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2023年一級建築士学科試験合格者数予想、既受験製図合格率について

はじめに

昨年、潜在的な製図試験受験有資格者が増えており、その影響で学科合格者数も5000人程度で推移するだろうという事を書きました(2021年一級建築士製図試験の合格基準、標準解答例について)。ただR4年は学科合格者が6300人程度と増え、合格率も5%ほど上昇しました。にも関わらず製図試験受験者は約1万人と同程度になっています。つまり潜在的な製図試験受験有資格者はむしろ少ないという結果です。この想定とは異なる結果について気になったため、細かくこれまでの合格者数等の数字を再度具体的に確認してみました。
さらにその確認した情報からR5年の学科合格者数や既受験合格率を予想しました。
R2年の受験資格緩和以降は発表されている数字から正確なカド番受験者数がわからない(受験保留者がいるため)ので仮定の域を出ない内容ですが、大きな矛盾もないためある程度の妥当性があるものになっていると思っています。
結果として、「製図試験は単に3回受験出来る」だけではない、受験回数に応じて戦略的に臨む必要がある試験に変わってきている可能性が見えてきました。
学科合格年の製図受験者だけではなく、既受験生の方にとっても今後の製図試験に臨むにあたりわかっておいた方が良い内容になっているかと思います。

※他のnote記事同様、内容は試験元や資格学校の見解ではなく個人的な考えに基づくものであることご承知おきください。

2023年 学科試験合格者数

結論を先に書くと、今年R5年の学科合格者数は5700人程度になると思われます。

※以下、その想定根拠について書きますが長く複雑ですので試験元公表の合格者数推移や資格学校HP記載の合格者数内訳などの表をご覧になりながらの方が分かりやすいと思います。

H29年以前の傾向とその変化

まずH29年までについてですが、もろもろの数字が毎年凡そで共通しています。例えば学科合格率は18%前後、製図合格率は40%前後、総合合格率は12%前後です。さらに細かい内訳についても同様に、学科合格年の製図受験回避者は3%前後、学科合格年製図初回受験者合格率は35%前後、製図2回目(学科合格翌年)受験者合格率は55%前後、製図カド番受験者合格率は30%前後です。
製図試験は2回目が最も合格し易いものの、初回とカド番でそこまで大きな差はなく3回とも三人に一人程度より合格率が低いという結果にはなっていません。
これらの合格率がH30年から少しずつ変化してきます。H30年は総合的な合格率に変化はないものの製図カド番受験者合格率は25%へと5%ほど低下しています。そしてR1年、製図試験合格率が40%→35%に低下したことを受けて製図カド番受験者合格率は10%に低下しています。この2年間において製図2回目受験者合格率の55%前後は変わっていないため明らかに意図的な変更だと思われます。

R2年の製図試験のみ受験者(学科合格年未受験者含む)は緩和による合格者の影響を受けない最後の試験でした。これは学科合格年未受験者、2回目受験者、カド番受験者数のそれぞれが正確にわかる最後の年ということになります。既受験の製図受験者数は5374人で合格者1987人です。5374人の内訳は学科合格年未受験者187人、2回目受験者3846人、カド番受験者1341人でした。一方R2年は受験資格緩和初年で学科受験者数及び合格者数が大きく増えた年です。結果製図試験全体の受験生は11035人、合格者3796人でした。

R3年製図試験のカド番数予測

これらの数字から翌年R3年の製図試験のみ受験者の内訳を想定します。
まずR2年の製図不合格者数は7239人、また学科合格した製図の未受験者(この年から2回まで保留可能)は634人とわかっているため、翌年R3年の製図受験有資格者は「7239人+634人ー(カド落ち者数)」となります。R2年のカド番受験生は1341人なので、仮に全員不合格(カド落ち)であったと仮定するとR3年の製図受験有資格者は7239人+634人ー1341人=6532人となりますがR3年の製図受験者は6211人でした。つまりこの差6532人ー6211人=321人は「5年の内3回受験可能」の緩和を利用してR3年の製図試験受験を保留した最小限の人数となります。これはR2年のカド番受験生が全員不合格であるという想定が前提の数字になるため実際の保留者数はもっと多い(具体的には+カド番合格者数)ということになります。
ここからは仮定の話にしかならないのですが、仮にR2年のカド番合格率がR1年同様10%(その場合、合格年未受験者と2回目受験者の合格率は46%となりR1年以前より約10%低くなります)とするとカド番合格者は134人、カド落ち者数は1207人となり、翌年R3年受験を保留した人数は321人+134人=455人となります。
この仮定のR2年カド番合格率ですがカド番以外の既受験合格率が約10%下がっている(46%)ことからも、R2年のカド番合格率が仮定の10%より高いことは考えにくい(H30年→R1年の合格率変化から考えても)という根拠によるものです。
この仮定に基づくとR3年の製図試験受験者は、「R2年の受験保留者634人+R2年の初回不合格者3852人ーR3年の受験保留者(先ほどの仮定)455人+カド番受験者数=6211人」となるため、R3年のカド番受験者数は2180人(仮定)となります。
R2年同様に、このカド番受験者の合格率を10%とすると、カド番合格者数は218人、カド番以外の合格者数は2423人ー218人=2205人となります。
カド番以外の製図試験のみ受験者数は6211人ー2180人=4031人なので、カド番以外の既受験合格率は約55%とR1年までと同水準となり、仮定に仮定を重ねていますが大外れもしていないと考えられます。
さて、以上からR3年の製図試験のみ受験者の内訳を想定出来たので、カド落ち者数も2180人ー218人=1962人と想定出来ました。

R3年製図試験内訳を根拠としたR4年学科試験合格者数予測

長々とR3年の製図試験のみ受験者の内訳を探ったのは、試験元はこの数字(当然想定ではない正確な数字)を元にR4年の学科合格者数を想定し、それが結果として6289人合格、合格率21%という結果になったと考えるからです。

試験元が製図試験受験者の上限を11000人と想定していることは近年で最も人数をコントロールしやすかったR2年の人数から伺えます。
R3年のカド落ち者数が1962人(仮定)なのでR4年の製図受験有資格者は「R3年の製図試験不合格者数6734人+R3年に学科合格した受験保留者544人+R3年の受験保留者455人(仮定)ーカド落ち数1962人(仮定)=5771人」となります。R3年の受験保留者455人(仮定)はR3年の製図受験有資格者「R2年の製図試験不合格者数7239人+R2年に学科合格した受験保留者634人ーR2年カド落ち数1207人(仮定)=6666人」の約7%であることから、R4年の受験保留者も同様に7%程度と想定すると5771人×0.07≒404人となるので、R4年の製図試験のみ受験者数想定は5771人ー404人=5367人となります。
製図試験全体受験者上限は11000人と考えられるので5367人を引いた5633人が学科合格した想定製図受験者数です。
R2年の学科合格年製図受験保留者634人、R3年の学科合格年製図受験保留者544人はいずれも学科合格者に対して10%、11%であり、R4年も同様に10%程度の製図試験保留学科合格者が出ると考えると上記想定の5633人は学科合格者の90%となるため、学科合格者は5633人/0.9≒6259人となります。

ここまで仮定の上で数字を追ってきましたが、結果として実際のR4年学科合格者6289人とほぼ誤差がないため、実際の数字から想定している割合以外の、本当の意味での仮定した数字「カド番受験者合格率は10%」にはある程度の真実味があることになります(その仮定も過去の数字に基づいている)。

結果的にR4年の製図受験者数は学科合格者が5464人(想定ー約200人)、製図からの受験者が5045人(想定ー350人)で合計10509人であったため、試験元が11000人を上限として想定しており、そこから逆算して学科合格者を出している、という予想もある程度の妥当性がありそうです。

R5年学科試験合格者数予測

前段が長くなりましたが、ここからこの記事の目的です。
今年R5年の学科合格者数はどうなるのか、です。以下ここまでと同様の過程で想定してみます。

まずR4年の製図試験のみ受験者は5045人でした。上記想定では製図受験有資格者は5771人であったので726人が製図受験を保留したことになります。R3年の状況から約7%と想定しましたが受験保留者は実際には12.5%(726人/5771人)という割合であったことになります。この5.5%ほど増加した理由を考えるとこの726人にはR3年の製図受験保留者と異なりカド番(R2、R3不合格)が含まれているからだと想像出来ます。
仮にR4年のカド番受験者数の想定を、726人の中にカド番が含まれていない前提で考えると5045人から「R3年の受験保留者544人+R3年の初回不合格者2946人ーR4年の受験保留者726人=2764人」を引いた2281人となります。これを元にカド番合格率10%と考えるとR4年のカド番以外の既受験合格率は(製図合格者2005人ーカド番合格者228人)/2764人=0.642→約64%とかなり高くなりこれまでの合格率との差異が目立ちます。
一方、R4年の製図保留者増加分(5.5%)がそのままカド番生の分と考えるとR4年製図試験を受験したカド番の数は5045人から「R3年の受験保留者544人+R3年の初回不合格者2946人ーR4年のカド番以外の受験保留者404人(7%)=3086人」を引いた1959人となり、カド番合格率10%と考えるとR4年のカド番以外の既受験合格率は(製図合格者2005人ーカド番合格者196人)/3086人=0.586→約59%とこれまでの合格率に近くなります。受験保留者の中には増加した5.5%以上にカド番がいる可能性も考えるとカド番合格率10%を前提とした時のカド番以外の既受験合格率は55%により近くため、受験保留者増加分がカド番であるという想定には妥当性があるように思えます。

以上を前提とするとR5年の製図受験有資格者は「R4年の製図試験不合格者数7036人+R4年に学科合格した受験保留者825人+R4年の受験保留者726人ーカド落ち数1763人(1959人ー196人)=6824人」となります。
R3年において約7%と想定した製図受験保留者がR4年には12.5%(726人/5771人)と増加したことからR5年の受験保留者も同様の割合だと想定すると6824人×0.125=853人となりR5年の製図試験のみ想定受験者は6824人ー853人=5971人となります。

上限想定11000人からこの製図試験のみ想定受験者5971人を引くと5029人となり、これが学科合格年製図受験者数となります。この数字に学科合格年製図受験保留者を加えた人数がR5年の学科試験合格者数です。R2年、R3年の学科合格年製図受験保留者はいずれも10%程度でしたが、昨年R4年は約13%と上昇しています。R5年もR4年同様に13%が受験回避すると想定すれば学科試験合格者は5029人/0.87≒5780人、10%が受験回避すると想定すれば5029人/0.9≒5588人です。この学科合格年の受験回避率10%→13%には製図受験保留者率(7%→12.5%、カド番保留者分の増加)のように合理的と考えられる理由が思い当たりません。そのためR5年において13%回避想定で10%回避となると製図受験者が11000人を上回る可能性が出てきます。試験元が製図受験者上限を定めていると考えられる理由は会場キャパシティや採点効率など実際的な問題が絡んでいると想像出来るので受験回避率を大きく見積もった合格者数は出さないのではないかと思われます。

いずれにせよ、ここまで書いてきた内容は仮定仮説の上のものであり何らかの確証、及びエビデンスがある訳ではありません。結論としては最初に書いた通り、R5年の学科合格者は5700人程度になるのではないかと思います。

既受験合格率に基づく製図試験の戦略

さて、学科合格者数の割り出しにおいて仮定した数字にある程度の妥当性があると考えられることで製図試験そのものについては今一度よく考えておいた方が良いことが見えてきました。
上述していますが仮定している数字とは「カド番受験生の合格率は10%程度」というものです。これにより大凡ですが初回合格率30%、2回目合格率55%、カド番合格率10%という構図が見えてきます。
R2年以前はよほどのことがない限り学科合格した状態で製図試験を回避することは考えられませんでした。上述の通り、R2年以前の学科合格年未受験者が大体3%いたのは学科合格点のボーダーにおり、ダメだと思って準備していなかったものの合格した、という人達だと考えられます。そこで受験しなかったとしても製図試験を受けるチャンスは1回消費されてしまいます。また仮にカド番となっても約30%程度の合格率はあり、カド番が明らかに不利だという認識はなかったように思います。
ただ、上記のような構図が見えること、また、受験資格緩和によって「5年間で3回受験可能」となったことで製図受験回避を合格のために「戦略的に」考える必要が出てきたことになります。
一般的に言われるように、また個人的にも、学科合格年にそのまま資格を取り切るつもりで勉強する方が良いと思います。また初受験や既受験で合格率は操作されていない、という考え方もあります。
ただデータ上共通の数字として出ていること、その数字を根拠にした想定に矛盾が生じないことからも、「カド番が明らかに不利だ」という認識を持った上で「5年間のどこで受験するのか」を考える必要があるように思います。特に初回に関してはよほどの理由がなければそのまま学習を続け受験しても良いかと思いますが、1回不合格になった後の「2回目について、いかに学習環境を整えた状態で臨めるか」は一級建築士取得のために欠かせない視点になるかと思います。
カド番の合格率がここまで低い背景には試験元のメッセージも読み取れるように思います。つまり「全うな対策や準備なく3回受験するのではなく、保留のチャンスを2回与えているのだから十分に合格する力をつけてから製図試験に臨んで欲しい」、というメッセージです。
これを読んでくださっている方の中には昨年不合格になられた方もいると思います。やはり長期に通えば良い、といった短絡的な考えではなく、どのような原因で不合格になったのか、自身の弱点はどこなのかをちゃんと把握し、それを今からの1年で解決するのか、2年または3年かけて解決するのかという視点が必要であるように思います。

まとめ

繰り返しになりますが「カド番受験生の合格率は10%程度」はあくまで仮定であって、R1年を除いてはそのようなエビデンスがあるわけではありません。ただ、仮にカド番合格率が30%であったとしても3回受験することは誰にとっても望ましいことではなく(資格学校を除いては)、その状態を避けるためにも分析とその対策は必須になります。上記でR5年の学科合格者を予想しましたが、その数字があっているならば潜在的な製図試験受験有資格者は実際に増えてきており、R2年学科合格者が受験不能になるR7年の前年R6年までは増え続けると思われます。製図試験だけ、で言えば難易度(というか競争率)は上がることになると思います。これまで以上に仕事や家族、周りの環境を整えることが重要な試験になるのではないでしょうか。


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