そうだよ。親も楽しんじゃえばいいんだよ。
「いや、ほんとにわたしたちがアレを着てよかったよ!」
妻はしみじみとそう言った。
子どもたちが寝静まり、二人でお菓子をつまみながら旅の思い出を話しているときのことだった。
ぼくらのスマホには旅の写真がぎっしりと詰まっていた。
なかでも一際目を引くのは、侍のぼく、町娘の妻、殿様の長男、新撰組の次男、これまた侍の三男。
家族で訪れた日光江戸村での写真だ。
初めは子どもだけでもいいかなと思っていたけれど、親であるぼくらも楽しむことにし、全員が変装をしたのだった。
いつもぼくと妻は、子どもたちのやりたいことや行きたいところを優先させてきた。
だけど、今回、自分たち親が楽しむことを選択してみたら、思いがけない楽しさを味わうことができたんだ。
◇
お出かけ先や旅行先を選ぶとき、いつも子どものことばかりを考えてきました。
うちには8歳、8歳、4歳の三兄弟がいるのだけど、それぞれがやりたいことを盛り込むと、けっこうなボリュームになるんですよね。
旅行計画を立てる際は、まず先に子どもたちが遊ぶものを決め、それを中心に一日の予定を組み立てていくんです。
午前中に長男次男がこれをやって、午後に三男がこれをやって、夕飯は子どもたちが食べられるものがあるここで食べてと、すべての予定は子どもたちを中心に作られます。
そうしないと子どもたちが楽しめないから、そうしないと子どもたちがぐずるから、そうしないと子どもたちが喧嘩になるから。
それらがすべて悪いことだとは思わないけど、こういったことに、ぼくと妻は疲れており、さらに疲れていることにすら気がつけていなかった。
もちろん、子どもたちが旅行を楽しんでくれることは嬉しいです。
満面の笑顔で楽しんでいる様子を見られることは、とっても大きな幸せを感じますから。
だけど、気がつけば子どもたちのことばかりを考えすぎて、親であるぼくらが楽しめないことって、けっこうあるんです。
大人のぼくらが食べたいものを食べられない。やりたいことができない(というか、子どもの相手をしていると、そんなこと考える余裕はない)。
そんなことばかりだと、段々疲れてきて、イライラしやすくなってきます。
そして、大人の不機嫌な空気は子どもたちもにすぐに伝染し、兄弟喧嘩が始まり、ぼくらが怒り、不機嫌な空気はますます充満していく。
そんな日々が、きっとぼくと妻は嫌だったんだと思う。
すべての旅の思い出が嫌なことばかりではないけれど、「旅の疲れ」の根っこには「自分たちが楽しめていない」事実があったのだと思う。
そんなわけで、ぼくと妻は日光江戸村に行く前から、自分たちも変身をしよう!と話していたんです。
が、しかし、結構なお値段なんですよね……。
長男が選んだ殿様は9,800円。これが一番高かった。
次男が選んだ新撰組は7,300円。
三男が選んだ侍は4,800円。これはまあまあ安い方でした。
この時点で21,900円。ということは、大人も変身すると3万円を超える……。
だけど、今日は楽しむと決めたのだ。覚悟を決めて、ぼくは侍を、妻は町娘を選んだ。
大人の侍は5,100円。
大人の町娘は4,100円。
というわけで、合計31,100円なり。チケット代より高い……。けど、もういいんだ……!今日はいいんだ!
覚悟を決めてお金を払い、ぼくら家族は全員、江戸村の住人へと変身した。
7月中旬だから外はめっちゃ暑い。着物なんて着てるからさらに暑いけど、不思議なことに不快感はそこまで強くなかった。
雪駄を履き、ジャリ、ジャリと、舗装されていない江戸の街を歩く。江戸村は山に挟まれた盆地にあるため、周囲を見渡しても山しか見えず、世界観に自然と入り込むことができる。
越後屋の前では、悪そうな顔をした越後屋が「袖の下まんじゅうはいかがかな?」と、金ピカのセンスを仰ぎながら手招きし、アイスキャンディ屋の前では、店主の男性とその妻が即興で夫婦漫才をしている。
江戸村スタッフの演技力は予想以上に高く(たぶん、普段は撮影エキストラをしているんじゃないかな)、侍一家となったぼくらは行く先々で歓迎された。
ディズニーランドを超える没入感を持ったセット、時代劇撮影レベルのスタッフのおかげで、侍姿で江戸村を歩いていると、本当にタイムスリップした気になる。
(きっとしょぼいテーマパークなんだろう)なんて思っていた自分を切り捨ててやりたい。ここはテーマパークなんかじゃなかった。近世日本を今に伝える文化施設と言ってもいい。
200年前の日本家屋なんて目にすることほぼないですよね。武家屋敷なんて聞いたことすらないです。
でも、ここなら当時の姿で作られた建物に入り、遊び、食事をし、剣術修行だってできる。
そして、それらすべてを、侍や町娘の姿となり、入り込むことができる。ぼくと妻は、子ども以上におおはしゃぎし、あちこちの建物を見て回った。
日差しは強いし、歩き疲れてもいたけど、刀を腰に差し、袴姿で町を歩いていると、不思議と楽しい気持ちで心が満たされていくのを感じたんです。
ぼくらは夕方まで思う存分遊び、家路に着いた。
子どもたちはいつものようにケンカしていたし、渋滞にも巻き込まれたけど、ぼくと妻にとって、今回の旅は最高のものになった。
それはなによりも、ぼくと妻が、楽しんでいたからだと思う。
親がご機嫌なら子どももご機嫌と言うけれど、ではどうすれば親はご機嫌でいられるのか?
それは、「親も人生を楽しいんでいいんだ」という気づきを得ることだと思う。
ぼくらは自分でも気がつかないうちに、自分たちを縛りつけている。
「子どものために自分はガマンしないと」
そう思った人はきっと多いと思う。ぼくと妻もよくそう考えている。
その考え方のすべてが悪いわけじゃないけど、だからといって自分の人生を「楽しまない」ことがいいことだとも思えない。
「親は人生を楽しんではいけない」という自分の思い込みに気づき、そこから自分を解放させる必要があるんだと思う。
すると、心に余裕が生まれ、子どもに対しても余裕を持って接することができるようになる。
「心の余裕」を作るのが「遊び心」なのかもしれない。
袴姿で刀を差し、雪駄で江戸の町を歩いたあの日を、ぼくは忘れられそうにない。
こういったことの積み重ねが、心の余裕を作っていくのかもしれない。
そんなことを感じた旅となりました。
ーーあとがきーー
ポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」を更新しました。
3年4ヶ月間続けた夫婦関係相談について、感じたことを話しています。視聴&フォローいただけると、嬉しいです。
▶︎Spotify
コンパッションに関するワークショップを受けたこと、夫婦関係に関する相談受付をストップしたことによって、だいぶ精神的に落ち着いてきました。
特にコンパッションワークショップの影響は強くて、子どもにイライラすることがだいぶ減ったんです。
アンガーマネージメントをしたいと思う方には、おすすめかもしれません。
コンパッションでは気持ちを落ち着かせる呼吸法を使うのですが、マインドフルネスや坐禅に近いんですよね。
実は来週、会社帰りに坐禅体験に行く予定なんです。けっこう身近なお寺でもやっているので、興味ある方は調べてみるとすぐに見つかると思います。
坐禅体験をしたら、またシェアをしますね。
それから、ぼく、足のサイズが大きくて幅広なので、ずっと合う靴が見つからないんですよね。なので、注文靴を作ることにしたんです。
お金はかかるけど、修理しながら使えば一生物になりますし。ここにお願いしました。
おしゃれ靴を作りたいとかではなく、自分に合う靴がなくて困っている人には向いていると思います。
運営者の方も靴に悩んだ経験のある方でした。
ここでの体験も別記事でまとめますね。
それでは、また!
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