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e-Gov法令検索を利用する際に注意すべき点(令和6(2024)年5月7日更新)

 立法学に関する書籍を準備中なのですが、そこで書ききれないというか、はみ出したものを書いていこうかと思います。これは、その第一弾。e-Gov法令検索について紹介するつもりなのですが、その利用にあたって注意するべき点があるように思いました。ただ、それをその書籍中で説明することが難しいので、ここで示すことにしました。e-Gov法令検索を利用しようという方の参考になれば幸いです。ただ私自身の理解不足や調査不足のせいで、誤解している点や見落としている点もあるかと思います。また、このようにすれば解決するというような点もあるかもしれません。さらに、その後の変更もあるかもしれません。このような点があれば、お知らせください。いずれにせよ、このノートは、適宜、更新することがあります。令和6(2024)年4月9日に更新しました。


1 検索の仕方についての説明がないということについて

 e-Gov法令検索の検索の仕方についての説明がないように思います。私が見つけられないというだけかもしれませんが、現在のところ、複数の単語を入力した場合に「and検索」になるというのは分かりますが、「or検索」はできないのか、できるとしたらどうすればよいか、検索式は使えるのかといったことは分からないというところです。

2 リニューアル後に「本則の条単位の検索」ができなくなったことについて

 e-Gov法令検索は2020年11月24日にリニューアルしましたが、それまでできていた「本則の条単位の検索」ができなくなりました。このため、立法例を調べたり、例えば「4月入学の根拠条文は何か。」といった特定の事項について調べたりするのに、手数がかかるようになっています。というのも、いずれの場合も、複数の単語が同じ条の中にあるということを調べることになる場合が多いからです(同じ項というほうがいい場合もありますが、条で検索することでも十分有効であり、場合によってはその方がいい場合もあります。民間の有料データベースの場合は項単位の検索ができるものもあります。)。したがって、現在は従来のような条単位ではなく、法令単位の検索なので、検索した複数の単語が関係ない条に別々にあっても、検索されてしまいます。したがって、検索結果から、法令ごとに単語がどの条にあるのか見ていく必要があります。この場合、現在では、「全文」の検索を行い、検索結果画面から、法令を開き、その際にハイライト表示のチェック欄にチェックを入れ、次ヒットで探していくということになります。また、ある法令を調べた後に、別の法令に移る際には、いったん検索結果のページに戻らなくてはならないことになっています。このように、以前より手数が多くなりますので、注意してください。

3 日本国憲法制定前の法令の分類について

 e-Gov法令検索における日本国憲法制定前の法令についての分類について、以下のようなことに注意する必要があります。
 

 3−1 太政官布告の分類

 後述の5に、令和3年9月5日現在のDB登録法令数の説明を載せています。そこにもあるように、法律の欄では「(当システムでは、太政官布告※1件(爆発物取締罰則)を法律に分類しております。)」とあり、政令の欄では「当システムでは、太政官布告6件(明治十四年太政官布告第六十三号(褒章条例)、明治八年太政官布告第五十四号(褒章制定の件) 等)を政令に分類しております。」とありました。
 しかし、令和6(2024)年4月8日現在のDB登録法令数のページ

では、法律の欄に次のように太政官布告について書いてあります。

(当システムでは、以下の太政官布告3件を法律に分類しております。
 明治十七年太政官布告第三十二号(爆発物取締罰則)(明治十七年太政官布告第三十二号)、明治六年太政官布告第六十五号(絞罪器械図式)(明治六年太政官布告第六十五号)、明治十三年太政官布告第三十六号(刑法 抄)(明治十三年太政官布告第三十六号))

 また、政令の欄では次のような説明があります。

(当システムでは、以下の太政官布告4件、太政官達3件を政令に分類しております。
 明治五年太政官布告第三百三十七号(改暦ノ布告)(明治五年太政官布告第三百三十七号)、明治八年太政官布告第五十四号(勲章制定ノ件)(明治八年太政官布告第五十四号)、明治八年太政官布告第百三号(裁判事務心得) 抄(明治八年太政官布告第百三号)、明治十四年太政官布告第六十三号(褒章条例)(明治十四年太政官布告第六十三号)
 明治八年太政官達第百五十二号(不用物品等払下ノトキ其管庁所属ノ官吏入札禁止ノ件)(明治八年太政官達第百五十二号)、明治十年太政官達第九十七号(大勲位菊花大綬章及副章製式ノ件)(明治十年太政官達第九十七号)、明治十六年太政官達第二十七号(官報の発行)(明治十六年太政官達第二十七号))

 この点で、確認できる限りでは、昨年(2023年)11月には、DB登録法令数のページが改められていました。なお、5での説明については、当時の法令数の対比ということもあるので、そのままとしています。従来と変わった点では、まず、「明治六年太政官布告第六十五号(絞罪器械図式)」と「明治十三年太政官布告第三十六号(刑法 抄)」とが「法律」とされていることがあります。絞罪器械図式は、最大判昭和36年7月19日により法律としての効力を有すると判示されています。「刑法 抄」も当然法律であると思います。
 そして、現在では、政令の欄で、政令扱いとする太政官布告と太政官達を書いていることが確認できます。政令扱いとされた太政官布告のうち、勲章制定ノ件(明治8年太政官布告第54号)と褒章条例(明治14年太政官布告第63号)は、学説に反対があるとはいえ、政府の解釈では政令であるとしているので、政令扱いとすることはわかります。しかし、改暦ノ布告(明治5年太政官布告第337号)については、明治憲法下でも法律であり、そのため現在も法律としての効力を有すると考えるのではないかとも思います(SOZ「こよみと法律―世界暦の問題に関連して」時の法令163号14頁以下(1955)17〜18頁参照。)。改暦ノ布告が明治憲法下での勅令だとすると、現行憲法下で法律をもって定めるべき事項を定めている命令となり、これを法律とする法律が制定されていない以上、失効していることになるのではないかという問題があります。裁判事務心得(抄)(明治8年太政官布告第103号)は、権力分立の観点からも、現行憲法下で政令で定めることができる事項ではなく、これが現在も有効な法令であるということであるならば、法律事項を定めているものであり、これも法律であると考えるべきではないかという問題があるように思います。
 いずれにしても、太政官布告について、現在法律として効力があるものについて調べるときには注意が必要です。また、関連して改正すべき法律を探すというような場合、「法律」について検索しただけでは、こうした太政官布告が出てこないということですので、注意する必要があります。

 3−2 「勅令」のカテゴリーについて

 e-Gov法令検索では、「勅令」のカテゴリーがあります。
 しかし、そもそも現行の法形式ではない「勅令」というカテゴリーを設ける必要が、この点について説明がないこともあり、分かりません。日本国憲法下での法形式ではない日本国憲法制定前の法形式で現在も効力を有しているものは、現行の法形式で相当するものとして効力を有するということになっているはずで、「勅令」という法形式を残しておく必要はないようにも思います。例えば、太政官布告、太政官逹や閣令などのカテゴリーはありません。さらに、DB登録法令数のページの説明に勅令は「政令と同一の効力を有するものとされております。」とあるのですから、政令として扱うことにすべきで、勅令のカテゴリーを設ける必要はないように思います。
 一方、勅令というカテゴリーを設け、それを「政令と同一の効力を有する」としていることが問題を生じることになっています。明治時代には条約を勅令として公布していたことがあったため、勅令の分類の中に条約が含まれてしまうことになっています。メートル条約(明治19年勅令。これには官報上番号が付されていません。)、海底電信線保護万国聯合条約ノ説明書(明治20年勅令。これには官報上は番号が付されていませんが、e-Gov法令検索では明治20年勅令第1号としています。なお、これは、外務省条約データには見当たりませんので、条約ではないということなのかもしれませんが、条約の説明書が現在の政令に当たるというのも問題があるように思います。)、海上法ノ要義ヲ確定スル為メ西暦千八百五十六年四月十六日巴里公会ニ於テ決定セシ宣言(明治20年勅令。これには官報上は番号が付されていませんが、e-Gov法令検索では明治20年勅令第2号としています。なお、これは、外務省の条約データでは、「海上法ノ要義ヲ確定スル宣言」という名称で登載されています。)、日本国及希臘国間修好通商航海条約(明治32年勅令。これには官報上番号が付されていません。外務省の条約データでは、「修好通商航海条約」という名称で登載されています。)、日西特別通商条約(明治34年勅令。これには官報上番号が付されていません。外務省の条約データでは、「特別通商条約」という名称で登載されています。)の5件です。このことは、勅令というカテゴリーを作ったことで生じた問題といえるのではないでしょうか。

4 片仮名法律の件名の検索について

 e-Gov法令検索では、題名のない法令については、題名の代わりに「明治二十二年法律第三十四号(決闘罪ニ関スル件)」、「昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)」のように表示されています。
 このように、e-Gov法令検索では、片仮名法律の件名は、片仮名書きで表示しています。しかし、法制執務的に言えば、「件名を引用する場合には、題名を引用する場合と異なり、いわゆる地の文章に従って、片仮名書き・文語体の法令に引用するときは片仮名書き・文語体で、また平仮名書き・口語体の法令に引用するときは当該件名が片仮名書き・文語体であっても平仮名書き・口語体で引用してもよいこととされ、更に、件名に常用漢字でない漢字が用いられているときは、その字を平仮名書きにすることも許される。」(法制執務研究会『ワークブック法制執務 第2版』(ぎょうせい、2018)160頁)こととされています。実際にどうなっているかというと、大正15年法律第60号について、一部改正法を除き、令和6(2024)年5月1日現在、「暴力行為等処罰ニ関スル法律」と引用する平仮名法律が2件、「暴力行為等処罰に関する法律」と引用する平仮名法律が38件あります。また、大正15年法律第60号を改正する法律は、暴力行為等処罰に関する法律等の一部を改正する法律(昭和39年法律第114号)以降現在まで9件ありますが、いずれも「暴力行為等処罰に関する法律」と引用しています。平仮名・口語体の法律で片仮名・文語体の件名を引用する場合は、平仮名・口語体とするのが通例であるといえるでしょう。
 このことから、e-Gov法令検索での件名を用いた検索については、注意する必要があることになります。まず、片仮名書きの法令で件名によるものを題名検索をする際には、例えば「暴力行為等処罰ニ関スル法律」と片仮名で検索しないとヒットしないことに注意しなければなりません。一方、片仮名書きの法令で件名によるものについて、それを引用しているものを探すために全文検索するという場合には、片仮名と平仮名の双方で検索しないと、検索漏れが生じる可能性があるということになることに注意しなければなりません。

5 府省令について

 府省令というカテゴリーがありますが、DB登録法令数のページでは、「府令とは、内閣総理大臣が内閣府の長として発する命令をいい、省令とは、各省大臣が発する命令をいう。」とされています。こうした府令・省令と同格のものとして、内閣官房令、復興庁令及びデジタル庁令がありますが、それらは府省令に分類されています。このような分類自体が問題というのではありませんが、内閣官房令、復興庁令、デジタル庁令があるということについて注意が必要です。一方で、外局である庁の長官が定める庁令(海上保安庁令の2件です。)についても府省令に分類されています。この庁令は、大臣が発するものではないので、DB登録法令数のページで「内閣府及び各省の長以外の他の行政機関が発する命令をいう。」と説明されている「規則」に分類されるべきかとも思います。この点には、注意が必要です。

6 「DB登録法令数」と現行法令数の異同

 DB登録法令数のページでいう「DB登録法令数」とはどういうものか説明がないので、この数字がどういうものなのかがわかりません。そのため、この数字が現行法令数と同じなのか違うのか、違うとしたらどう違うのかがはっきりしません。
 まず、法令名検索で検索用語欄を空欄にして、各法令の形式ごとに検索してみると、「DB登録法令数」とは異なる件数となるということがあります。令和3年9月5日で、「DB登録法令数」で示されているものと上記の検索で得られた件数を示すと次のようになります。

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 次に、有斐閣六法編集室編『有斐閣六法の使い方・読み方』(令和3年9月17日第59刷発行)1頁では、「令和三年七月一日現在、効力を持っている法律の数は二〇二八件、法律以外の下級法規では、政令が二二一〇件、その他府庁省令が三八二一件とされています。」とあります。基準日が違うので数字が違っても不思議はないのですが、それでも、この差は「DB登録件数」と現行法令数とは違うということを示しているのではないかと思います。例えば法律で見てみると、「DB登録件数」の方が34件多いことになります。新規制定の法律は、令和3年は9月5日現在で20件です。もちろん令和2年以前に公布された新規制定法が令和3年7月1日以降に施行されるということもあるので、これだけとはいえませんが、それでも、この差が埋まるとは思えません。
 このように、この登録法令数については、そもそもどういう数字なのか、さらに現行法令数とどういう関係にあるのか分からないので、注意が必要です。

7 府省令等の制定文について

 府省令等の制定文は、官報では日付及び制定者名を含めて題名の前に置かれていますが、e-Gov法令検索では題名の後に日付及び制定者名がない形で置かれています。漁業法施行規則(令和2年農林水産省令第47号)について、官報とe-Gov法令検索を並べてみます。

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 e-Gov法令検索のヘルプでは、「法令データが官報で掲載された内容と異なる場合には、官報が優先します。利用者が当サイトの情報を用いて行う一切の行為について、デジタル庁及び各府省が何ら責任を負うものではありません。」としているにもかかわらず、わざわざ官報と異なる形で載せることの意味がわかりません。そもそも、府省令等の制定文は、法律、政令の公布文の代わりに置かれるものであり、法令の一部ではないものと思います。また、仮に法令の一部であるとしても、上記の漁業法施行規則の制定文が「漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)及び漁業法施行令(昭和二十五年政令第三十号)の規定に基づき、並びに同法及び同令を実施するため、漁業法施行規則(昭和二十五年農林省令第十六号)の全部を改正する省令を次のように定める。」とされ、題名の前に置かれるので、府省令等の題名を含め、制定することが示されています。e-Gov法令検索でのように題名の後に置かれると、制定文中の「次のように」の中に題名が含まれないことになり、問題があります。さらに、制定文は制定権者が制定を宣言するものなのに、このように制定権者の署名がないと、制定権者が不明のものとなってしまいます。これに対し、政令の制定文は、例えば漁業法施行令では「内閣は、漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)及び漁業法施行法(昭和二十四年法律第二百六十八号)を実施するため、並びにこれらの法律の規定に基き、この政令を制定する。」となっているように、題名の後に置かれるものであっても、制定権者が「内閣」と明示され、「この政令を制定する」となっていて、題名も制定されるものに含まれることとなっています。なぜ、このように府省令等の制定文を載せるのか、疑問があります。
 この点は、法令の内容について調べる限りでは問題となることはないのかもしれませんが、問題があるように思います。




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