#35 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」〜中村紋子さんのお話(1)
今回は、このnoteでいつも写真を提供してくださっている、中村紋子さん(通称もんちゃん)が登場します。写真を撮ること、絵を描くことを生業にしているもんちゃんは、私の友人であり、参与観察(*)の対象でもあります。
というのも、彼女は写真や絵のお仕事で、ちょくちょく現金以外の対価を得ているらしいのです(実はこのnoteの写真も、「肩たたき券」みたいなもんちゃん手作りのチケットで対価を支払っている)。
さらに、ふだんから野菜を育て、洋服やバッグを縫うなど、生活の多くが自給自足。どうやらもんちゃんは、クルミド珈琲の影山さんが国分寺で挑戦している「お金を減らす試み」(#11~#14 兼業生活)を、個人で実践しているみたいだ……。
薄々気づいていたものの、その生態は友人として付き合う私から見ても、謎に包まれていました。今回、もんちゃんの個展のためにインタビューを行う機会に恵まれ、ずっと知りたかった「仕事と生活」についても、しっかり聞かせてもらいました。個人史としても、このnoteのテーマとの関係性においても、めちゃくちゃ面白かったです!
(*)異文化社会の研究などで、調査対象となる集団に身を置き、行動を共にしながら観察データを得る方法。
買うよりも、つくる方が断然楽しい
室谷 このnoteを始めたいと思っていたときに偶然もんちゃんと出会い、やりたいことを的確に理解してもらえたのが嬉しくて、写真提供をお願いしたんだよね。ただ、noteは無料で公開したくて、どのくらいの報酬でお願いできるかを悩んでた。そしたらサラッと「報酬は現金か、地域通貨か、物々交換の3択があるよ。どれがいい?」と言われて、衝撃を受けました。
中村 ええー、なんで?
室谷 そんな選択肢を出されたのは初めてだったから。それまで、現金以外の報酬を提示されたことなんてなかったよ。
中村 そうなんだ!
室谷 ふつう、そうだと思う(笑)。そもそも、どうして現金以外のやり取りを思いついたの?
中村 東日本大震災が起きた後、お仕事のやり方を変えたいなと思ったことがあって(この経緯は後で出てきます)。いろいろ考えるうちに、ミヒャエル・エンデの本(『エンデの遺言―根源からお金を問うこと』『エンデの警鐘―地域通貨の希望と銀行の未来』のどちらかだそうです)を読むと、狭い範囲で流通する地域通貨の話が出てきて。もんちゃんにはこれが合ってる!と思ったの。
中村 例えば若い作家さんの作品を撮影するとき、お金がないのはわかるから、あまり高い撮影料を請求したくない。でもこっちは一生懸命撮影したいし、無料というわけにいかないでしょ。最初は撮影料の代わりに作品を1ついただいていたのだけど、時々、金継ぎ師とか技術の人もいて。そのときに地域通貨なら、「大事なものが壊れたらこれで直してね」と渡しておける。
室谷 私も結局、「技術の人」として、地域通貨で払わせてもらっています。
中村 技術の提供は、色がついてるところが面白いよね。もんちゃんは写真を毎日撮ってすごく大事にしているけど、あっちゃん(室谷のこと)は同じような気持ちをインタビューに持っているんだな……なるほど!と思いながら、地域通貨を渡す。お金には色がないけど、技術の交換だと相手の特徴が出て面白いよ。
室谷 物々交換は、どうやって?
中村 以前、クラフトビール会社でお仕事したときに、担当の方が「支払いはビールでもいいよ!ハハハ」って言ったから、すかさず「じゃあビールがいいです!」ってお願いしたの。その方はギョッとしてたけど。それからは撮影をすると、ビールが送られてきます。
あとは農家さんの家族写真を毎年撮っていて、対価として畑で獲れた野菜をいっぱいいただいて帰ります。他にも家族写真を撮影している方がいて、そのうちのおばあちゃんからは、お歳暮をいただいている。撮影しながら、たまたま「うち、すごくたくさんお歳暮が来るんです」という話になって、「よかったら物々交換にしませんか?」と提案したら、面白がってくれて。相手がどれだけ面白がってくれるかが、ミソだね。
室谷 生活するには、現金も必要でしょ? そのバランスはどう考えていますか。
中村 もんちゃんはどうやら、今の暮らしだと年間300万円の収入があれば、100万円貯金できる! 例えば食費は、一家3人で月2万円台。一人暮らしの友人が「うちより安い」と驚いていたけど、野菜はけっこう自分でつくるし、友達と交換もするから、あまり買わなくていい。洋服やバッグも最近つくれるようになったし。もんちゃんはつくることが趣味だから。いいものを見るとじーっと観察してつくっちゃう。それが娯楽にもなる。
室谷 すごいなあ。衣食住のうち、「衣」と「食」はできるようになって、そろそろ家だね。
中村 ほんと、そうなの!最終的には家だよね。さすがに基礎工事はできないけど、内装をできるようになりたい。つくることの究極は、家とコミュニティだなと思っていて、最近はお洋服をみんなでつくる部活を主宰したりもしているよ。
中村 こうやっていろんなものをつくるのって、本当に楽しい。でもいまは、出来上がったものを買うのが楽しいって人が多いでしょ?あれ、すごく不思議なんだけど……。
室谷 私は買い物、楽しいけどな。好きなブランドの世界観とか、見るだけで幸せになる。そのためにがんばって働いて、手に入ったときの喜びも大きいし。
中村 そっか、もんちゃんは物欲がないのかも。いいお洋服を見ると「すごく綺麗にステッチが入っているなあ」とうっとり見た後、「自分でつくれるかな」と思うよね。
あ、でも作家さんの作品は、毎年一つ買っています。大学でお世話になった細江英公先生が「人の手に三代渡ると、その物は残る」と言っていて、本当にそうだと思うから。大好きな作品を買って、「もんちゃんが元気なうちは、ここでお過ごしください」という気持ちで預かって、最後は大事にしてくれそうな人に託すつもり。そのための買い物は続けているなあ。
室谷 所有の概念が自分と全然違って、新鮮。
中村 ふつうは、お金の世界にいる方が安心するのかな。もんちゃんはそうじゃなくて、つくる方が楽しいから、むしろそのための時間が必要だね。とにかく300万円はゆとり込みで必要だから現金収入を得るとして、働く時間をいかに減らすか。前は週4日だったのが3日くらいにできたから、今後は週2日ぐらいの労働にできたら最高だなと考えています。働く以外の時間は、つくることに費やしたい。
室谷 山に住んでいる野生動物が、ときどき人里に降りていって現金収入を得て帰っていく……というイメージが浮かんできた(笑)。
中村 お金が回っている世界が嫌いなわけじゃないんだよ。ときどき海外のクライアントから絵の依頼が来ると、結構な金額で「好きに描いて~!」というノリで、それも楽しい。だから資本主義を全否定するつもりはないし、便利なものだとも思う。
多分、もんちゃんにとってお金は言語の代わりなの。こうやって話して、言いたいことがちゃんと伝わる人にはあえて使わなくていい。そういう関係だったら、物々交換や地域通貨の方が面白いでしょ。でもそうじゃないときは、現金が楽。めんどくさいこと話さなくても通じる。
地方で、ご近所がみんな知り合いだと、野菜や米を交換して経済のかなりの部分が回っちゃったりする。そういうのすごくいいなって思う反面、人間関係の狭さがつらくなるときもあると思う。だから都会で報酬の選択肢を広げるのは、いいとこ取りじゃないかな。しがらみを最小限にして、言語が通じる人との間で、まず試してみる。みんなもっとやればいいのに。
室谷 なんか私も試してみたくなってきた。
中村 いいじゃん!面白いよ。
(つづきます→「そのままの自分」を押しつぶすもの)
※写真はすべてこのインタビューに出てくる写真家の中村紋子さん@ayaconakamura_photostudio によるものです
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