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#28 兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(2)

不満や怒りを消した、「キャンプの力」

室谷 前回のお話で、証券会社の役員として働いていた時代に「キャンプで救われた」とおっしゃっていました。ここを詳しく伺えますか。

坂本 当時は毎朝6時45分に出社し、夕食は週5日のうち3日が接待。日中も予定がびっしり入っていて、ゆっくり昼食をとれるのは月1回のランチミーティングのときだけでした。さらに土日も、どちらかは接待ゴルフが入る。自分なりに体に気をつけて、週2日は宴会がない日をつくると決めていましたが、振り返るとすごい生活をしていましたね……。

でも、そのときは自覚がない。「大変だけど、充実している」と思っていました。そんななか、社内外の調整で振り回されることが続き、ストレスが溜まっていきました。これはまずいと思い、北海道へ旅に出たんです。

その旅で特に印象に残っているのが、釧路湿原をカヌーで下ったときのこと。釧路川の源流を進み、カーブを曲がるとタンチョウヅルがいて、次のカーブの先には鹿がいて、次は狐がいて……。大自然のなかで、水面にあたるオールの音と鳥の鳴き声以外、人工的な音が一切ない。

その世界に身を置くうちに、つきものが落ちるように、抱えていた不満や怒りがすーっと消えました。「なんでこんなちっぽけなことで腹を立てていたんだろう?」と不思議に思うくらい、気が楽になった。

さらに同じころ、仲のいい人が労働時間の長さが原因で体調不良になってしまいました。そのことでショックを受けたこともあり、太さんから「もっと早く来ないか」と言われて心が動き、妻に相談したのです。

室谷 反応はどうでしたか。

坂本 大賛成でした。妻とはずっと一緒にキャンプをしているし、スノーピークのことも太さんのこともよく知っています。「人生の最後にキャンプで人を幸せにするような仕事をできるなんて、すごくいいじゃない」と言ってくれて、その通りだなあと思いました。

室谷 ご家族の言葉がとてもいいですね。不満や怒りが消えたのは、俗世間から離れたからですか。すみません、アウトドアを一切しない人間なので、イメージがわきづらくて……。

坂本 自然ってやっぱりすごいんですよ。例えばキャンプ場にいると、ある瞬間に鳥がいっせいに、びっくりするくらい鳴いたりする。あるいは、夜の焚き火の美しさ。雨なら雨で、子どもたちはテントのひさしに溜まった水をジャーッと落として喜ぶし、雨音をすぐ近くに聞きながらのんびりカードゲームやおしゃべりもできる。日常から離れて自然の中に身を置いていると、何をしても楽しい。

室谷 スケールも影響しているんでしょうか。自然の大きさから、パワーを得るというか。

坂本 それもありますね。自然のでっかさを体感すると、自分の悩みが小さく思えるというのは、釧路で経験したことです。でもまあ、いちいちそんなふうに考えていませんよ。晴れた日に雄大な自然を前にのんびりビール飲むだけで、はあーって力が抜けるじゃないですか。

室谷 たしかに。いちいち理屈っぽく考える前に、体験してみるべきですね(笑)。

坂本 ぜひご家族で行ってみてください。自然の中にいると、子どもがぼーっと水面を眺めたり、草をむしり始めたりする。そうすると、つられて親もペースダウンします。大人がのんびりするきっかけを、子どもがつくってくれることが多い。

室谷 日常生活では大人が子どもに「早くして」と急かしてばかりいますが、キャンプでは、子どものペースに大人が合わせる。時間の流れ方も非日常だというのが、面白いです。わが家は全員が超インドア派なので、行きたい反面、不安もありますが。

坂本 いきなりテント泊じゃなくていいんですよ。バンガローに泊まって焚き火するだけでも、感覚が変わりますから。

(つづきます→「キャンプ生活と、シェアリング・エコノミー」)

※写真はすべて友人である写真家の中村紋子さん@ayaconakamura_photostudio によるものです

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