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乃木坂46は変わらないために変わり続ける

白石麻衣は「乃木坂46らしさ」について、こう語っていた。

●いつ頃から”乃木坂46らしさ”を自分たちで意識するようになって、それが形になってきたと思いますか?
「具体的にこの時期からというのはわからないけど、私たちはAKB48さんの”公式ライバル”として誕生したので、『自分たちはどういうカラーのグループなんだろう?』ということをずっと考えてきました。ほかとは違う自分たちだけの何かを見つけたい。みんなのそういう思いが長い時間をかけて、”乃木坂46らしさ”にたどり着いたんじゃないかな、と思うんです」
●これからも”乃木坂46らしさ”を後輩たちに受け継いでいってほしいですか?
「もちろん変わっていかなきゃいけない部分もあるけど、乃木坂46が持ってる空気感は忘れてほしくないな、という思いはあります。とくに3期生や4期生は、乃木坂46の雰囲気が好きで入ってきた子が多いので、そういう空気感を守りたいと思っているメンバーもいるんじゃないかな。ただ、そればかりにとらわれたり、卒業していった子たちの穴を無理して埋めようとしても意味がないと思うんです。メンバーにはそれぞれ個性があるから、自分らしくいてほしい。」(※1)

「乃木坂46らしさ」とは、”長い時間をかけてたどり着いたほかとは違う自分たちだけの何かを見つけたいという思い”であった。しかし、白石麻衣が言うような「乃木坂46らしさ」と「自分らしさ」のジレンマはどうなるのだろうか。

イシグロ 私たちが日々変化しているというお話は、社会や国にも当てはまらないでしょうか。あなたと私はいまこうして、「日本」と呼ばれる国にいます。けれど、一五〇年前にここに住んでいた人はすでに誰一人存在しません。では、果たしてこれは同じ国といえるのか。私たちが同じ人間のようでいてそうでないように、社会や国も移ろっています。
(…)
福岡 社会や文化、歴史も、人間が人間の外部に作り出した表現型であるとみなせるということですね。確かに、人間は生物としての存在や一貫性があまりにも不確かで儚いものであるがゆえに、外部に自分の存在の証しをつくってきたといえるかもしれません。
(…)
イシグロ ただ、古いバージョンと新しいバージョンを結ぶものについては、他の要素もあるかもしれません。ここでアナロジーを挙げましょう。学校を思い浮かべてください。
(…)
イシグロ 学校の生徒は、数年後にはすべて入れ替わっています。教師も同じです。では、これはいまと同じ学校といえるのか。ある意味でそれは同じ学校です。なぜなら、そこには伝統や習慣が頑なに受け継がれているから。(…)こうしてみると、伝統や習慣といったものが異なる段階をつなぐもう一つの要素に思えます。(※2)

この対話は乃木坂46というアイドルグループにも置き換えられると思う。つまり、伝統や習慣が受け継がれていれば、そのジレンマは解消できる。

●乃木坂46で守っていきたいものはなんですか?
久保 嘘じゃないなって思ったのは円陣の「努力・感謝・笑顔」っていうのは、何回円陣をしててもこれがもしかしたら今の乃木坂を形成してる大事なものなのかもしれないなってある時から気づいて、それを継いでいけたら乃木坂の核っていうのは、きっと円陣が変わることは無いと思うので、なんか継いでいけるんじゃないのかなって思いましたね。(※3)

2012年にデビューした乃木坂46はもうすぐ10年目を迎える。2021年2月22日〜23日に開催が発表された『9th YEAR BIRTHDAY LIVE』のロゴには「Effort(努力)Thanks(感謝)Smile(笑顔)」の文字があった。これが中身が変わっても残るものではないのか。

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それは「変わらないために変わり続ける」ということであるかもしれない。

変わらないために変わり続ける。ちょっと逆説的な言い回しではあるけど、禅問答みたいな解けない謎かけではない。すこし言葉を補足するならば、「(大きく)変わらないために、(常にごく小さく)変わり続ける必要がある」ということである。(※4)

この言葉は高山一実と北野日奈子がブログでも語っていた。

大好きなメンバーがどんどん卒業していく...
 寂しいですよ、
でもそれは今に始まった話じゃないんだよね。
「変わらないために、変わり続ける。」
 昨夜、退団なされた七海ひろきさんが
最後のご挨拶で残されたこの言葉。
 おかしいくらい染みました。
(´-`).。oO(ほししばり|乃木坂46 高山一実 公式ブログ
先週の乃木坂工事中で23rdシングルの
選抜発表がありました
初めての福神メンバーに選んで頂けて
嬉しい気持ちと感謝の気持ちでいっぱいです!
ずっとずっとなりたかった福神メンバーです
目指していた一つの目標です
色々なポジションを経験してきて
今回頂けたこの椅子がどれだけ大切で責任があり
ありがたいものなのかよく分かっています
この椅子を私はどうしていくのか
どうしていきたいのか自分の中でもう決まっています
変わらないために変わり続ける
誰かが言っていたこの言葉の意味を
分かってきた今だからこそ
私は変わらないために変わり続けます!
にじいろ|乃木坂46 北野日奈子 公式ブログ

高山一実と北野日奈子が挙げた人物たちは、ロベール・ブレッソンの『シネマトグラフ覚書』とそれを引用したジャン=リュック・ゴダールの『ゴダールの映画史』、あるいはペドロ・コスタの『何も変えてはならない』に触れていたのではないだろうか。そこでスラヴォイ・ジジェクの言葉を引用したい。

Deleuze’s thesis according to which New and repetition are not opposed, for the New arises only from repetition, must be read against the background of the difference between the virtual and the actual:changes which concern only the actual aspect of things are only changes within the existing frame, not the emergence of something really New—the New only emerges when the virtual support of the actual changes, and this change occurs precisely in the guise of a repetition in which a thing remains the same in its actuality. In other words, things really change not when A transforms itself into B, but when, while A remains exactly the same with regard to its actual properties, it “totally changes” imperceptibly. This change is the minimal difference, and the task of theory is to subtract this minimal difference from the given field of multiplicities.(※5)

つまり、真の新しさとは反復のなかで生じる。だから「乃木坂46らしさ」が受け継がれるからこそ、「自分らしさ」は表現できる。あるいは「乃木坂46らしさ」が”長い時間をかけてたどり着いたほかとは違う自分たちだけの何かを見つけたいという思い”であるのだから「自分らしさ」があってこそ、「乃木坂46らしさ」は受け継がれていく。そうして乃木坂46は変わらないために変わり続けるのだ。

または、2018年12月23日に放送された乃木坂工事中のなかで齋藤飛鳥はこんなことを語る。

変わることも
変わらないことも
全て受け入れて私たちは進む
変化することは避けられないこと
だから少しだけ信じてみたいのです
今日より明るい未来
好きな人達のこと

齋藤飛鳥は「変わらないために変わり続ける」ということを認めているのではないだろうか。であれば、真の改革の担い手である齋藤飛鳥の「今日より明るい未来」と「好きな人達のこと」を少しだけ信じてみたいという思いは、乃木坂46の絶対的な新しさのためにある。

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(※1)白石麻衣乃木坂46卒業記念メモリアルマガジン

(※2)福岡伸一『動的平衡ダイアローグ: 世界観のパラダイムシフト』

(※3)白石麻衣卒業直前ドキュメンタリー「もうそろそろ行かなくちゃ」

(※4)福岡伸一『変わらないために変わり続ける: マンハッタンで見つけた科学と芸術』

(※5)スラヴォイ・ジジェク『Deleuze's Platonism: Ideas as Real 』

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