友の真由美からのメールが届いていた。
真由美は最近、スマホのアプリ断捨離をしたとかで、LINEもしていない。
スッキリするからと勧められたが、ユリコにはどうしても消せないアプリがある。
オンラインサロン「田村淳の大人の小学校」で欠かせない、FANTSというアプリだ。
入学して半年。
下は20代から、上は60代迄、普段の生活では出会うことのできない仲間と出会い、友達が出来た。
昨日は地域のオフ会があり、そこで初めて、かっちゃんという、60代の男性に会ったが、参加するZoomで度々会うため、初めて会った気は全くしなかった。
彼のことが、実は今少し、気になっている。
FANTSの相談室に投稿された、継子についての質問に、真摯にアドバイスしているのを見て感動したのが、きっかけだった。
娘さんの名前が似ている、と聞いたことがある。
確か、サユリ。
それが実の娘でないことを、オフ会で初めて知った。
歳は親子ほど違うが、年齢など関係なく友達になれるオンラインサロンでは、年の差など感じたこともなかった。
このまま、恋になっても良いのか?
本当は、真由美に話したい。でも…。
今日のメールにも、そのオンラインサロンの愚痴に近い言葉が一言。
恋人の太郎がオンラインサロンにのめり込んでいることを、最近悩んでいる真由美には、自分もそこに在籍しているなんて、とても言い出せない。
世間とは、狭いものだなぁ…と思いながら、当たり障りなく返信をする、ユリコだった。

その9
【太郎の逡巡 I】
あの時、同棲を始めていなくてよかった…。
そう思っている自分に少し驚きを感じながら、五竜太郎は、煙草に火をつけた。
最近はもっぱら電子タバコばかりだったが、久々にどうしても吸いたくなり、コンビニに寄り、この店に入った。
3年前、同棲しないかと真由美に提案したのは太郎だった。
喜ぶとばかり思っていたので、「やめとこう。」と言われ驚き、「同棲すると結婚のタイミングを失うよ!ってユリコに言われてさ。」と続き、なんとも言えぬ気持ちになった。
真由美がプロポーズを待っていることは、わかっていた。だからといって結婚を選択する覚悟はなく、気付いていないフリをしてきた。
最近では、あからさまにプレッシャーをかけてくる。行動への口出しも増えた。
こちらがオンラインでの交流を楽しんでいるのも、気に入らないようだ。
だからと言って「アプリ断捨離して、あなたとの時間が増えるかと思ったのに…。」は、いくら何でも勝手じゃないか。
明日は『さるやま倶楽部』初のオフ会で5時起きだ。早く寝ようと思っていたのに…。

その10
【太郎の逡巡Ⅱ】
社会人になってから出会い、仲良くなり、今も続いている友達は何人もいるが、学生のときの友達とは、何かが違う...。
そう感じていた理由がなんだったのか、オンラインサロンに入って、太郎は、やっとわかった。
『人と繋がる=仕事に活かせないか』と考え、友達なのに、知らず知らずのうちに『利害関係』が、生じていたことを。
だか、このオンラインサロンで、そんなことを考えている自分は、どこにもいなかった。
そして、運良く太郎は、趣味の近い人、そして価値観の近い人と出会い、『さるやま倶楽部』を、自分で立ち上げるとろまで、進めることができた。
太郎にとってそれは、とても新鮮で楽しく、学生のときのような心地よい時間の過ごし方だった。
ずっと側にいて、大切に想いあってきた真由美にも、その気持ちを共有したいと思っているが、どう伝えていいのかわからない。
わかってもらえそうな気配も、今のところ感じないと悩む反面、明日のサークルオフ会で、小百合という女性に会うことを楽しみにしている、自分がいた…。

その11
【太郎と真由美】
夜中の11時過ぎ。
ピンポーン
太郎の家のインターホンがなった。
真由美が、ドアの前に立っていた。
「どうしたんだよ、こんな時間に。」
ドアを開けるやいなや、真由美は、
「明日は、一緒に遠出しようって思って、泊まりに来たの。明日、何の日か覚えてるよね?」
な、なんなんだよ、急に、クイズかよ?これって、当てなきゃえらいことになるパターンなのか?
太郎、思い出せ…!明日は7月17日だぞ、誕生日でもないし、付き合った日でもないぞ…。
リビングのソファーに座り込んだ、彼女が、ソファーの横に置いていた、荷物に気付いた。
「太郎、どこか行くの?」
明日、オフ会なんだよって、ここで言えるわけないよな…ってか、明日は何の日なんだよ。
太郎は、試験会場で、面接官に質問されている気分になり、緊張と、不安と、恐怖と…。
真由美は、そんな太郎を見て、ニヤッとした顔で、「では、三択でーす。」

その12
【さるやま倶楽部オフ会】
小百合は大きな一眼レフカメラで一生懸命、サルを撮影していた。キラキラとした表情を見ていると、彼女が愛されて育ったことがよくわかる。
「何、ニヤニヤしてるの?」隣にいた真由美が少し怒ったような顔でこちらを見て言った。
太郎は、思わずつられて笑っていたことに気付く。
真由美が、何か言い出そうとするより少し早く「あっ!」っと声が聞こえた。
声のする方を見ると、小百合だった。
「太郎さん、あのサルを見てください!ずっと飼育員にストーカーしてるの分かりますか?あれは、求愛行動なんですよ。」
飼育員は、少し迷惑そうにしている。
「あんなに、サルに懐かれたら、俺なら嬉しいんだけどな。」と、思わず本音が出た。
「サルはいいなぁ。一緒にいたいって気持ちだけで喜んでもらえて。私なんて逆に疎ましく思われちゃって。三択問題出されるの怖くて、一緒にサルを見に行こうって誤魔化したんでしょ。なんか疲れちゃった。」真由美は、目に涙を溜めていた。
「さるに教えられるなんて…。」太郎は、やっと自分の気持ちに気付いた。

その13
【太郎の逡巡 Ⅲ】
太郎は、昨日のことを思い出していた。
真由美の「では、三択でーす。」に対して、「あっ!テレフォン使わせて!」と逃げに入り、外に飛び出し、真由美の好きなセブンイレブンの抹茶ロールをダッシュで買いに行き、何事もなかったかのように、「明日さぁ、サル山を見に行かない?」っとしれっと、誘ってみたものの…。
あれからまともに真由美の顔を見てないな…。
そして、あの三択なんだったのかな?

一緒にいたいって気持ちだけで喜べるサルたち…。
俺と真由美は、いつからお互いに何かを求め合うようになったのだろう?
そういえば、俺が真由美に同棲の話を持ち出したときは、どんな気持ちだったのだろう?
一緒にいたいって気持ちで話をしたんだっけ?
一緒にいた方が家賃が安く済むとか、いろいろ打算的なことを考えてなかったか?俺?
もしかしてそんな気持ちが真由美に伝わってたのかな?
そんなことを、サル山のサルたちに、気が付かされながら、今、自分が純粋に一緒にいたいのは真由美なのか?小百合なのか?そんな疑問が湧いてきた。
気まずい沈黙を破るかのように、俺の隣に克美さんが来てくれた!
今の俺には、救世主に見えた!!

その14
【谷口ユリコは投稿した】
『サシのみクラブ』に、メンションして投稿!っと…。
心臓はバクバク。手が冷たい!
久しぶりにこんなに緊張して汗をかいている自分がいながらも…意外と冷静なユリコだった。
Zoomでサシで飲むというか話すためのサークルがある。
サークルに投稿して話したい人をメンションして呼び出すというものだ。
ほんと、いろんなこと考える人がいるよね…。
オンラインサロンに入っていなければ、こんな風な人との繋がり方があるなんて思いもしなかったし、自分の部屋で部屋着で、誰かとサシ飲みなんて、胡散臭い以外の何物でもなかった。
でも…コロナのお陰??もあってか、オンラインで繋がった人と本当に仲良くなれることを知った。
そして今、もしかして私!この人と仲良くなりたい?という人を待っている。
彼がメンションに、気付いてくれるかなぁ?
そして来てくれるかな?
自分でたてたZoomに、自分の名前だけが大きく映し出されている画面を眺めた。
ダメ、もう耐えられん。
投稿を削除しようとしたその時。ピロン♪
やばい、かっちゃんキタ…!!

その15
【サシのみクラブ】
克美が、Zoomのオンライン上に入ってきた。
Zoomの参加者名には、克美の名前の後に「移動中」という文字が書かれていた。
「克美さんは、移動中なんですか?」と、ユリコは、震えそうな声が伝わらないように、力を込めて克美へ投げかけた?
すぐに返事を聞くことが、出来なかった。
聞こえなかったのかなぁ?とユリコが、もう一度、声を出そうとしたとき、克美の声が聞こえてきた。
「前回、Zoomに入ったときは移動中だったんだけど、今は移動中じゃないよ。
明日、大会なのでお酒は飲めないけれど、緊張しているので、誰かと話したいなと思ってたんだ。」
しばらくすると、画面に書かれた「移動中」という文字は消えた。
それから、克美は今まで参加した大会の話を一人で話し始めた。
大会に行った会場のある全国各地で食べた食事や景色。
大会でのエピソードなどを楽しそうに話をしてくれた。
「ごめんなさい。一人でしゃべっているけれど大丈夫?」
ユリコは、高まる胸の鼓動を感じながら、克美が楽しそうに話をしてくれているのを聞いている時間が
ずっと続いて欲しいと思っていた。
「今度、応援に来る?」

その16
【ユリコと太郎】
「私が応援ですか?えええ!」
驚いているように見せて、本当はドキドキしている自分に気付くれるユリコ。
「あ、でも…次の大会は長崎だった…さすがに迷惑でしょ。泊まらなきゃ来れない距離だし…。」
克美は、遠慮がちに言う。
「都内に近い大会もあるから、その時は言うね。」
克美と今すぐお近づきになりたいユリコ。
「日程はいつですか?有休たくさん残ってるんです!」
こんなことを言ってしまったら、告白じゃないか…
と、どぎまぎするユリコ。
「9月の3週目。暑さも緩やかになって最高のシーズンだよ。」

『五竜太郎の場合』
「小百合、真由美、小百合、真由美」
公園、とは言えない遊具のない、だだっ広い野原のベンチに座っている。サル山から帰ってきて、真由美と別れ、まっすぐ家に帰る気がせず考え事をするために、立ち寄った。
草の間に生えていたタンポポの花ビラを一つずつむしりながら、気になる二人の名前を交互に呼ぶ。
「小百合、真由美、小百合」
「真由美…」
と呼んだところで、最後の花びらをむしる。
もう一つ花びらが咲いてないか茎を凝視する。
「そうだ、3つやって多かった2つの勝ちにしよう!」
そういってタンポポを探しに行こうと立ち上がった瞬間…
あれ、俺、何してんだよ!
答えってもう出てる…じゃないか…
真由美、じゃないんだ。
自分にウソをつくのはもう、やめよう。

その17
【ユリコと真由美】
「長崎に行く!」
真由美の顔を見るなり、ユリコは言った。
唐突過ぎて、何から聞こうか考えている真由美に、オンラインサロンに入っていること、惹かれている相手のこと、長崎へ行くことになった経緯を一気に話し、次にオンラインサロンがどれだけ楽しいかを熱く語り、さらには、
「真由美!一緒にやろう!」
ついに、真由美をオンラインサロンに誘うことが出来た。完全に勢いだった。
オンラインサロン「田村淳の大人の小学校」には、いつでも入学出来る訳ではない。
明日迄の募集期間が終わると、次に入学出来るのは、2ヶ月半も先になってしまう。
楽しい学校行事に真由美がいれば、もっと楽しいのにと、ユリコは思っていた。
何より、こんなに楽しいことを、真由美にも知って欲しかった。
「やってみようかな!」
拍子抜けするほどアッサリと、真由美は言った。その後、ユリコのアシストでアプリをダウンロードし、入学手続きを終えることが出来た。
「よろしくね!」
「こちらこそ!!」
もっと早く入学して、太郎と一緒に活動すれば良かったなぁ…と、真由美は思った。

その太郎と、サロンの活動で顔を合わせ、真由美のことや校内恋愛についてなど、色々と話すようになっていたユリコには、一つだけ、心配なことがあったが、この瞬間は、喜びの方が大きかった。

その18
【真由美と太郎】
「オンラインサロンに入学した」と真由美の口から聞いた、太郎は動揺した。
太郎は「マジかよ?!」と、心の中で叫んだ。
真由美は太郎の慌てぶりを見て、ため息のような深呼吸をする。
オフ会の光景を思い出す太郎。
楽しそうにサルを撮影する小百合。
そして、野原のタンポポの花びらの最後の一枚をむしりながら、声にしたかった名前。
太郎は、心の中で自分に問いかける。
「分ってんだろ。答えは出てるんだよ。迷ったらGOだろ。よしっ!」
「真由美、、、実は僕には他に好きな人がいます。なので、、、」と太郎。
「知っているよ。友達として今後ともよろしくね。」と、真由美は答えた。
太郎は、拍子抜けした。

アプリ断捨離をしていた真由美は、自分に向き合う時間が増えた。二人の関係も、客観的に見られるようになった。
自分たちの大切な記念日さえ、忘れる太郎。
「私なら忘れない。忘れられるはずがない。大事な日…。」
自分とは価値観が違うことが明らかになったことさえも、今では貴重な学びに感じられる。

一緒にいたいと想い、結婚を意識した相手…タイミングが合わずここまで来たということは、いずれ別れがあることを意味していたのかもしれない。
きっと、何でもタイミングだよね!
太郎さんは居なくなったけど、私には、オンラインサロンという新しい場所ができた。だから、大丈夫!大丈夫!!

その19
【ユリコと克美】
(とうとうこの日がやって来てしまった!)
やっぱり真由美に、ついてきてもらえば良かったかなぁ?
ユリコはドキドキとワクワクと不安で、胸一杯にしながら応援席で待っている。
もちろん、このドキドキはレースではない。
(かっちゃんに会える!!!)
この日まで、少しでも綺麗に見られる様に、出来るだけの努力はした。
食事はもちろん、早起きをして、毎朝の仕事場まで電車に乗らず、歩けるまで歩いたり、いつもより少し高い化粧水に変えたりと。早起きのお陰で早寝も出来て良かったけど、その間に克美とのZoomが少し減っていたのが気掛かりだった。
先程、克美のゴールを、見届けた。
今日の克美はレースで疲労困憊していたが、たくましい腕や太ももに汗が光り、一段と男性を感じた。
『おう!ユリちゃん!』聞き覚えのある声に振り向く。
(かっちゃんだぁーーー!!!)緊張と嬉しさが溢れ出す。
が、隣に若い女性の姿が。
「ユリちゃん遠いのに、ありがとう。」疲れた顔だが、満面の笑みの克美がいた。
色々話され答えてはいるが、隣の女性が気になって
話が入ってこない。
さっきまでの緊張とは程遠い緊張感であった。
「娘の小百合。話したことあったよね。」
ふと隣の女性を紹介されて、(娘さんかぁ)と安堵の表情になり小百合と挨拶。
「綺麗な娘さんね。」「自慢の娘だよ!」
そんな他愛もないやり取りをして、少し気持ちが落ち着いてきた。
それを、察した小百合が、
「私、見たい所があるから先行くね!」と気を利かせる。
途端に、ドキドキが甦る。
「行かないでー」と心の中では、叫んでいた。
当の克美はニコニコと、それを見送る。

「じゃあ帰り支度したら、また来るから。どこか好きな所で待っててくれる?」
(えーーー!この後なんて何も考えてなかった!)
克美は考えていた。
(ユリちゃんが応援に来てくれる。)
「応援に行きます!」と言ってくれてから、余りオンラインに入って来ないユリコに淋しさを感じ、自分の気持ちに向き合うことができ、確信に変わっていた。
娘の小百合には、「気になる人が出来た」と、それとなく話していた。
実の娘ではないが、そう思って自分は接したことはないつもりだった。
しかし、実の娘ではないからこそ話しておきたいと
今回、思ったのかもしれない。
母が居ない分、自分がしっかりしないければと、何処かで線が引かれていたのかもしれない。
小百合はアッサリ「とっても良いことね!」と、受け入れてくれた。
これも実の父親ではないからなのか?
少し淋しくもあったが…。

ユリちゃんはオンラインだけの付き合いだが、気になっていた女性。
まだ、30代後半と歳も娘に近く若い。
会っていいのか?こんなオヤジに幻滅されないだろうか。
ただ少し好意があるとは、感じている。
とりあえずレースのことだけを考えよう。
そう繰り返しながら毎日、練習に打ち込んできた。
ユリちゃんと会ったら何を話そう?どこに行こうか?
そういえば何も決めていない。
もっとオンラインに参加して話せる機会を作ろう。
長崎といえばハウステンボス…デートになるか。いやこれはデートだ。
でも、嫌がられるのでは?
克美の中でドキドキとワクワクと不安な気持ちが沸き上がる。

だが1つ、何故か『告白しよう』と決めていた。
そんなこんなで、当日を迎えてしまったのだった…。
「お待たせ!」克美が、入って来る。
ここは会場近くのカフェである。
ユリコは緊張で上手く笑えていないが、精一杯の笑顔で迎えた。
他愛もない話だが2人には、とても大切で楽しい時間(とき)が、そこには流れていた。
「かっちゃん本当にお疲れ様。疲れたでしょ。ゆっくり休んでくれていいからね。」
改めての、その優しい言葉が、克美には早く帰ってほしいとも取れた。

少しではあったが、長く感じた沈黙。
「ユリちゃん!いやユリコさん!」
「はい!」突然の大声に、ビックリするユリコ。
「会うのは初めてだけど、僕と付き合って下さい。」
『えっ!?』余りに突然で、ビックリするユリコ。
だが、嬉しさが沸き上がる。爆発寸前だ。
「あっ!友達からでも。」ちょっと、ヒヨってしまう克美。
「もう友達でしたよね?もちろん喜んで!!!」
そこには満面の笑みを浮かべた2人がいた…。

この後、ハウステンボスで笑い合う2人が居たことは、想像できたであろう。
これからの2人の物語は始まったばかり。
オンラインサロンには、様々な顔がある。
悪く言う人もいるだろうが、普段の生活の中では知り会えない世界中の人と繋がり仲間になっていく。
同じ時間なら楽しい方がイイでしょ!?
筆者達も、そこで出会った仲間なのだから。

その20
【太郎の想い】
真由美と別れて半年が経った。太郎はアメリカのセドナに来ていた。
パワースポットと呼ばれる山で朝日を待っていた。あたりはまだ暗い。
付き合い始めの頃、よく2人でセドナの朝日を見に行こうと話していた。何故行かなかったのか。行こうと思えば行けたのに、いつでも行けると思っていた。
「本当に、小百合の事が好きならそれでもいい。ただ、あの子に重荷を負わせないでほしい。」
克美に言われた言葉を考えると、小百合との仲をすぐに深める気になれなかった。
真由美はあれから積極的にオンラインサロンを楽しんでいるようだと、ユリコから聞いた。
「真由美ね、太郎さんの事を理解しようと、ようやく決心がついてオンラインサロンに入ったのよ。それからすぐに好きな人が出来たって貴方に振られたでしょ。あの子あれからずっと泣いててね。重かったのかなぁとか、嫌だったのかなぁとか、何度も言ってたの。自分から貴方の事を手放してしまった、離れていく貴方をつかまえようとしなかったって。
しばらくそんな日が続いたんだけど、真由美の支えになったのもオンラインサロンなのよ。」
真由美が初めて泣いた時、ずっと一緒にいると約束したことを思い出した。
誰かを愛しているという感情は一瞬だ。その一瞬一瞬を紡いでいく。
人は皆、それが永遠に続くという幻想にとらわれる。それは友情も変わらない。
お互いを思いやる瞬間、それは一瞬一瞬の奇跡。
その時、暗かった空が白みを帯びてきた。赤い地平線と青暗い空がオレンジに染められていく。
そのあまりの神々しさに圧倒される。
皆が口々に何かを叫んでいた。
一瞬一瞬の奇跡が一気に押し寄せてくるような、不思議な感覚だった。
自分も叫ぼうとした。だが声が震え言葉が出ない、視界が滲む。その時、涙を流していることに気が付いた。
生きている限り、愛はこぼれ、形を変える。でもそこにはきっと新たな奇跡があるのだろう。
いつのまにか朝日は昇り、あたり一面を柔らかく照らしていた。
まるで世界中の奇跡をキラキラと光り輝かせるように。

その21
【真由美の想い】
真由美は、ずっと考えていた。

太郎さんを、手放してしまった…。
太郎さんと、このままの関係が続くことが幸せかどうかわからなくなってきて、手放してしまいたい気持ちがあったのかもしれない。
スマホのアプリ断捨離したときと何か似た感じで、リセットしちゃいたかったのかもしれない。でも、アプリ断捨離のときみたいに、全然スッキリした気分にはなれなかった。

なぜ…
太郎さんとの関係を自分からリセットしたわけじゃなく、流れに任せて、太郎さんの選択を受け入れたからなんだと、気付いた。
自分のことなのに、自分で決めてなかった…。
そんなことを、夜の深い時間に、オンラインサロンのメンバーと話しているときに気付いた。

自分のことだけど、はっきりわからないことは、やっぱりある。
話していくうちに整理されることもある。
オンラインサロンって、非日常感もあるから、慣れてきたら、普段よりもよっぽど自然体で居られる…不思議…。
いろんな人と話して、価値観を共有していくうちに、なんだか、元気が出てきた。
それと同時に、日々の忙しさを言い訳にして、楽しみや経験を、先送りにしてきたこと、新しいことをしようという気が起こらなくなってきていたことに、真由美は気付いた。
今まで先送りにしてきた楽しみを実行しようと思える自分がそこにいた。

太郎さん、ありがとう。
オンラインサロン…楽しいよ。
一緒に楽しめたら、よかったね。

でも、こうして気付けたから、私は幸せ。
オンラインサロン…最高!!

#創作大賞2023
#オールカテゴリー部門