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成功例だけをとり上げる妄想

・わが子を□□大学に合格させた方法
・株式投資で●億円を手に入れた方法
・○○ビジネスで成功した方法
・私がダイエットに成功した△△方法
こういった話はよく見聞きすることです。

そのような話を聞いて,
「誰かの成功に学ぶのは悪いことではない」
「成功者のノウハウなのだから,役に立つはずだ」
「同じようなことをすれば成功するはず」
もしかすると,このように思うのかもしれません。

しかし,自分とは違う他の人の成功の法則は他の人にも適用できるものなのでしょうか。
今回はこういった問題について考えてみたいと思います。

目次

・2種類のビジネス書
・業績の誇張
・ハロー効果
・成功例だけ

2種類のビジネス書

スイスの研究者ローゼンツヴァイクは,ビジネス書を大きく2つのタイプに分けました。

1つめは,成功した経営者や企業の成功談を紹介するもの。
2つめは,成功した企業を,普通の企業と比較しながら分析するタイプのもの。

ローゼンツヴァイクはこの2種類のビジネス書の中身を分析しました。そして,どちらの種類のビジネス書も,リーダーの個性や経営手腕が常に誇張されており,結果的にほとんど役に立たない情報になっていると述べました。

業績の誇張

どうして業績は誇張されてしまうのでしょうか。

もしあなたが株式投資で大成功したとして,「その成功の秘訣は?」と尋ねられたらどのような回答をするでしょうか。

「ここで上昇する情報が出そろっていた」
「株価が下がったときに臨機応変に対応できたのが良かった」
「ここぞと言うときに我慢できたからじゃないか」

などなど,いろいろな「理由」を述べるのではないでしょうか。

しかし,成功していることを前提にすれば,どのような理由であっても「成功の理由」なのです。

同じ言葉が,成功と失敗のもとで異なる評価となるケースすらあります。

「株価が下がっても我慢強く対応した」という行動は,成功の下では意思がしっかりとしており,決断力がある」と評価されるのに対し,失敗の下では頑固で臨機応変さに欠ける」と評価されてしまうのです。

監督が意見を変えるという行動についても,試合に勝てば「臨機応変に対応した」と評価され,負ければ「優柔不断だった」と評価されるかもしれません。

要は,成功が前提であるか失敗が前提であるかによって解釈がなされるだけで,具体的な行動の内容はどうでもよくなってしまうのです。

ハロー効果

ある対象を評価するときに,目立った特徴に引っ張られて他の特徴も判断してしまうことを,ハロー効果(後光効果)と言います。

マイケル・ルイスは『かくて行動経済学は生まれり』の中で,NBAのバスケットボールチームがどうしても選手の実力を正当に評価できず,人種,背の高さ,身体の特徴,見た目などに引きずられてしまう例をいくつも挙げています。そのため,本来活躍するはずの新しい選手や移籍選手の獲得を逃してしまいます。しかも「それをやめよう」と努力しても,何度も何度もそれを繰り返してしまうのです。

就活の面接で「身なりをこぎれいにしよう」「目立たない服装にしよう」「マナーを守ろう」とすることも,このような全体的な印象を引き出します。容姿や立ち振る舞いは,仕事の内容を反映するのでしょうか。必ずしもそうではないはずです。しかし,それを省みることもせず,もう開き直ったかのように「見た目をこのようにしよう。そうすれば就職がうまくいく」としてしまうのですから,何が本当に重要であるのかを見失ってしまっているかのようです。

成功例だけ

将来を予測するのではなく,結果を見てからその原因らしきものを取り上げる。ローゼンツヴァイクはこれを「成功例だけをとり上げる妄想」と呼びました。

高血圧の原因を探るとき,高血圧の人だけを取り出して「塩分が多い」「お酒を飲む」「脂っこい物を食べる」と言ったとしても,そもそもそれが高血圧の人に特異的に見られるのかどうかもよくわかりません。脂っこいものは低血圧の人も食べているかもしれないからです。

こういうときは,高血圧の人だけ検討しても原因にはたどり着きません。最低限,高血圧の人と低血圧の人を比較する必要があるのです。

必要なのは,成功例に何が見られ,失敗例に何が見られないかを比較することです。比べてみないと本当かどうかはわからない,という考え方をすることは,正解に至るひとつの基本的で重要な方法なのです。

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