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文具屋さんで

ピンポン・ピンポン
寂れた文具店に入ると、チャイムが鳴ってしまった。
はいこんにちは、とおじさんが出てきてしまった。

紙を買いにきた。
紙なんてAmazonで注文すればいいと思っていた。
「るるるるん」で本を作るとなって、まず紙の厚さを知った。
ほかにも気にしないといけないことは山ほどありそうだけど、まずは紙の厚さから始まった。
「表紙用」だとかいろいろ書いてあるけれど、やっぱり触らないことにはわからない。とにかくわたしは文具店に向かった。

買おう、とは思っていたけれど、何軒か見てまわるつもりだった。さらっと見て、次のお店にも行くつもりで。なのにわたしはおじさんと会話を始めてしまう。

おじさんが「なにをお探し」と聞くので「B5で、こういう風に折りたくて」と相談してみる。そうするとおじさんは
「B5ねぇ……今はA4がメインだからB5はあるかな」
楽しそうに奥に引っこんでしまった。
「こういうのしか、無いんだけど」
何パックか、奥から出してきてくれた。
ああ、ここまでしてくれたのなら、ここで買うしかないか。

「A4の、表紙用のをね、切る、という手もあるよ」
おじさんはそう言って、きれいな紙を出してくれる。
しばらく悩んで、自分が不器用だということを思い出した。
これにします、と言ってB5を選ぶ。
レジから出てくるレシートの両端をおじさんが鋏でカットして渡してくれたのが可笑しくて、そんな丁寧に、とお礼を言う。
もうレジが古くなってしまって、レシートをカットする部分がガタガタになっているのだそう。だからこうやって切るんだ、と笑う。
お客さんが入ってくるまで、しばらくレジの話を聞く。

店を出て、三嶋大社方面の店にも行こうと歩き出したとき、大粒の雨が降ってきた。あの文具屋で紙を買って、それでよかったのだ。
ぼとぼとと落ちる雨粒でシャツを濡らしながら、カバンを抱きかかえて歩く。

(るるるるんvol.2 は印刷会社さんで印刷してもらっています)

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【UNI 活動報告】
『アフリカ』vol.31(2020年11月号)
UNI「嘘とお城」参加させてもらっています。
BASEにてお求めいただけます。

11月22日 #文学フリマ東京  本屋・生活綴方(ター31)ブースにて【るるるるん2号】を取り扱っていただきます。ぜひ足をお運びください。

2号


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