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【Apple Watchとヘルスケア】臨床研究から医療の現場へと広がるApple Watchの可能性

こんにちは!アツラエnote編集部、UXプランニングチームの小笠原です!

医療やヘルスケアの分野でも活用が広がるApple Watchですが、その実力や可能性を専門家はどのように考えているのでしょうか。臨床研究や診察でApple Watchを活用されている慶應義塾大学医学部循環器内科の木村雄弘医師にお話をお聞きしました。


プロフィール

木村雄弘医師
慶應義塾大学医学部循環器内科。最新ICTと医療を融合した診療環境の構築に取り組む。不整脈専門医としての診療とともに、ヘルスケアと医療の効率的な連係を目指し、AI(人工知能)を駆使したDigital Medicineの研究を行っている。


Apple Watchを活用した臨床研究「Apple Watch Heart Study」

──木村先生は医療とICTを結びつける研究をされていますが、Apple Watchに注目されたきっかけを教えてください。
木村:私はもともと循環器の分野で心臓の不整脈を専門に研究と臨床を行っていて、Apple Watchについては、スマートウォッチに搭載された最初のバイオセンサーが脈拍計だったことに驚き、Series 1から医療に活用できないか注目するようになりました。2015年には、こうしたApple Watchが収集した膨大なヘルスケアデータを臨床研究に活用するため、Appleの医学研究用フレームワーク「ResearchKit」を利用したiPhoneアプリを公開しました。

──Apple Watchと医療・ヘルスケアの結びつきは年々強くなっていますね。
木村:2020年9月以降は日本国内でも「不規則な心拍の通知」機能が家庭用医療機器アプリケーションとして承認され、翌年には「心電図」アプリの利用も可能になりました。アプリの分類は病院の検査を元に行う医師の診断とは違いますが、普段から測定していれば心臓の病気の早期発見につながる可能性があります。そこで、こうした機能をさらに効果的に利用するために、Apple Watchが測定するヘルスケアデータを用いて、「あなたにとっていつ心電図を記録すれば異常が検出されやすいか?」を明らかにするために研究用アプリの「Apple Watch Heart Study(以下、Heart Study)」の開発をアツラエさんに依頼したのです。

──Apple Watch Heart Studyでは、どのような点を意識して開発されたのでしょうか。
木村:この研究では、安静時と睡眠時にApple Watchを装着していただく他に、飲酒やストレスの影響などライフスタイルに関わるアンケートを7日間にわたって答えてもらう必要がありました。臨床研究は一般的に味気がなくつまらないものですが、それをどのようにして参加し続けていただけるか、継続性や習慣性を促すデザインをアツラエさんに考えていただきました。そのおかげで参加者にはとても好評で、無事研究を終えることができました。

──研究をしてわかったことや意外だったことはありますか。
木村:例えば、睡眠不足と不整脈には関係があると言われているため、アンケートには「よく眠れましたか」や「睡眠中に何回目が覚めましたか」といった主観的な質問項目があります。そしてこの主観的な回答は、睡眠データなど、Apple Watchが取得する客観的なデータと高い精度でマッチしている点には驚きました。アンケートでたくさん質問するよりもApple Watchが自動的に収集するデータを活用できる可能性を示した点は興味深いです。

慶應義塾大学病院・慶應義塾大学医学部では、Apple Watchを利用した臨床研究として「Apple Watch Heart Study」を2021年に実施しました。

ヘルスケアデータを日常的に記録する意義

──Apple Watch Heart Studyを用いた研究は終了しましたが、今後はどのように研究を進められる予定ですか。
木村:現在は解析したデータから構築したモデルをもとに、自分の腕で心電図を記録するタイミングを通知し、それがきっかけでこれまで診断されたことのない不整脈を早期に発見するサービスを目指しています。そのために、健康な人と患者様でそれぞれ通モデルの通知が本当に不整脈の検出につながったかどうかなどを観察できればと考えています。

──Appleも5月から心房細動履歴の機能を国内で提供開始しましたが、これとの関連性はありますか。
木村:心房細動履歴は、すでに医師から心房細動と診断された患者さんのための機能なので、健常人は利用対象外となっています。この機能が追加されたことにより、これまで不整脈と診断されたことのない方も、診断された方もApple Watchのアプリケーションを使えることになりました。医師も患者も、こうしたアプリケーションの限界を理解し、最大限に活用する必要があります。より多くの人々がヘルスケアデバイスがきっかけで先端医療にアクセスし、その後の生活もデバイスが見守る流れを作っていきたいと考えています。

──Apple Watchを装着することで健康意識を高めることにもつながりそうですね。
木村:不整脈などの病気が常に自覚症状を伴うとは限りませんし、病院での検査は在院期間のデータしか取得できません。普段の家庭生活のデータは、診察時の検査と合わせることで、早期に病気を発見する可能性も高まりますし、具体的な治療プランを提供しやすくなります。その意味においても、Apple Watchを装着する意義は大きいでしょう。

──医療の現場では実際にApple Watchは役立っているのでしょうか。
木村:Apple Watchで記録したデータをiPhoneの「ヘルスケア」アプリから印刷して持参される患者さんも増えています。このようなデジタルによる小さな変化が積み重なることで、医療をめぐる環境は大きく変わっていくのではないかと期待しています。

2024年5月22日に、日本国内でもi心房細動と診断された患者向けにPhoneとApple Watchの心房細動履歴機能が利用可能になりました。

次回、Apple Watchで注目したいヘルスケア機能や法人での活用、医療のDX普及を妨げているさまざまな要因などについて、さらに詳しく木村雄弘医師にお聞きします!

参考リンク