アジア地域のダークな性格
ナルシシズム,サイコパシー,そしてマキャベリアニズムという3つのパーソナリティ特性を総称して,ダーク・トライアド(Dark Triad)と言います。
この3つの特性は,それぞれ別の文脈で研究されていたのですが,21世紀に入ってすぐの頃,カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のポールハスがまとめてダーク・トライアドと名付けました。似たもの同士,まとめて研究してお互いの類似点と相違点を明確にしましょうという呼びかけです。
その後,この研究は本当に多くの論文を世界中で生み出しました。ポールハスはちょくちょくこういうムーブメントの発端になる研究者なのです。
尺度が研究を推し進める
ダーク・トライアドの研究を大きく進展させたのは,3つをまとめて測定することができる心理尺度が開発されたことが大きいと言えます。「便利な道具は研究を発展させる」というのは,心理学でも同じなのです。
よく知られているダーク・トライアドの尺度には2つのものがあります。
DTDD
ひとつはジョナソンが作成したDark Triad Dirty Dozen(DTDD)と呼ばれる尺度です。dozenという単語が使われているのには理由があります。それは,たった12個の質問項目でダーク・トライアドの3つの特性を測定する尺度だからです。
このDTDDの日本語版もあります。実は海外の学会のポスター会場を,ワイン片手に歩いていた原著者に直接声をかけて翻訳していいかを尋ねたという思い出の尺度です。
「ハイ!この尺度は日本語になっていますか?」
「まだ日本からは連絡はないよ」
「じゃあ日本語版を作ってもいいかな」
「もちろん!」
こんな感じで。その時に彼が合気道をやっていて日本についても少し知識があることを知りました。
日本語版
そんな経緯でできた日本語版作成の論文はこちらです(日本語版Dark Triad Dirty Dozen (DTDD-J) 作成の試み)。ちなみに,著者を見てどうしてこのメンバーで研究をしたのか疑問に思うかもしれません。実は,ジョナソンに声をかけた学会にたまたま日本から参加していたメンバー(の一部)だったというわけです。
DTDD-Jは項目数が少ないので,ある程度うまく測定できるように質問項目の翻訳については工夫をしました。結果的に少ない項目数の割には,まあまあの精度ではないかと思います。
SD3
もうひとつの尺度は,DTDDよりも後にポールハス自身が作成したShort Dark Triad(SD3)と呼ばれる尺度です。こちらは3つの特性をそれぞれ9項目で測定します。項目数が多少おおいので,DTDDよりも広い概念範囲を測定できるだろうというのが,この尺度の狙いです。
こちらの尺度も日本語になっています。この論文です(日本語版Short Dark Triad(SD3-J)の作成)。
第一著者がポールハスに翻訳の許可メールを送ると,すぐに「OK!」と返事が返ってきました。何度か直接会ったことがありますが,話をするスピードもゆっくりで鷹揚なイメージの人でした。この人らしい返事のし方だな,と思った記憶があります。
アジアのダーク・トライアド
ということで,日本ではダーク・トライアドの研究を進めることができる状況になっています。もう少しいろいろな研究のアイデアが出てくると面白いのですけれどね......。
日本以外のアジア地域も一緒に研究できるといいのではないかと思って見つけたのがこの論文です(An extension of the dark triad and five‐factor model to three Asian societies)。韓国,中国,シンガポール の3ヵ国のダーク・トライアド研究です。
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