見出し画像

おまえだって論法

これまでも何度か記事にしてきましたが,今回もスティーブン・ピンカー著『人はどこまで合理的か』から,いくつかの論法を見ていきましょう。


おまえだって

議論の中で,「だったら○○はどうなんだ」というセリフを聞くことはよくあります。SNSのやりとりの中でもよく見かけるのではないでしょうか。

相手に対して「お前だってそうじゃないか」と切り出すことを,「おまえだって論法(tu quoque;ラテン語で「君もまた」という意味)」と言います。

◎「やはり,規則を破るのは良くないのではないか」
「いやお前だって,これまで完璧にルールを守ってきたわけではないだろう」

一般的なことを言っている時に,相手の個別の事例に置き換えて反論しようとする論法です。これもよく見られるものですね。

ホワットアバウト

相手だけではなく第三者を持ち出すこともあります。

その場合には,「ホワットアバウト論法(what-aboutery)」と呼ばれることもあります。「だったらあれはどうなんだ」という反論(のようなもの)をするパターンですね。

統計的事実と例外

このホワットアバウト論法,統計的な事実について説明しているときに,例外の事例を挙げて「だったら○○はどうなんだ」と主張する場面でよく見かけます。

◎「宝くじなんで,1000万分の1でしか当たらないんだから,買っても意味はない」
 「知り合いは当たったらしいけど,だったらそれはどうなんだ」

こんな感じです。しかし,両者は矛盾していません。

宝くじがまったく当たらないわけではありませんし,毎年何度か発売されるジャンボ宝くじでは,毎回全国で数十人が1等を当てるのですから。それでも,1000万分の1の確率でしか当たらないことには変わりはありません。統計的な事実に対して,偶然の事例で反論しても意味はないのですが……まあ,このような言い合いはよく見かけます。

もうひとつの例です。

◎「血液型と性格には関連はない」
 「だったら,知り合いがA型で神経質なのはどうして」

これも,両者は矛盾しません。「関連はない」というのは「そういう人がいない」ということを意味しているわけではないからです。ある血液型にも別の血液型にもある特徴の持ち主がほとんど同じような割合で存在する時に「関連がない」,割合が大きく偏る時に「関連がある」と言います。完全に百対ゼロになるようなことはありませんので,関連があろうとなかろうと,「だったら〇〇はどうなんだ」と言うことは可能になってしまいます。

権威

政治や学術,また宗教上の権威者を引き合いに出して,あたかも論拠となるかのように論じていくことを「権威に訴える論証(argument from authority)」といいます。

いや,これは学問の場面でも使いますよね……。「フロイトによれば……」「アドラーが言っているように……」「スキナーが指摘したように……」などなど。誰かが書いた論文を引用して,その内容を論拠にすればいいのに,引用せずに学者の名前で済まそうとするスタンスです。

これと似たようなことと言えるでしょうか。一般向けの記事の中で「○○大学が行った研究によると……」と書かれている一節も気になります。このような,研究者の名前ではなく所属名が主体になって研究したかのようなフレーズを,よく見かけるのではないでしょうか。その研究をした研究者がほかの大学に移ったら,どうするんだろう?と,いつもつい考えてしまいます。これも権威づけの一種と言えるでしょうか。

ここから先は

0字
【最初の月は無料です】心理学を中心とする有料noteを全て読むことができます。過去の有料記事も順次読めるようにしていく予定です。

日々是好日・心理学ノート

¥450 / 月 初月無料

【最初の月は無料です】毎日更新予定の有料記事を全て読むことができます。このマガジン購入者を対象に順次,過去の有料記事を読むことができるよう…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?