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産後の恨みはなぜ生まれるのか?歴史的背景と家族社会学から考える


妻がもっとも助けてもらいたかったタイミングとは?

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国立社会保障・人口問題研究所が2014年に発表したデータによると、平日昼間の子供(0〜3歳未満)の世話をするにあたって、もっとも頼りになるのは誰かという問いに対して、多くの母親は「自分(母親自身)」であると答えています。

日本人(既婚)男性が1日の中で家事に費やす時間は、平均40.8分、一方女性は224.3分であり、OECD加盟国34カ国の中で、4番目にひどい数字となっています。(出典:MASHING UP

つまり、子どもを産んだ母親は誰からも、他の国と比べると満足なサポートを受けることができていないということです。

ちなみに、海外では0〜3歳の育児は母親「以外」のサポートが手厚いと言われています。

海外の母親をサポートする事例をまとめます。

・タイ:父親や親族によるネットワーク
・中国:父親と親族の他に公共機関も大きな機能を果たす
・シンガポールや台湾:使用人が子守をする
・韓国:夫は育児をしないが親族が母親をサポート
・米国:不法移民によるベビーシッターが公然化(政治家も利用)
・フランス:保育ママなど多様な公的プログラムが存在
・スウェーデン:保育園と地域ネットワークが強い

これらと比べると、日本の場合は、母親を支える夫は長時間労働で使い物にならず、核家族が進み、親族もあてにならないという状況です。

さらに、高齢出産が進み、両親が年老いて育児をサポートできないというケースもあります。

こうした外部要因もあるのですが、一方で、母親の中には、0〜3歳の間は、母親一人で面倒を見ようと考えていたり(できるできないは置いといて)、他の人にその考えを押し付けようとする人もいます。

これには、日本の母親たちを今も苦しめる「3歳児神話」が影響していると思われます。

母親を縛る3歳児神話

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3歳児神話
子どもが3歳になるまでは実母が育てるべきであるという考え

幼稚園が3歳からというのも、この3歳児神話を世の中の母親たちの脳内に刷り込む手助けをしていると思います。

3歳児神話は第二次世界大戦後に、厚労省が欧米の近代家族をモデルに一般家庭に普及させたイメージ(ある種の洗脳)です。

戦後の焼け野原の日本とは対照的に、1950年〜1960年代のアメリカは好景気に沸いており、アメリカの中流家庭では、父親がオフィスで働き、母親が専業主婦として、家で家事育児を行なっています。

日本政府は、こういったアメリカの家庭を理想像として掲げ、同じようなファミリー像を日本でも推進していくことになります。

ですが、1960〜80年代というのは、「Japan as No.1」と呼ばれた、日本の黄金時代(人口ボリュームと低賃金を武器にグローバル社会で戦っていた高度経済成長期)であり、企業の福祉制度も今よりも充実していました。

1990年代のバブル崩壊以降、企業の福祉制度は貧弱になり、もともと高かった教育費がより負担になり、家計はより苦しくなっています。

共働きでもなく、若い祖父母が一緒に暮らしていた「サザエさん」的な時代の家庭ならそれでもよかったのですが、「3歳児神話」は2020年代を生きる僕らにはまったくマッチしない概念です。

ですが、多くの母親はこう言います。

「3歳までは(保育園に預けず)自分で面倒を見たい」

子どもが可愛いから、一緒にいられる時間は限られてるから。

そういった理由もあると思いますが、現実的に、3歳まで母親一人で毎日24時間、子供の面倒を見続けられるのでしょうか?

夫や両親や公的なサポートの欠如したこの国で?

このことに関して、「問いからはじめる家族社会学」という本では、このように書かれています。

子どもの発達にとっては、養育者たちとの間に安定した愛着関係(attachment)を形成することがその後の心理的安定をもたらすと言われているが、この養育者は子どもからの働きかけに適切な対応を行う者であって、必ずしも実母であるとは限らず、一人とも限らない。逆に、特定の人物との愛着関係が強すぎると、子どもが他の人々と社会関係を結ぶことができなくなると言われている。3歳児神話にとらわらず、育児を支える諸外国のさまざまな工夫を知り、この社会を未来につなぐ子育てをよりよく保証することが必要である。(出典:「問いからはじめる家族社会学」)

子どもを育てるのは「母親だけ」である必要はないんです。

うちの1歳の三男も毎日保育園に通ってますが、保育士や年上のお友達とコミュニケーションを取ることで、保育園に通う前と後では、発達のスピードが全然違います。

でも、多くの女性(男性も)の心の奥底には「3歳児神話」が今も横たわっていて、その呪いが母親自身を苦しめています。

1979年に「母原病(ぼげんびょう)」という本がベストセラーになりました。

この本にはこういった記述があります。

これまでの私の臨床経験からいって、現代の子どもたちの異常の60%はその母親の育児が原因となった病気や異常、つまり母原病で、伝染病などが原因のものは40%にすぎません。したがって、現代では、何か子どもに異常や病気があらわれたら、一度は親自身が原因ではないかと疑ってみる必要すらあるのです。

なんとも、すごい時代錯誤感を感じさせる内容ですね。自分で書いていても、著者に対してイライラしてきました。いまだにこんな本が売られていることにも驚きです。

母原病(ぼげんびょう)とは、日本の精神科医久徳重盛が1979年に、サンマーク出版から刊行した『母原病―母親が原因でふえる子どもの異常』で発表した精神医学的な考えで、母親の育児下手が子どもに様々な病気・問題をひき起こしているとするものである。科学的根拠がなく、個人的な意見の域を出ない疑似科学の類であるが、これを主張した久徳の書籍は続編も含めシリーズで100万部を超えるベストセラーになり、マスメディアが日本の母子関係の問題性を喧伝する流れが生じた(出典:Wikipedia

1971年の厚生労働省のレポートでも「育児ノイローゼは母親自身に問題や原因がある」と書かれたそうなので、この時代の空気がそうだったということなんでしょうね。

「母原病」の悪影響:
病気や不登校などの子どもの問題の原因は母性に欠ける母親であるとし、多くの母親が子どもや育児について「自分が悪いのだ」と自責の念に駆りたてられ、害悪が大きかった。同時期に母と子のスキンシップや結びつきの重要性を主張する言説が増え、母親たちは育児への自信が持てなくなり、育児不安が高まり、社会問題としても注目されるようになった。久徳が言う母原病は、現在では概ね科学的根拠はないと理解されているが、母原病の系譜と思われる「子どもの病気は母親のせい」という考えは2017年時点でも見られるという意見もある。(出典:Wikipedia

1980年代は学校崩壊や暴走族など、子どもに関する社会問題が多く生まれた時代であり、多くの母親は子どもの非行を自分の責任だと(周囲かもそういう圧力がかかり)思ってしまい、苦しい思いをしていたのだと思います。

共働きが増えていった時代でもあるので、今のように家庭と育児の両立に悩むママさんが多かったと思います。

子どもの発達と成長、そして知能の向上に関しても、女性たちに責任が押し付けられていました。

それを象徴する言葉が「教育ママ」です。

教育パパという言葉が存在しないことからも、子どもへの教育は母親が行うものであり、子どもの知能の向上(学歴によって判定される)は母親によって決まるという風潮が生まれました。

1960年代に生まれたこの言葉は、いまだにぼくらの子育て観(母親が子供の知能向上に責任を持つ)に、少なからず影響を与えています。

子どもに習い事をたくさんさせている家庭の母親を「教育ママ」と呼ぶことはありますが、その家庭のパパに対して「教育パパ」と呼ぶことはないですよね?

なぜですか?

パパもママも、その子の親であるのに?

それは、夫は仕事、妻は家(家事・育児)という性別によって、役割を固定する「性別役割分業」という、古臭い固定概念に、誰もが心の奥底で縛られれているからです。

「イクメン」という言葉は、「父親はめったに家事育児をしない」という前提に立っているため、「珍しい存在」として表現されてしまうのです。

「父親が家事育児を、母親並みに行う」社会ならば、「イクメン」という言葉は生まれてこないでしょう。

「イクメン」という、男社会からは冷笑を伴うこの言葉は、早く滅びるべきだと思います。

ちょっと話はずれますが、「夫源病(ふげんびょう)」という言葉が2013年に生まれました。

夫源病(ふげんびょう)とは、夫の言動が原因で妻がストレスを感じ、溜まったストレスにより妻の心身に生じる様々な不定愁訴を主訴とする疾病概念で、医学的な病名では無い。類似の概念として主人在宅ストレス症候群がある。夫の休日になると妻のメンタルヘルスや体調が悪化する。熟年離婚の大きな原因とされ増加傾向にあると報道された。典型的な例は、亭主関白な「昭和おやじ」の定年退職によって在宅時間が長くなり、離婚に至る。(出典:Wikipedia

夫の存在が妻の病気の源になるというこの社会現象は、女性に家事育児を押し付け、「母原病」という言葉を流行らせたきた日本社会の男性に返ってきた、盛大なブーメランとも呼べます。

妻が性別役割分業を肯定する価値観を持つと、夫の家事育児参加が抑制される

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夫が性別役割分業を肯定している場合は、もちろん家事育児への参加率は下がりますが(男は家事育児をしなくて当たり前と思っているので)、妻自身が「夫は仕事、妻は家事育児」という性別による役割分業を無意識のうちに肯定していると、夫の家事育児への参加率は下がり、妻の不満も高くなっていきます。

「そんな昭和の価値観なんて私は持っていない!」と、多くの女性は思っているでしょうが、そんな昭和の価値観の親によって育てられてきたのですから、多少は影響を受けていてもおかしくないと思います。

表立ってそんなことは主張しないでしょうが、心の奥底の深層心理ではそういった意識が、少しは(両親からの洗脳として)あるのではと思います。

サポートを得られない育児環境と3歳児神話の呪いが、「産後の恨み」を産む

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他国と比べて、子どもが0~3歳の時の育児支援が貧弱であり、そのため母親が自分しか頼れないと思い込んでいる現状。

そして、育児は母親がするものだという、第二次世界大戦直後に生まれた思想(厚生労働省すらそう発言をしているように、その時代にはそれが「当たり前」だと思われていた)。

この2つに、母親となった女性たちは縛られ続け、たった一人の「戦争」とも呼べる過酷な育児体験を通して、ほぼすべての女性は「産後の恨み」を夫に抱くようになるのです。

第二次世界大戦から70年以上経つというのに、いまだにぼくらはその呪いに自らを縛り付けています。

どうすれば、その呪いが解けるのか?

それはぼくにもわかりませんが、1つ言えるのは、世間が言う常識や、自分が思い込んでいる常識をうたがってみることかもしれません。

自分が常識だと思っていた価値観は、実は歴史の流れの中で、世間や国の政策によって、「そう信じ込ませていた」ものなのかもしれません。

そして、歴史や社会の流れを知ることで、ゼロベースで「自分たちはどう生きればいいのか?」を、自分の頭で考えることができるようになる気がします。

※参考文献:「問いからはじめる家族社会学」入門 家族社会学

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