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#11 兼業生活「お金に頼るのを半分にするという、挑戦」〜影山知明さんのお話(1)

今回お話を伺ったのは、東京・国分寺市で、クルミドコーヒー胡桃堂喫茶店を経営する影山知明さんです。まずは、プロフィールの紹介から。

かげやま・ともあき 1973年東京・西国分寺生まれ。東京大学法学部卒業後、マッキンゼー&カンパニーを経て、ベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年、西国分寺の生家に多世代型シェアハウス「マージュ西国分寺」を建設。その1階に「クルミドコーヒー」を開業。同店は2013年に「食べログ」(カフェ部門)で全国1位となる。2017年には国分寺に2店舗目となる「胡桃堂喫茶店」をオープン。地域を拠点とした出版業や書店業、哲学カフェ、地域通貨、米づくり、まちの寮などにも取り組む。

資本主義のど真ん中から、小さなカフェの経営へ。影山さんは実家の建て替えをきっかけに、“逆ベクトル”に見える人生を進み始めます。

私が「ビジネスと生活の間に横たわるふか~い谷」について考えていたとき、モヤモヤした違和感を言語化する手助けをしてくれたのが、影山さんがご自身の経験から得た学びを綴った、『ゆっくり、いそげ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』『続・ゆっくり、いそげ 植物が育つように、いのちの形をした経済・社会をつくる』という2冊のご著書でした。

タイトルからわかるように、影山さんは「人を手段にする」資本主義に異議を申し立てています。だけど全否定するのではなく、資本主義のいきすぎたところを変えていく。そのやり方にビジネスマインドがあって、ちゃんと勝ち筋を見据えているような……。

そしてご著書には、影山さんがお金と時間を費やしてカフェという場をつくり、試行錯誤してきた中で得た「実践知」がつまっています。もちろん、現実の経営はきれいごとだけでもないはず。そこも含めて聞いてみたいと思いました(計4回の記事です)。

「お金の不安」が生きることを脅かしている

室谷 今日はよろしくお願いします。(noteを始めた経緯などを説明……長くなってしまった)

影山 (一通り、静かに聞いた後で)いっぱいしゃべっていますね(笑)。いいんです、それだけ思いを高めて来てくれたということで。深呼吸してくださいね。

室谷 すみません、本題に入ります。影山さんのご著書は、いきすぎた資本主義経済のもとで失いつつあるものを指摘し、そうではない組織・経営のあり方を示唆していてとても参考になりました。しかし長引くコロナ禍で、経営が苦しいことをSNSで吐露なさっています。そのあたりをまず聞かせていただけますか。

影山 そうですね。2021年2月に「このままだとお給料を払えなくなる」というところまできて、社員にもそのことを伝えました。幸い、みんながアイディアを出してくれたおかげで乗り切れましたが、経営は今も厳しいです。コロナが第6波、第7波と続く中で売り上げが思うようには増えず、最近では感染拡大防止協力金をはじめとする補助金も終了し、コロナの融資の返済も始まっていますから。この状況が続けば、いつお店がなくなってもおかしくない。

でも、僕の気持ちは以前より穏やかです。昨年2月に問題意識を共有して以降、みんなが自分ごととして捉えてアイディアを実行してくれるようになり、そのうちのいくつかは成果が出ている。そのおかげで足元の大変さとは裏腹に、「なんとかなるだろう」と思ってもいますし、それでもお店がなくなるのなら、それはそれだと思えるようにもなりましたので。

室谷 どんなアイディアで経営が改善したのですか。

影山 まだまだ改善の途上ですけど、ちょうど最近、みんなでこんな話をしました。僕たちの本分は週6日のカフェ・書店営業で、この基本事業のことを「A事業」と呼んでいます。ここには、お店の開業前や閉店後の時間を使って月に2~3回やっている哲学カフェ「朝モヤ」や、月に2回の「もちよりブックス」なども含まれます。

また、より多くの人にクルミドコーヒーと胡桃堂喫茶店を知ってもらったり、常連さんと深い関係性を築いたりするためのイベントも開催しています。例えば2ヶ月に1回の「お菓子とコーヒーの夜」は、お菓子作りが得意なスタッフとコーヒーに詳しいスタッフとのペアリングで、その日限りのメニューを実現するというもの。こうしたイベントを「B事業」と呼び、さまざまな価値やご縁を生む取り組みとして大切に育ててきました。

これまで「売り上げを伸ばそう!」とみんなで意気込んだとき、向かうのは基本、B事業であることが多かったのです。ところがB事業は、毎回、手間も費用もかなりかけています。結果として、売り上げは増えるけど出ていくものも多く、経営が楽にならない状況が続いていました。

そこで最近は、「C事業」という領域を考えるようになりました。売り上げを大きくしようとすると、それに応じて人手もかかってしまうタイプの取り組み(労働集約的)ではなくて、売り上げの規模も狙えるような種類の仕事です。別にお金に魂を売るわけではなくて、きちんと収益を残せる事業をクリエイティブに考えていこうじゃないかと。

現時点で3つを考えていて、1つは「クルミド大学」という学びの場です。「教える人」と「特定のキャンパス」がない学びの場として、これまでに9つの講座を開講してきました。まとまった連続講座なので、1回ごとのイベントよりも運営の負担がかからず、仲間たちとの縁を広げ、深めることもできますし、まちの共通言語のようなものも育める。とても可能性を感じている取り組みです。

2つ目は「胡桃堂メンバーズ」という場づくり。胡桃堂喫茶店の営業が11時~18時なので、その前後を会員の方に自由に使っていただいています。個人で読者や仕事にいそしんでいただくのもよし、イベントを企画していただくのもよし。先日は、みなで麻雀をやりました(笑)。ぼくらは、お店の空間を維持し、磨くためにかなりの時間と手間をかけています。その空間を、通常営業以外にももっと活用してもらおうという取り組みです。月額5000円の会費で現在20名ほどの方々にご参加いただいています。

3つ目は「製造委託」の検討です。創業以来、お店で出す食品は基本、全て手作りでやってきましたが、僕らは十分な製造設備を持っていないことも多く、そこをどうしても人手でカバーしてきていました。そこで最近は、哲学を共有できるその分野のプロフェッショナルの方々に、一部製造をお願いするようにもしてきました。例えば、僕たちは国分寺で古くからつくられていた米の原種である「赤米」を育てています。「国分寺赤米プロジェクト」というんですが、ここで収穫した赤米を使ったビールやあられは、ご縁をいただいた外部の仲間に委託してつくってもらっています。

このC事業がもう一回り大きくなれば、全体のお財布事情も楽になっていくはずです。

室谷 足下では、お店を続けるためのお金を確保しなければいけないわけですね。影山さんのインタビューで「本当に事業が成長したら、お金を減らせる」というビジョンを知って、すごく面白いなと思いました。その関係性はどうなりますか。

影山 うん、それはすごく大事なところですね。僕らには「表の戦略」と「裏の戦略」があって、今お話したのは、表の戦略です。現状の資本主義の中で事業を続けるには、消費税や固定資産税や法人税などさまざまな税金を払わなければいけません。社員の社会保険料もあるし、電気代やガス代、もちろん家賃だってあります。これらの“大きなシステム”から完全に自由になれない以上、みんなで知恵を出し合って乗り切ろうというのが先ほどの考え方。

だから相応の稼ぎのために頑張るんだけど、それだけだと世の中をつまらなくしている“大きなシステム”に加担して終わってしまう。そこで僕たちは裏の戦略として、長期的には「お金に頼るのを半分にする」ことを目指しています。

今回、コロナ禍で“稼ぐ”ことが不安定になった途端に、僕たちの“生きる”ことが脅かされました。世の中全体を見ても、お金を失うことへの不安がどんどん強くなっています。不安だから、お金を稼ぐために人が手段化されるような職場でも我慢して働く。そうではなくて、お金に頼るのを半分にできれば、職業選択の自由度は大いに高まる。スタッフ一人一人の生活において、お金への依存度が下がれば、会社として支払う給与を大きく増やせなかったとしても生活の豊かさは高まります。

実際、ぼくらのようなお店の場合、いちばん大きな支出項目は、社員やアルバイトメンバーの給与です。じゃあ、みんなはその給与を何に使っているかというと、特に都市部では、大部分が家賃に消えていく。一方、国分寺には空き家がたくさん余ってもいるわけです。そうした資源をうまく分配・活用さえできれば、実はそんなにお金を使わなくても生活の基盤を得られるだろうと思うのです。

すでに衣食住に関しては、僕らの先輩が残してくれた富=ストックがたくさんあります。それらを使って、長期的には、お金に頼る度合いを今の半分くらいに減らしたい。

室谷 裏戦略が実現できたら、すばらしいですね。実際にやってみて、どこが一番難しいですか。

影山 それぞれ難しいところがありますね。例えば家賃に関しては、地域の仲間と一緒に「ぶんじ寮」という、家賃3万円(+税、共益費)のシェアハウスを国分寺につくりました。家賃を安くできるのは、既存のストックを活用していることに加えて、館内の掃除や草むしり、水回りの修理といった管理を外注せず、入居者が“持ち寄る”形にしているから。ルールもなく、問題が起きたら話し合って入居者たちでつくっていっています。

ぶんじ寮でやっていることをもっと広めたいですが、ここは元社員寮で、敷地面積222坪、23部屋もある場所を借りることができたから実現したんですね。ふつうの空き家は、一軒家が分散して存在し、1軒1軒異なるオーナーがいて利害関係がある。それらを紐解いていくのは、簡単ではありません。

エネルギーに関して言うと、昨今の電気代、ガス代の高騰はとんでもないし、東日本大震災直後に停電になるということもありました。僕たちの活動を持続するためにも、大きなシステムに依存しないエネルギーを地域で調達できるようにしたいですが、まだまだ知見が足りません。また、そうした工夫を積み重ねていったとしても、資金繰りにおける大きな壁は税金の高さ。時代が時代なら、もう一揆が起こっていてもおかしくない(笑)。

室谷 ほんと、勘弁して!です。もちろん行政から返ってくるサービスもありますが、それ以上に無駄が目立ちすぎて。

影山 納めた税金がせめて有効に使われていれば、払う気持ちが全然違うんでしょうけど。

室谷 (何度も頷く)

(つづきます→次回は「消耗する関係と、信頼が醸成される関係」

※写真はすべて友人である写真家の中村紋子さん@ayaconakamura_photostudio によるものです


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