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習作SS『混線』(973文字) 《会話文だけでSSを書いてみる》

「もしもし吉田? なんでずっと電話に出ないんだよ。台本、昨日までに上げるって約束だったろ。すっぽかして何してんだよ。稽古始められないだろうが」

『え、もしかして森? なんで俺の番号知ってんの? 昨日携帯買ったばっかなのに』

「は? 何言ってんだよ、大学ん時からその番号だろ」

『大学ん時からって俺ら今、大学生だろ。それに台本って何。先月演劇部に二人で入部したばかりだよ』

「ふざけんなよ、大学卒業して劇団旗揚げして三年目だ。おケイも菅田もピリピリして待ってんだぞ!」

『旗揚げだって? 夢でも見てんのか。おケイって、学園のマドンナだろ。俺なんか未だに口もきいてもらえてないよ。冗談にしてもくだらなさすぎ』

「……吉田、本当に頭でも打ったか? 言ってみ。今何年だ? お前今どこにいる? 何が見える?」

『2014年5月10日、晴天。美山寮202を出て、これから丸亀にバイト行くとこ。まだごちゃごちゃ言うと、先週借りたジョジョ全巻、返さんぞ』

「未だに返してもらってねえよ! いやそんな事よりマジでこの電話、7年前の吉田に繋がってんの?」

『お前がふざけて無ければな。逆に訊くが、森が未来の森だって証拠は?』

「今、令和だよ」

『なんだよレイワって』

「マジか……。だったらさ、頼みがある。後藤って奴が夏に入部して来るけど阻止しろ。そいつ手癖が悪くて部員の子に端から手を出して、おケイにも……」

『それが本当なら許せんな。ところでおケイは本当に劇団員になるの?』

「そうさ。聞いて驚け。まだ誰にも内緒だけど、俺たち婚約したんだ」

『え……』

「って事だから、よろしく」

『待てよ、なんでそっちが主導権取るんだ。未来だから偉いの?』

「……どうしたんだよ吉田」

『俺が行動起こせば未来は変わるんだよ。そうだろ? 俺がどれほどおケイに憧れてたかお前知らない?』

「聞いたことねえよ、おい、……何考えてんだ」

『お前が結婚できるなら俺にだって望みはある。未来を変えてやるよ』

「おい、そこでやる気を出すな、吉田! ――あ、ちょっと待て、誰か来た。団員かも。電話切らずにそのままにしとけよ!」

「ちわ~っす」

「よ、吉田!」

「っていう脚本書いてるんだけど、どうかな」

「……は?」

「タイトルは『混線』。オムニバス形式の会話劇」

「おま……」

「森、婚約おめでとう」

「うっせえよ! ジョジョ全巻返せ!」 
  

(了)