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嘘吐き 【短編小説】

同棲していた彼氏と別れた。原因は彼の浮気。元々、女遊びが激しく浮気癖がある彼だった。彼の「ごめん、次はしないから。」という言葉を信じては何度も許していた。だが今回ばかりは限界だった。

「次は浮気しないから。」と嘘しかつかない彼。
「酔っ払って甘えてくるのが可愛い」「好きだよ」「愛してる」
こんな彼の甘い言葉も、全て嘘だったのだろうか。


ある日、彼がいなくなった部屋を掃除していると、冷蔵庫と壁の隙間からジッポーを見つけた。以前、彼が失くしたと言っていたものだ。

彼はよく「吸ってみる?美味いよ。」と私にタバコを勧めてきた。私は「吸わないよ、体に悪いし。あと臭い。」と断っていた。「ちぇ、なんだよう。」と笑いながら、ふーっと煙を私に向かって吐く彼と、「やめてよー」なんて言いながら笑って逃げる私。これがいつもお決まりの構図だった。

ああ、くそ、なんでこんなこと思い出すんだろう。思い出したくもないのに。
イライラする。コンビニで酒でも買うか。酒飲まないとやってられん。
ついでにこのジッポーを近くの川にでも投げ捨ててこよう。


コンビニでハイボールとお菓子を手にレジの前に立つ。店員の後ろには数々の煙草が綺麗に並んでいる。その中の見覚えのある煙草がすぐ目に入った。その刹那に私は口走っていた。

「セブンス…、あー、36番、お願いします。」


決して煙草を吸いたくなったのではない。ジッポーを使いたかったのでもない。噓だらけだった彼の「美味いよ」が本当だったのか知りたかった。

彼の本当を一つでも見つけたかった。

まだ彼を信じたい気持ちと、それに嫌気がする気持ち。二つの感情が混ざり合っている事を感じながら、ポケットに突っ込んでいた彼のジッポーを手に取る。慣れない手つきで煙草に火をつけた。
一吸いしたらむせて涙が出てきた。この涙はむせたせい、きっと。
もう一吸いして、虚空に向かって煙と共に吐いた。

「美味しくないじゃん、嘘吐き。」


短編小説第2弾です。エイプリルフールなので、嘘にまつわるお話にしました。

では、また。

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