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臨床歴25年の臨床心理士さんに教わった"夫婦喧嘩が止まらない"本当の理由とは?


"パターン"に気がつくことが大切なんだと思うんです。お互いに正論をぶつけあっているけど、結局疲れてしまい何の解決にもならないよねと」

銀座にカウンセリングルームを構える、臨床歴25年の臨床心理士である上遠さんは穏やかにそう答えた。

ふわっとした柔らかな薄紫の衣服をまとった上遠さんからは、話しかけやすい雰囲気が強く感じられた。

きっと多くの相談者さんたちがこのソファーに座り、誰にも言うことができない夫婦の悩みを打ち明けたのだろう。

約束の終了時間が差し迫る中、ぼくはソファーから少しも動くことができないほど、上遠さんのお話に聴き入っていた。

夫婦関係に悩む方たちのために記事を書こうとインタビューを申し込んだはずが、まるでぼく自身がカウンセリングを受けているかのように、上遠さんのお話からたくさんの気づきを得ることができた。

「なぜ、夫婦喧嘩はヒートアップするのか?」
「なぜ、妻は心を開いてくれないのか?」
「なぜ、夫は話を聴いてくれないのか?」

上遠さんからはこの三つのお話を伺うことができたが、今回は「なぜ、夫婦喧嘩はヒートアップするのか?」について書こうと思う。

夫婦喧嘩で悩んでいる方の参考になれば幸いです。

なぜ、夫婦喧嘩は止まらないのか?

ーーなぜ、あんなにも夫婦喧嘩はヒートアップしてしまうんでしょうか?

夫婦喧嘩は本当にヒートアップしてしまいますよね。ここ(カウンセリング)にいらっしゃる皆さんは、「竜巻」とか「嵐」だなんておっしゃいます。

まさに竜巻のように、夫婦喧嘩は加速度が強いですね。

それが終わってみると一気に力が抜けて、あれはいったいなんだったんだろうって思いますよね。本当に嵐が去ったあとのようです。

なぜ、そんなことが起こるかというと、夫婦間というのは実はとても情緒的なつながりが強いからなんです。

夫婦は感情がものすごく喚起される関係なんですね。かなり感情的な距離が近いんです。

だからこそ、パートナーの発言が感情的にものすごく大きなインパクトを与える。

だけど、そう感じていることは意識していないですよね?そんな感情が起こっていることに、本人たちは気がついていないんです。

「なにいってんの?!」と感情的になり、相手に論点を押し付けようとし言い負かそうとしてしまう。すると、相手は反発し議論になる。

議論にはなるんだけど、感情がすごいヒートアップしているんです。自分が正しいことを証明しようと必死になり、引き下がれなくなる。

「負けたくない…!」

「なんとか分からせて、ねじ伏せてやる…!」

と思ってしまいますが、それは表面に現れた竜巻なんです。

私がおこなっているカップル療法では、それを”ネガティブサイクル”と読んでいます。

ネガティブサイクルでは、ものすごく感情が刺激されているんです。

相手が言ったことにカチンと来るのは、その相手がパートナーだからこそなんですね。

パートナー同士は、普遍的な求めやニーズを持っており、「え? 私のこと大切にしていないのかな?否定しているのかな?」と刺激を受けやすい関係なのです。

「自分にとってパートナーは、とっても特別で、唯一無二のかけがいのない存在であるはず」

「自分はパートナーにとって、唯一無二の存在でいたい」

「自分はパートナーにとって、とっても特別で唯一無二の存在であると感じさせて欲しい」

「自分のことを受け止めて欲しい。自分の感情を分かって欲しい」

そんなニーズを誰でも持っているのだけど、普段そんなことを意識していないですよね?

だけど、心の奥を掘ってみると、誰でも持っていると思うんですよね。他の人間関係と全然違いますね。

「どうして大切にしてくれないの?」という感情は、すごく柔らかくて、剥き出しで、無防備なんです。普段はそんなこと言わないですよね。

本当は、竜巻のような夫婦喧嘩の奥には、とっても柔らかい気持ちが刺激されているんです。

「あなたにとって大切な存在であるはずの私の気持ちを、あなたはなぜ否定するの?」

「私にとって大切なパートナーであるはずのあなたから、そんなことを言われるなんて耐えられない」

といった柔らかい気持ちが。

でも、それは自分でも気がついていないし、喧嘩の最中に言葉にして相手に伝えることもできない。

夫婦喧嘩になると感情がヒートアップしてしまって、その柔らかい感情は相手に伝わらないですよね。

でも、分かって欲しいから言い合ってしまう。

自分たちの”パターン”を認識する

ーー感情的にやり合ってしまうけど、本当は心の奥に柔らかい気持ちがある……。でも、どうすればそれを相手に伝えられるのでしょうか?

段階としては、まずは「パターン」に気がつくことですね。

「お互いに主張や正論をぶつけ合っているよね。でも、それでお互い傷つくばかりだよね。怒りの感情ばかりが出てきちゃうよね。結局、何の解決にならなくて、疲れて傷つくだけだよね」

ということに二人が気がついて、その気持ちを共有できたら、第一段階クリアですね。

さきほど出てきたネガティブサイクルが、この「パターン」の正式名称です。

二人が感情的にやりあってしまうパターンのことを、臨床の現場ではネガティブサイクルと呼んでいます。

お互いに自分の行動によって相手にインパクトを与えて、それを受けた方は何かを感じて行動を取るのですが、それがまた相手にインパクトを与えて傷つくことになります。

このサイクルがネガティブサイクルです。

そして、自分を守るために怒りの感情が引き出されたりもします。

喧嘩になると白黒つけたくなりますよね?でも、本当は白黒つけたいんじゃなくて

「自分はこう感じているんだ。だからこういうことをしたんだ」

ということを、相手に分かって欲しいだけなんです。

「怒りの感情でぶつかり合っても、分かり合えた感覚になれないよね。言葉が通じている感覚になれないよね」

ということに気が付くということなんです。

パターンに気づく、自分の感情に気づく、感情を伝える

ーーどうすれば、怒りの感情でぶつかり合っても意味がないことに気がつけるのでしょうか?

喧嘩の最中には気が付けないですが、段々慣れてくるとできるようになってくるんです。

あ、またサイクルに入っちゃったよね。ちょっと時間置こうかと。

ちょっと冷静になれれば、結局いつもこうだよね、これじゃうまくいかないよねと気づける瞬間はあるんじゃないかと思うんですね。

怒っちゃった場合は、あ、ハマっちゃったなと思えるようにする。

パターンにハマってしまっていることに気がついて、「唯一無二の大事なパートナーから大切に扱われたい」と、気持ちを伝えられるようになるといいのですが、まずはそういった「自分の気持ち」に気がつく必要があるんです。

ーーどうすれば、相手に対する自分の柔らかな気持ちに気がつけるのでしょうか?

カウンセリングのプロセスでは、スローダウンしましょうと私はよく言うのですが、頭で理論的に戦っているときって、感情がヒートアップしてるけど、頭もすごく早く回っているんですね。

どうやって相手を言い負かそうかと思っちゃう。

生理的にも呼吸が早くなったり、心拍数も上がったりしますし。

感情は体で感じているので、ゆっくり呼吸をしてもらい、気持ちを落ち着かせてもらいます。

パートナーに対する柔らかな思いに自分自身が気がついて、それを"言葉にする"というのは、実は少し時間がかかる作業なんです。

ーー”感情は体で感じている”とはどういうことでしょうか?

思考と感情は違うんですよね。

感情には体の感覚的なものが伴うことが多いんです。

たとえば、悲しさを感じる時は胸の辺りが重くなったり、心が傷つくことがあったら胸のあたりが痛くなるかもしれない。

怒りだったらお腹のあたりが熱くなるかもしれない。

"パートナーから大切に扱われたい"という思いも、"思考"をともなうものだけど、"思考"そのものではなくて、体で感じているものなんですね。

"感じている"ということに、意識を持っていく。

頭で考えたり、分析するんじゃなくて、しっかりそれを感じてもらう。

ということを、カウンセリングの現場ではしてもらうんです。

夫婦喧嘩になると相手を責めたくなりますが、本当の敵はふたりのコミュニケーションの"パターン"なんです。

お互いに気持ちを分かり合えないネガティブなパターン、そのパターンが繰り返されるネガティブサイクルが本当の敵なんです。

夫婦ふたりがその共通の敵に気がついて、「一緒にふたりの共通の敵と戦おうよ」と思えたら最高だなって思うんです。

相談者さんご夫婦がそう思えるようになった瞬間を見ると、(いいぞいいぞ!)と嬉しくなりますね。

ここにいらっしゃる方々は、「相手が悪い」とか「この人さえ変わってくれれば」と、相手に批判の矛先を向け合ってしまっています。

そうなってしまうのはわかりますし、二人ともが悪いと私は全然思わないんです。

そこには、お二人が辛い思いをしているコミュニケーションパターンが出来上がってますよね。そして、なかなかそこから抜け出せない。

ですので、一緒に協力して、そこに注目して、その悪いコミュニケーションパターンを変えていくという作業をしていきませんか?ということをお伝えしているんです。

どうやって実践すればいいのか?

ーー悪いコミュニケーションパターンから抜け出すことは、どうやって実践すればいいんでしょうか?実践が難しいのではと思ってしまうのですが……。

このカウンセリングの場なら、私という第三者がいるので、強く回ってしまうネガティブサイクルを止めることができるます。

あまりにもお話し合いがヒートアップしてしまったときは、わたしが座っているこのキャスター付きの椅子でガーッとおふたりの間に入ることもあります。

そこまですることはまれですが、第三者が介在することでそれぞれが冷静になって、そのサイクルに気がつくようになり、冷静に気持ちを話せるようになるんです。

それがカウンセリングの利点かなと思いますね。

初めてこのカウンセリングルームにいらっしゃる方でも、「お互いに冷静さを失わずに話をすることができただけでもよかった」と、おっしゃる方はいらっしゃいます。

ネガティブサイクルに入らずに、ふたりの関係について話すことができたということですね。

カウンセリングの場ではなく、ご自宅などで実践される場合は、ふたりがパターンにハマっていることを認識することが大事かと思います。

敵は目の前のパートナーではなく、ふたりがハマってしまっている悪いコミュニケーションパターンなのだということを。

言い合いの最中はなかなか冷静になれないですが、ネガティブサイクルの存在を知っていれば、言い合いがスタートした時に(もしかして、これは悪いパターンにハマりそうだな)と感じることがあると思うんですね。

そんなときは「ねぇ、私たち、悪いパターンにハマってるかも」と声を掛け合うことで、パターンの存在にふたりが気がつけるようになります。

すると、ネガティブサイクルという悪いコミュニケーションパターンが生み出す"止まらない夫婦喧嘩"は、止めることができるんじゃないかなと思うんです。




ポッドキャスト(アツの夫婦関係学ラジオ)では、実際に上遠さんにお話しいただいた内容を配信しております。下記リンクからご視聴ください。

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次回は、「なぜ、妻は心を開いてくれないのか?」についてお伺いした内容をお送りします。

今回、インタビューを受けてくださった上遠さんのカウンセリングルームはこちらです。


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