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カタカナ「アトツギ」を再定義しました

当たり前の話ですが、経営者には「始める人」と「引き継ぐ人」の2種類しかいません。始める人がいなかったら会社が存在してないので始める人はもちろん大事。でも引き継ぐ人の存在もとても大事。引き継ぐ人の方が圧倒的に多いですから。


でも「跡継ぎ」とか「後継ぎ」とか、この受け身感全開の字面が、引き継ぐ人たちの世界が薄暗ーい印象で語られてしまう一つの要因ではないかと思い、10年くらい前から「アトツギ」とカタカナで呼び始めました。
(サウンドは漢字バージョンと同じじゃないかというツッコミはとりあえずスルーしますw)


この数年で、X(旧Twitter)でも自身のアカウント名に「アトツギ」を入れる人が急増し、「アトツギ」という単語がメジャーな新聞メディアの見出しに使われるなど、少しずつ市民権を得てきていることを実感しています。

その一方で、この「アトツギ」が一人歩きして、さまざまな使われ方をし始めたので、このたびカタカナ「アトツギ」を名付け親として再定義しました。


アトツギとは
「先代から受け継いだ価値を、時代に合わせてアップデートすることで、その次の世代に託す時まで、存続にコミットする個人」



アトツギになるのは、家族でも社員でも第三者でもいい。
でも次の世代の誰かに託すまで、預かった価値を存続させるために挑戦を重ねる人。単に引き継ぐ人ではない。

・・・としました。

◆会社や事業ではなく「価値」

会社の継ぎ方は多様化しています。法人を継ぐ、事業を継ぐことだけが事業承継ではありません。私たちの周りのアトツギも、既存事業の一部を活用した全く別の新規事業で新会社を立ち上げたり、世代交代のタイミングで思い切った業態転換をしたりとさまざまです。引き継ぐべきものはアトツギによって違うという前提で、あえて「価値」としました。

◆存続にコミットできるかどうか

引き継いだ価値を「預かりもの」だと思えるか。預かったものは自分の所有物ではないので簡単には失くせない。次の誰かに託すまで大切に預らないといけない。そういう感覚になっている人が「アトツギ」です。

第三者承継(M&A)の場合でも、業界や地域でのこしたい価値を次の誰かに託すまで存続にコミットできる人は「アトツギ」です。でも設備や取引先など、現時点での経営資源に魅力を感じて買収するという場合は、あくまでも事業戦略や起業の一つの手段。引き継ぐ方にも「アトツギ」という自覚はないでしょう。

逆に、同族承継であっても、家業を引き継いだだけで存続への努力を諦めた人は「アトツギ」とは呼びません。

ちなみに存続できたかどうかは結果論です。この定義でも「存続させる個人」ではなく「存続にコミットする個人」とすることで、存続に向けたプロセスに価値があることを表現しました。

◆存続へのコミットが変革を生む

アトツギの最大のミッションは成長や拡大以上に「存続」です。

時代は目まぐるしく変化する。その中で、社会から必要とされる会社であり続けなければいけない。これが老舗企業が多くのイノベーティブな商品やサービスを生み出してきた背景です。

もちろん商品やサービスだけではありません。業務や組織のあり方も含めて時代に合わせてアップデートし変革できるのは、存続へのコミットがあってこそ。事業そのものは変わっていなくても、社内を変革したことで業績を上げている会社はとても多いです。

◆託す相手を見極める

アトツギ社長もいつかは他の誰かにバトンを渡す日がやってきます。でも託す相手は誰でもいいわけではありません。相手が家族であれ、社員であれ、第三者であれ、存続にコミットしてくれる人かどうかを見極めてから託す。

ここまでが、先人から引き継いだ価値を預かってきたアトツギ社長の仕事です。



以上、ここまでがカタカナ「アトツギ」を再定義した内容です。


時代は「スクラップ&ビルド」から「サステナブル」へ


ほんの10年くらい前まで「スクラップ&ビルド」という言葉がもてはやされていましたが、今はもう誰も言わなくなりました。「古いものは捨てて新しいものを手に入れればいい」という考え方が、自然環境も含めてさまざまな社会課題を引き起こしてきた現実に、社会の価値観も大きく変わってきています。

企業活動でも、今ある価値を未来に繋げるために、今の時代観をもつ若い世代がアップデートすることで、時代に受け入れられるサステナブルなものにしていくことが求められているように感じています。

このたび再定義した「アトツギ」には賛否両論あると思います。

でも事業承継の世界では、対処療法的に引き継ぎ先を探す仕組みばかりに注目が集まっています。「事業承継」というビッグワードに、会社や技術を買えるビジネスチャンスと見る人と、先人から引き継いだ価値を未来に繋げるために最大化しようとする人が、同じ括りで語られていることに違和感を感じています。

企業経営は感情を持つ人間の営みです。存続させたいと思う強い気持ちが原動力となり、多くの価値を生み出す事例をこれまでたくさん見てきました。

今回定義したような「アトツギ」の皆さんが、事業承継の本質的な意味と価値を社会に伝えてくれることを切に願っています。


がんばろう、同族アトツギ

ちなみに一般社団法人ベンチャー型事業承継では、引き続き「同族アトツギ」の支援に尽力します。


存続への強い意志を持っている。
電卓を叩いて合わない、非合理な決断ができる。
でも家族から引き継ぐからこその、特有の課題や悩みも多い。


社長になるまでに必要な学びを得るプラットフォーム「アトツギファースト」では、全国のアトツギが家業の存続をめざして、業務改善や事業開発に日々大奮闘しています。いろんな制約の中で葛藤しながらも行動を起こしている彼らを見ていると「預かったものをのこしたい」という人間の気持ちは最強だとつくづく感じます。


これからも彼らが描く未来を実現できるように、環境整備に尽力していきます。


一般社団法人ベンチャー型事業承継
代表理事 山野千枝

アトツギを応援するイベントや活動、発信に役立てます!