見出し画像

スモークフィッシュのオムレツ

「いつかの朝ごはん」というマガジンを始めることにした。朝ごはん、というタイトルにしたものの、朝ごはんに限らずここ最近作っている料理やデリバリーしたものなどにまつわるお話を書いていけたらと思っている。私は料理にものすごく拘りがあるとか、美食家ということではない。日本に帰るとコンビニのおにぎりや松屋の美味しさに感動するし、味噌汁はセブンのフリーズドライの揚げなすが一番好きだ。

ただ、自分が食べるものに関してはとても愛情を抱く。いつも食べたいものをじっくり考える。食べたいものが思いつかない時は、何かしら心が不調な証拠だ。

食べるものに関して思い巡らすことが多々あるため、こうして言葉を綴って残していこうと思った。

「朝ごはん」としたのは、私が幸福になるのはいつも完璧な朝ごはんを食べられた時なのだ。夜ご飯ももちろん愛しい。でも、朝の光の中で(多くはブランチの時間だが)自分がその時幸福になれるものを食べている時間が最も充足感がある。完璧な、といっても、小鉢がたくさん並んだ和朝食や、ワイルドフラワーカフェのビッグブレークファストのようなものでなくて良い。その時自分が完璧と感じる朝ごはんが、完璧だと思っている。

さて始まりは、スモークフィッシュのオムレツから。

朝、オムレツが綺麗に、中はトロッと焼けた。それだけで一日は美しく始まった。

このオムレツにはスモークフィッシュとトマトと葱が入っている。スモークフィッシュにしっかりと味がついているので、それ以外塩などは入れていない。玉ねぎを探したが切らしていたため、長葱で代用した。スモークフィッシュの味で十分美味いのだが、トマトケチャップを少々つけるとさらに美味しい。

今回はくどくなり過ぎないよう、バターは使わずオリーブオイルで焼いた。具材の入った卵が熱いフライパンにいる時間はだいたい10秒。それ以上だと中身が固まってしまう。

このスモークフィッシュは、使い忘れていた真空パックのSmoked Bangus(ミルクフィッシュ)を1ヶ月ほど前にようやく開け、少しずつ料理に使った最後の一切れだった。

フィリピン語ではスモークフィッシュはTinapa(ティナパ)という。ビサヤ地方で多く作られ缶詰などの形でスーパーや市場で売られている。フィリピンの人々にとっては一般的な食べ物だが、今まで自分から買ってみることはなかった。そのスモークフィッシュの話をしたい。

1年半ほど前、VIVA EXCON(ビバ・エクスコン)という、ビサヤ地方のアートの祭典を観にパナイ島のカピス州ロハス市を訪れた。フィリピン人のアーティストの友人に誘われ、その時確か個展前だったのだが、弾丸の一泊二日でロハスに行ってきた。

ビバ・エクスコンはいつか行ってみたいと思っていた。1990年から開催され続けている、フィリピンの最も歴史が長いアートの祭典である。2年に一度、ビサヤ地域の都市で行われる。ビバ・エクスコンは美術館や行政が始めたものではなく、Black Artists of Asiaというアーティストのグループが創設した、アーティストたちが中心となって行なっているイベントである。ビサヤ地域は大小様々な島からなっている。それぞれの島のアーティストたちが交流し、ビサヤの文化を守り、かつアップデートしていくという目的で現在も続けられている。

それだけ聞いても、地方活性化を目的としたり、地方活性化を軸に発展してきた日本のアートの祭典とは、全く異なる目的と経緯がある。

ビバ・エクスコンではアートの展示があるだけではなく、カンファレンスを重要視している。1日半だけプログラムに参加し、カンファレンスにも出席したが、それぞれのビサヤ地域から参加しているアーティストのグループが自分たちのアートを取り巻く状況についてプレゼンしていた。

画像1

夕刻前に着いたロハス空港

画像2

2018年ビバ・エクスコンの体育館での展示の一部

画像3

ビサヤ出身アーティストのインスタレーション作品

画像4

カンファレンスの様子

そのカンファレンスの受付で参加者に渡された物に、プログラム、エコバックや地元企業のパンフレット、そして箱入りのスモークフィッシュの真空パックが入っていた。ビバ・エクスコンはマニラからも多くのアート関係者が訪れる。海外から参加する人も多い。カピスの名産品は、地元のPRにもなるし、参加者には嬉しい手土産である。

それが件のスモークフィッシュだった。

箱の写真を撮り忘れたため、ホームページから拝借する。

画像5

このCAPITAN Del Marというメーカーは、カピスの食品メーカーである。他にも缶詰などを作っている。

食べようと思いつつ、調理の仕方を調べるのに怠惰で、約1年半放置してしまったスモークフィッシュ。私はフィリピン料理は好きだが、正直全てウェルカムに愛してはいない。苦手な味もあるし、買って失敗したものもある。そんなこんなで保存食品箱にしまったままにしてしまった。でもありがたいことに、真空パックのスモークフィッシュは賞味期限が長い。

マニラがロックダウンになってほぼ毎日自炊をするようになり、ついに開けていなかったスモークフィッシュを開けてみた。全く、もっと早く知っておけば良かった。と思うくらい、それは有用で美味しい食材だった。

真空パックの中には2匹のバングス が丸々入っており、塩と燻製の香りの、コク深い味付けがされていた。説明書きにはそのままでも食べられるし、フライパンなどで焼いても良いと書いている。

そこで箱を開けた初日は、1匹まるっとフライパンで焼いてみた。

画像6

レモンを絞ると尚美味しい。頭から尻尾まで全て食べることができるし、とても柔らかい。ビールに合わせたが、白ワインにも間違いなく合う。

そして二日目は、これは絶対に酢飯に合うという確信から、和風の混ぜご飯にしてみた。酢飯に長葱と生姜の千切り、白ごまとスモークフィッシュをほぐしたもの。青じそが手に入らなかったのが残念だった。

画像7

写真左が混ぜご飯。トマトと卵のタイ風炒めと一緒に。

そして3日目はパスタ。スモークフィッシュとコンキリエ(貝殻の形のパスタ)のトマトクリームソース。

画像8

スモークフィッシュはクリームソースにも相性が良い。もちろんトマトにも。至福の一品に仕上がった。

そして最後に、オムレツの朝食に。

ティナパの美味しさに気づけたことはとても嬉しい。CAPITAN Del Marの商品がマニラのスーパーにあるかわからないが、今度探してみようと思う。他のブランドのものでも、またスモークフィッシュを買ってみよう。

ビバ・エクスコンは今年の11月にネグロス島バコロド市で開催予定だが、このコロナ禍でどうなるかまだわからない。開催され、マニラから行くことができる状況ならば是非もう一度参加し、学びたい。今度は弾丸ではなく、ビサヤ地域の美味しいものなどもゆっくり堪能したいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?