見出し画像

【雑感】「異論」とのつきあい方

殺人を肯定する社会

ドイツで移民の擁護を表明していた地方政治家が射殺。これに、ネット上で殺害を歓迎するような言葉が溢れたという報道。つい先日、日本でも殺人事件に対して加害者に同情の声が集まったり、「よくやった」という声が一部で広がっていたことを考えれば、状況はかなり異なるとはいえ、他山の石ではない。

ただ「殺人が肯定される」という状況そのものは特に目新しいものでもない。日本に限って考えてみても、かつて国内で起こった戦では、戦国武将たちが殺し合ってきたし、明治以降には国際的な戦争にも参戦した。現代社会においても、死刑制度も一種の「殺人」であると考えれば、「肯定される殺人」は残っているとも言える。

ここで考えたいのは、殺人を肯定することの是非ではなく、自分と意見の異なる相手の死を喜ぶということが意味するものである。

異論は「ブロック」

「異論はブロック」
快適なTwitterライフのためには確かに良いかもしれない。無理して自分の関わりたくない相手と関わる必要はない。たかが、個人がつぶやく場所にすぎない。Twitterで、ブロック行為は「逃げた」と解釈されることが多いが、Twitterというのは議論しなければならない場ではないから、別に好きにすればいいじゃないかと思うのである。

だが。

「異論をブロック」し続けたら、自分の考え方がブラッシュ・アップされることはない。永遠に成長しないのである。最たる例が、いわゆる「老害」と呼ばれる人たちであろう。いつまでも古い価値観にこだわって、新しい意見を知ろうとしなければ、進歩していく社会との断絶が進んでいく。

また、「異論をブロック」し続ければ、異論への耐性がなくなっていき、どんどん異論が受け入れられなくなっていくだろう。しかし、忘れないでおきたいのは、この世の中から異論がなくなることはないということである。悪循環に陥りやすい状況と言えるだろう。

だから、わたしは適度に異論とつきあっていくことを推奨したい。特に、「考え方」に関する異論には積極的に向き合っていくとよいのではないかと思う。なぜなら、考え方というものは一つの正解があるわけではないからである。

異論にも「なるほど」と言ってみたい

これは、わたしの考え方であるが、自分とは異なる考え方に出会った時には、一旦「なるほど」と考えるようにしている。もっと言えば「そういう考え方もあるのか」と考えるようにしている。

自分の意見と目の前にした異論を比較したときに、やっぱり自分の意見が良いことだってあるだろう(わたしも、そういうことの方が多い)。それでも、わたしは、一旦でも立ち止まって「なるほど」と言うクセが重要になるのではないかと思う。

それは、このように考えることで、いま目の前に現れた「異論」が、ただの攻撃すべき「敵」ではなく、比較すべき「ことば」となるからである。

異論は「敵」ではない

わたしたちの日常には「議論」が溢れている。認知心理学者のフィッシャーらは、このような「議論」を二つに分類している。一つは、どちらもある意見を抱いて議論を始め、自分の主張を述べ、次いで他者の主張を聞き、そして両者が合意点へ進んでいくタイプの議論で「学ぶための議論」と呼ばれている。

もう一つは、双方とも自分の見解を主張するものの、議論の相手から学ぶことには関心がなく、論争で相手を打ち負かすことを目的としたタイプの議論で、「勝つための議論」と呼ばれている。

どちらが望ましいかは言わずもがなであるが、現代のネット上にあふれていると感じるのは、後者の「勝つための議論」である。

こうした、異論を敵視して「勝つ」ことを目的とする議論が広まった結果が、冒頭で紹介したような人の死を歓迎してしまう声につながっているのだろう。論争相手が死ぬということは、自分たちが一歩勝利に近づく「良いこと」だからである。

だが、このような非生産的な議論が生むのは「社会的分断」くらいであり、この社会を良くするための何かを生むことはないだろう。

また、「異論はブロック」という行為についても、「勝つための議論」を直接的にはしていないにせよ、「学ぶための議論」を放棄しているという意味で、非生産的であり、望ましいものではないだろう。

だからこそ、わたしは異論に「なるほど」を心がけている。異論に対して、敵視ではなく比較・考察の姿勢をとることは、より生産的な議論を行うきっかけになると思うからである。

最後に、フィッシャーらの言葉を紹介して本稿を終えたい。

異論の多い話題についてフェイスブック上の議論に参加する際、いま自分は異なる見方を持つ人とどのように相互作用するかをまさに選択しようとしているのだということを、今後は思い起こしてほしい。その問題に正解があるのかに関するあなた(と議論相手)の考え方も、その選択によって形作られるのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?