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#29 兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(3)

キャンプ生活と、シェアリング・エコノミー

室谷 キャンプに行くと、同行者の人間性がよくわかりそうですね。ふつうの旅行ですら、相手の新しい一面を発見したりしますから。

坂本 まさにそうで、家族同士でキャンプに行くと、隠すものがありません。隣のテントの会話が全部聞こえますから、プライバシーなんて関係なし。お互いに配偶者や子どもにどんなふうに話しているか、わかっちゃうわけです。朝はすっぴんだし。

あと、自然の中ではちょっとしたことがケガや死につながるので、他人の子どもでも危ないことをしたら注意します。いまはみんな面倒を避けて、人と極力深く関わらない。ましてや他人の子を叱るなんて、日常生活ではなかなかないですよね。

室谷 ママ友同士の付き合いも、表面的になりがちですね。どこまで踏み込んでいいか、いまいちわからなくて……。

坂本 そういう意味では、キャンプには昔ながらの濃い人間関係が残っています。昔のドラマでよく「お醤油が切れたんだけど、ある?」という近所付き合いが出てくるじゃないですか。あれに近い。誰かが「お米を忘れた!」と言ったら、すぐに周囲から「たくさんあるから分けよう」と声が上がるし、食事もみんなで協力して作ることが多い。シェアリング・エコノミーが自然と発揮されるのが、キャンプ生活だと思います。

学校や会社、地域など多くのコミュニティは、肌が合わなくてもそこにいなきゃいけない。でもキャンプは利害関係もなければ強制もされないので、本当に相性がいい人だけが残る。うちも、20年以上続いているキャンプ仲間が何人もいます。

キャンプに行くと、家族の関係も深まりますね。食事も寝るのもテントですから、一緒にいることが自然になる。その延長で、うちの家族はふだんから自分の部屋に閉じこもらず、リビングに集まることが多いです。小学校の先生に「坂本さんち、どうやったらそんな子に育つんですか」と聞かれたときも、「何もしてないですけど、キャンプかなあ」と答えたくらい。

最近、スノーピークで、いまお話したような「キャンプの力」を言語化しているんですよ。

              坂本さんからいただいた、スノーピークが社内外で使っている資料

こうやって見ると、キャンプで養われる力って、「生きる力」や「仕事をする力」と重なるでしょう。スノーピークの社員は基本、みんながキャンパーなので、こういう力を持っている。

室谷 そもそもキャンプが好きじゃないと、つらい職場ですか。

坂本 めちゃくちゃつらいと思いますよ。毎年開催しているイベント「スノーピークウェイ」は、バックオフィスの社員も含め全員が参加します。ときどき、「これからキャンプを始めます」と言って入社したものの、そこまで好きになれなくて辞めていく人もいます。業務の一部にキャンプがありますし、それを楽しんでないのがわかると「あいつ、キャンパーじゃないな」と言われてしまうことも……。

室谷 心からキャンプが好きな人だけが残るんですね。

坂本 僕が異業種から中途で入ってすぐなじめたのも、キャンパーだからでしょう。最近、会社経営で「パーパス」という言葉がよく使われるじゃないですか。僕は金融機関でいろんな会社を見てきましたが、パーパスを無理やりつくって目的化する会社と、自分たちがやっていることを言語化すると自然にパーパスになる会社と、2種類あると思います。

スノーピークは後者で、掲げている「The Snow Peak Way」は、まさにキャンプの力をつかって人間を幸せにし、地球を良くすることを目指している。会社としてずっとやってきたことに、いま、時代が追いついていると思います。

室谷 現代社会にキャンプの力が求められているというのは、実感としてわかります。みんなで力を合わせて、時間をかけてお料理をつくるとか、自然の中で本能を解放して遊ぶとか。忙しい都市生活の中で、邪険にしていることばかりです。

坂本 あと、星を見るとかね。良くも悪くも、大人になると仕事が人生の大半を占めて、ついそういうことに時間を使わなくなっていく。だからなおさら、自然という非日常に身を置く時間が重要になっているのでしょう。

室谷 経済活動に使う時間と、自然のなかで大昔から人間が営んできたことに使う時間。そのバランスを見直すことが大事ですね。

(つづきます→「異端児だから、経験できたこと」)

※写真はすべて友人である写真家の中村紋子さん@ayaconakamura_photostudio によるものです

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