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乃木坂46のさよならはいつもサヨナラ

『僕たちのサヨナラ』のミュージックビデオが公開された2023年2月17日に中西アルノが乃木坂46メッセージのトークでこんなことを言った。

乃木坂46のさよならは
いつもサヨナラなんだね

#arutalk 2023.02.17

つまり、乃木坂46のさよならはいつも片仮名のサヨナラが使われているということである。ここでの文脈はさよなら=卒業だとすれば、たしかに橋本奈々未の『サヨナラの意味』、桜井玲香の『時々 思い出してください』、白石麻衣の『しあわせの保護色』、松村沙友理の『さ〜ゆ〜Ready?』、齋藤飛鳥の『ここにはないもの』、秋元真夏の『僕たちのサヨナラ』と、「さよなら」という言葉が使われた卒業シングルでは片仮名の「サヨナラ」が選ばれている。

日本語の表記体系は漢字(左様なら)、平仮名(さよなら)、片仮名(サヨナラ)を用いるなかで、なぜサヨナラなのだろうか?

ひらがな・カタカナ・漢字の使い方に関して、次のような習慣があります。

和語(やまとことば) :ひらがな、または漢字で書く
漢語(音読みのことば):漢字で書く
外来語(カタカナ語) :カタカナで書く

これはあくまで「ゆるやかな習慣」で、たとえば漢語であっても、国が定めた「常用漢字表」にないような難しい漢字の場合にはひらがなで書くこともありますし、また外来語であっても、たとえば「スニーカーぶるーす」や「はっぴいえんど」などのように、普通の書き方とはひと味違った印象を与えるために臨時的にひらがなで書かれることもあります。

2015年10月1日『NHK放送文化研究所』

まず日本語の表記体系にはこうした「ゆるやかな習慣」があるらしい。そのなかでも片仮名表記される要因がいくつかあった。

漢字で書きにくい事情にある語が、平仮名で書いて文字列の中に埋没するのを避けるために片仮名書きされる。

佐竹秀雄『新聞投書欄の片仮名表記』

これをパターンAとする。

片仮名表記の持つ平仮名・漢字とは異なったイメージが、ことばのイメージの一部を形成しているとみることができる。

喜古容子『片仮名の表現効果』

これをパターンBとする。

文字種の選択にあたっては、(…)語用論的要素、すなわち「コンテクスト」やそれに応じた「表記主体の意識」も同時に作用しており、「文字種」と連動している

増地ひとみ『テレビ番組の文字情報における文字種の選択』

これをパターンCとする。

『サヨナラの意味』や『僕たちのサヨナラ』のタイトルを見るとパターンAに思える。「さよならの意味」や「僕たちのさよなら」という表記をする場合、平仮名のさよならが埋没してしまう。

もっとも卒業シングルであるということを考慮すれば、すべてがパターンBに当てはまるだろう。片仮名のサヨナラにすることで別れとしてのイメージが付加され、より強まっている。

そのことはパターンCに関連していく。

僕の歌詞は、やはり、「歌うアーティストを念頭に置いて書いている」ことを伝えたかったからです。
“誰が歌うのか?” ”誰の口が発する言葉なのか?” ”誰が語る物語なのか?”が、とても重要なのです。

秋元康『こんなに美しい月の夜を君は知らない』

だから卒業シングルで片仮名のサヨナラが使われることには意義がある。たとえば、卒業と同時に引退することで伝説として語り継がれる橋本奈々未が『サヨナラの意味』で「サヨナラは通過点」と、乃木坂46の誕生〜発展〜継承までを支えた齋藤飛鳥が『ここにはないもの』で「素敵なサヨナラを言える」と、最後の1期生にして我らが大キャプテンの秋元真夏が『僕たちのサヨナラ』で「忘れないサヨナラ」と歌うことである。

乃木坂46『僕たちのサヨナラ』

そこを指摘してみせる中西アルノは見事だが、いつもではない。深川麻衣の『強がる蕾』、生田絵梨花の『最後のTight Hug』『歳月の轍』、白石麻衣や齋藤飛鳥でも『じゃあね。』や『これから』だと平仮名のさよならである。

ほかにもサヨナラが使われている楽曲は、『やさしさとは』『ここにいる理由』『君と僕は会わない方がよかったのかな』『制服を脱いでサヨナラを…』『不等号』『意外BREAK』『サヨナラ Stay with me』『バンドエイドを剥がすような別れ方』『アトノマツリ』『さざ波は戻らない』『ひとりよがり』『世界で一番 孤独なLover』『低体温のキス』『ワタボコリ』『ありがちな恋愛』がある。

ほかにもさよならが使われている楽曲は、『地球が丸いなら』『ごめんねFingers crossed』『届かなくたって…』『お別れタコス』がある。

ここで乃木坂46のサヨナラとさよならについて考察する作業をする気力はないが、パッと見て、サヨナラの使用率が圧倒的に多いことや、さよならが使用された曲は『強がる蕾』を除いてここ最近の曲が多いことが分かる。

とくに結論はありません。
左様なら、さよなら、サヨナラ。

淀川長治

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