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海と山の近さ

神戸で生まれ育って、でも人生の半分は神戸の外で過ごし…いやまだ半分には到達していなかった。

ときどき実家のメンバーが夢に出てくると、ああみんな神戸に住んでいるんだな、と蚊帳の外感がこみ上げる。

実家の空気が辛くて、大阪で一人暮らしを始めたのがきっかけで、そこから結婚して愛知、静岡、神奈川とどんどん東に進んできた。
正直、もうあまりこれ以上東へは進みたくない。

自分の都合で引っ越したことが少ないから、どうしてもひとごとのような感覚がつきまとう。

神戸は坂の多い街で、海と山がものすごく近い。高校一年のときに生まれて初めて尼崎の「武庫之荘」駅に行った。友達が住んでいた。
武庫之荘は坂がなくて、ひたすら平らだった。初めてわたしは「大阪平野を歩いている」と実感し、あまりにも坂が無いので落ち着かなくも思った。

二十代、就職して営業車で大阪から姫路あたりまで走ったとき、もう一度驚いた。海沿いの高速道路からちらちら眺める神戸の山の近さ。市街地の狭さ。家が山にへばりついている。

最近は年に数回、主に飛行機で帰省しているが、やっぱり空の上から山と海の近さを眺めてこっそり心の中で笑っている。
ずいぶん、狭い街にぎゅうぎゅうと暮らしている。空から見てもミニチュア感が強い街だ。

神戸っこだからといって特別、坂道が好きなわけではない。中学生のとき、前の家よりさらに坂の上に引っ越すことになり、あまりの坂のキツさに脚の筋を伸ばしてしまった。
タクシーもひと息に登れないことがあった坂である。

坂を上りきると、大阪湾がぐるりと眺められる。百万ドルの夜景のうちの十万ドルくらいは、夜景が楽しめる。その風景の切り取りが坂のごほうびだった。坂の思い出。

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