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教養としての宗教入門

『教養としての宗教入門 基礎から学べる信仰と文化』(中央公論新社, 2014年)を読んでいて,気になった一節があったので今回はこの本を紹介したいと思います。

「教養」そして「宗教」と聞くと堅苦しいイメージがあるかもしれませんが,この本では例を挙げながらわかりやすく,それぞれの宗教の営みの様子が描かれています。

ユダヤ教・キリスト教・イスラム教

ユダヤ教とキリスト教とイスラム教は,互いにきょうだいのような関係です。ユダヤ教は律法と呼ばれるさまざまな戒律を守って生活することを求めています。一方でキリスト教は,律法の代わりに「イエス・キリスト」という生き神様を信仰の対象とします。

本の中では,次のようにたとえられていました。

 日本人にわかりやすい言い方をすれば,ユダヤ教徒は,戒律をどこまで守れるかという修行に挑戦しているのであり,キリスト教徒は,キリストにどこまで自分を委ねられるかという修行に挑戦しているのである。どちらの場合も,修行に徹すれば,謙虚で思慮深い人間になるかもしれないし,それが神の正義に通ずる道であるかもしれない。(p.34)

そしてイスラム教は,半分はユダヤ教に近く,半分はキリスト教に近いとも書かれています。

 まず,イスラム教は一日五回の礼拝とか,豚肉を食べないとか,具体的な規則をもっており,この点でユダヤ教式である。ただし,規則の数は少ない。はっきり戒律として数え上げられているのは,(私はアッラーを信じるという)信仰告白,(日に五回の)礼拝,(貧者などへの)喜捨,(ラマダーン月の日中の)断食,(メッカへの)巡礼くらいなものだ。しかも,遮二無二守ろうとして無理をするなという有り難い条件つきである。
 一方,民族へのこだわりがなく,誰でも即座に信者として迎え入れるという点では,キリスト教式だ。すでに述べたように,キリスト教徒にとってのキリストに相当するのは,イスラム教徒の場合,神の言葉,クルアーンである。信仰の中心がキリスト,クルアーンと明確化されているので,民族を超えて伝播しやすくなっている。(p.34-35)

単純化されているのでしょうけれども,並べて比較されるとイメージが沸きやすいのではないでしょうか。

ニューエイジ・ブーム

ちょうど20世紀後半は,私が育ってきた時代でもあります。そしてその頃,世の中では心霊やオカルトに親和的な雰囲気が漂っていました。

20世紀の初頭にも,霊能ブームがあったことはご存じの人もいるのではないでしょうか。科学の世界では電波やX線などが見つかり,見えないパワーが存在することが知られるようになっていきます。それに伴って,精神的なパワーも存在するのではないか……念写や透視の実験も行われたのが20世紀初頭です。

そして20世紀の後半にも,再びブームがやって来ます。

 時が移って,20世紀の後半にも,再び霊能力の科学的証明に対する期待が高まった。1960〜70年代,アメリカがベトナム戦争という大義の見えない戦争を遂行し,国内外から批判されていたころ,政治的反体制,文化的反体制,宗教的反体制が同時に共鳴しあって倍音を奏でるようになった。世俗的カルチャー面では,ロック,ドラッグ,サイケデリック芸術,長髪などの風俗の革命が進行し,宗教面では西洋の精神的支柱であるキリスト教への批判が高まり,禅,ヨーガ,道教,アメリカ先住民文化などが欧米の中産階級の若者たちの間でヒットするようになる。いわゆる対抗文化(カウンターカルチャー)である。
 ニューエイジや「精神世界」などとも呼ばれるそうした宗教文化の中には,占星術など呪術的な要素も多分に含まれていた(ニューエイジ,すなわち新時代とは,20世紀後半に「水瓶座の時代」が来るという占星術の主張に基づく命名である)。呪術的な期待は,学術的な方面にも浸透した。たとえば,アメリカ先住民族の調査書の体裁でファンタスティックな呪術体験を記述したカルロス・カスタネダの小説が,人類学の本として通用した。自然科学においても,量子力学などの先端科学の知見から,宗教的な世界観が肯定的に読み直されたりしたが,霊能的なものに期待する人々は,呪術的世界観が科学からお墨付きを得たような思いにかられた。さらに,臨死体験や前世の記憶といった分野がある。一部の研究者はこれを心理現象や都市伝説としてではなく,実在の現象と考えた。(p.70-72)

このブームは,新興宗教ブームに結びつき,このブームが全盛の頃に私は大学生活を送っていました。そしてオウム真理教の事件で一気に熱が冷めていきました。現在では呪術的なものを「科学」だと捉える傾向は,ずいぶん下火になったように感じます。ちょうどそんな時期を自分は経験してきたんだな,とこの本を読みながら少し懐かしくも面白く感じたのでした。

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