比べられないものを比べる

私たちは,つい何かと何かを比べてしまうものです。「一番すごいのはどれ?」「一番強いのは?」「一番速いのは?」「一番賢いのは?」といったようにです。

ちなみに「世界一」を集めたものと言えばギネスブックですが,もともとビール会社のギネスの社長がはじめたものですよね。パブのプロモーションのために一番を集めた書籍を作り始めたとか。今では独立した会社になっていますが……ギネスビールが飲みたくなってきました。

比べるのが好き

さて,ネットの記事でも,ランキングものというのは定期的に出されますし,それだけ記事が書かれるということは,多くの人の関心を集めるものなのだろうなと思います。

年収も大学も,国も,何でもランキング化されて,「どの会社に入るのがいいのか」「どの大学がお得なのか」「どの国が優れているのか」といったことを判断する材料になります。

比べられるか

でも,私たちがついやってしまうことも,あると思うのですよね。それは,本当は比べられないものどうしを,つい比べてしまうことです。

たとえば,陸上の大会で1位を取ることと、水泳の大会で1位を取ることは,どちらが凄いことなのでしょうか。「陸上のほうがすごい」「いや,水泳のほうがすごい」と,いろいろな意見がありそうです。「こっちのほうが競技人口が多いのだから,すごいはずだ」ということを言い出す人もいそうです。

では,物理学の研究で賞をもらうことと,心理学の研究で賞をもらうことは,どちらが凄いことなのでしょうか。「物理学はノーベル賞があるけれど,心理学ではないだろう」「研究者の数はこっちの方が多いんだから,こっちのほうがすごいはず」「大学で学ぶ内容はこっちの方が高度なのだから,こっちのほうがすごいはず」などなど。いったん「こちらの方がすごい」と考え出せば,いくらでも理由を思いつくことができそうです。

さらに,文系の偏差値60と,理系の偏差値60はどちらが凄いことなのでしょうか。「国語と数学だったら,数学のほうが難易度が高いんだから理系のほうがすごいだろう」「受験者数を考えれば文系のほうが人数が多いのだから,その中で高い偏差値をとるのはたいへんなはず」とか,これもいろいろな意見を言うことができてしまいそうです。

同じ名前がついても比較できない

同じ名前がついているのに,その定義や測定方法が違えば比べられないこともあります。

たとえば,こういったことです。重症の判断基準が違えば,同じ名前でも比べることはできません。

比較できない比較

いたるところで,比較できないのに比較を試みています。あたかも腕の長さと足の長さを比べるようなものです。そこでよくある議論は,また新たな基準をどのように立てるかという議論になってしまいます。確かに,そういった議論を楽しむことは時には面白いことかもしれませんが,そこではたいてい意見があわない(いつまでたっても意見があわない)という結果を招きがちです。

「こっちの方がすごい」「いやこっちの方がすごい」それは,何を基準とするかによって変わるのです。ルールが変われば,現実が変わらなくても結果が変わります。

何となく「それとこれとを比べることができそうだ」と思ったとしても,実はそんなに簡単なことではないこともある,ということを覚えておくのは良いかもしれないな,と思ったのでした。

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