書籍感想「希望の糸」

今回は東野圭吾著「希望の糸」の感想を書き綴っていきたいと思います。


私にとっての「東野圭吾」

本作は私の愛してやまない東野圭吾氏の著書となります。

私は大学時代に実家から兵庫県にある大学に片道2時間かけて通っていたため、「通学時間暇やなぁ。そや、本でも読も!」と軽い気持ちで読書することにしました。
当時の私は読書とは無縁、むしろ嫌っている部分もあったのですが、スマホも無くガラケーの通信料も気にしていた私にとっては仕方のない選択でした。

その際にたまたま平積みされており、目に入ったのが東野圭吾氏の「パラレルワールド・ラブストーリー」の文庫版でした。
「パラレルワールド・ラブストーリー」は単行本は1995年、私が読んだ文庫版が1998年に刊行されているので、20年以上前の作品となります。
また2024年には実写映画化もされています。

私が読んだ当時は刊行されて5年程度経った頃だったのですが、衝撃を受けた一作です。
その後、私は東野圭吾氏の著作は片っ端から読み、大学入学から1年を過ぎる頃には他の作家さんの作品も読むようになっていました。

東野圭吾氏は読書嫌いな私を読書という道に導き、その後に他の作家さんの作品を読むきっかけをくれた恩人と言っても過言ではない作家さんとなります。

加賀恭一郎シリーズ

今回読んだ「希望の糸」は「加賀恭一郎シリーズ」と呼ばれる作品群の1つとなります。
基本的には主人公は加賀恭一郎という刑事です。
ドラマ「新参者」や映画「麒麟の翼」で阿部寛氏が演じられていたキャラクターといえば分かってくれる方も多いと思います。

このシリーズの特徴は「面白い切り口の作品が多い」ことだと、私は考えています。
ラストに事件の真犯人をあえて書かず、読者に考えさせる「どちらかが彼女を殺した」と「私が彼を殺した」のような究極のフーダニット(Who Done It?:誰が犯行を行ったか?)作品、犯人のトリックにより巧妙に隠された動機を明らかにしていく「悪意」のような至高のホワイダニット(Why Done It?:なぜ犯行を行ったか?)などが挙げられます。
この記事を調べていて知ったのですが東野圭吾氏が書く書くと言っていた3本目の究極のフーダニット「あなたが誰かを殺した」の単行本が既に刊行されていることを知りました。
文庫化が待ち遠しいです。

また東野圭吾氏のデビュー2作目から続く古いシリーズでもあります。
有名な「ガリレオシリーズ」よりも古くから存在する、東野圭吾氏を代表するシリーズとなっています。

本作のあらすじ

前置きが長くなってしまいましたが、本作の内容に触れていきたいと思います。
あらすじは公式サイトから拝借いたします。

東野圭吾の最新長編書き下ろしは、「家族」の物語。

「死んだ人のことなんか知らない。
あたしは、誰かの代わりに生まれてきたんじゃない」
ある殺人事件で絡み合う、容疑者そして若き刑事の苦悩。
どうしたら、本当の家族になれるのだろうか。

閑静な住宅街で小さな喫茶店を営む女性が殺された。
捜査線上に浮上した常連客だったひとりの男性。
災害で二人の子供を失った彼は、深い悩みを抱えていた。
容疑者たちの複雑な運命に、若き刑事が挑む。

『希望の糸』(東野 圭吾)

今回の主人公はシリーズ名にもなっている加賀恭一郎刑事ではなく、加賀刑事の従兄弟であり捜査一課の刑事である松宮脩平刑事となっています。
殺人事件の裏で進行する彼の出生の秘密も本作の見所の一つとなっています。

本筋の事件をミステリーのタイプでいうと前半はフーダニット、後半はホワイダニットという形で進みます。
そのため、前半は「誰が犯人なんだ?」と推理していき、後半は「なぜ犯行に及んだのか?」を詳らかにしていきます。
数奇な運命に翻弄された容疑者たち(と被害者)は互いに細い糸で繋がっている関係で強く結びついている訳ではないのですが、全てはとある人物のことを考えての行動で、それが悲しい結果を生んだという形になっています。

感想

この作品の前に読んだ東野圭吾氏の作品が「ガリレオシリーズ」の一つである「沈黙のパレード」でした。
「一人の人物のために多くの人間が行動する」という点では共通するものがあるのですが、容疑者たちは互いに本心を隠しながら、思惑も異なりながらも一つの秘密を守るために動いている点が違いとなっています。
この発想ができる東野圭吾氏は流石としか言えないです。

また、個人的に心に残った加賀刑事のセリフがあります。
とある容疑者に大して疑念を抱いた松宮刑事が成果を上げられず、自身の勘が外れたと嘆いているところに行ったセリフです。
要約すると「刑事の勘が外れることは往々にしてある。外れた勘に固執する刑事は優秀な刑事ではないが、勘が外れたとすぐに判断してしまう刑事も優秀な刑事だとは言えない。」というような内容です。
これは刑事に限らずどの職業にも当てはまるのかなと思いました。
自分の信じた道を突き進むだけでも駄目だし、思い通りでないとすぐに道を変えるのも良くない。
ある程度の限度は守るべきだとは思いますが、「自分が信じたものに自信を持ち、駄目だと分かるまでは突き進むべきだ」と私は解釈しました。
盲信するのでなく確実に間違いだと確証が得られるまでは試す、というのはおそらく偉業を成し遂げてきた科学者などが実践してきたことだと思います。

また、サイドストーリー的に挟まれている松宮刑事の出生の秘密もすごく良く、本編も含めて早く真実が知りたくなり一気に読み切ってしまいました。

まとめ

東野圭吾氏の作品は、ほぼ例外なく人に勧められる作品です。
この作品もその一作ですので、ぜひご一読を。

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