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1935年の性格類型の話

今回もまた,昔の論文を読んでみましょう。1935年に発表された性格の類型を行っている研究です。当時の心理学では,今のような統計的手法が用いられていません。でもその中で,試行錯誤をしながらなんとか数値を用いて性格の研究をしようとする努力が見られます。

向性検査

当時,すでに向性検査と呼ばれる外向性ー内向性を測定する検査が開発されつつありました。

向性検査については,以前にも記事を書いたことがあります。こちらをどうぞ。

性格類型

さて,この外向性ー内向性を軸にしながら性格の類型を試みているのは,心理学研究の第10巻に掲載された『性格類型の統計的研究』です。

この研究では,昭和8年から昭和10年までにかけて,神戸市児童相談所で調査が行われており,全体で満3歳から16歳までの1694名の同伴者(親や養育者)に対して調査が行われています。

質問項目は「すばしこい方ですか,手間がかかりますか」「活発ですか,ふさぎ込む方ですか」「大胆ですか,臆病ですか」「きちょうめんですか,ぞんざいですか」「地味ですか,おしゃれですか」「きれい好きですか,汚いでも平気ですか」といった17項目を示して,上か下か,甚だしいか,どちらでもないかという回答を得ています。今だと1から5の数字で回答してもらうのですが,同じようにこの方法で各項目につき5段階の回答を得ています。

ただし,この中で道徳的なことを訪ねていると考えられる7項目は省いて,10項目を分析の対象としています。

ここから,今だと因子分析など多変量解析で結果をだしていくのですが,この研究では相関係数も登場しません。2つの項目にともに当てはまる人がどれくらいいるのかが数字で示されています。また,この研究の目的は性格の類型ですが,手作業で組み合わせを探しているようです。

どんな結果?

さて結論です。

◎性格類型は外向性と内向性を基準として,ここに矛盾性と調和性という軸を組み合わせることができる。
◎外向性は「快活」「興奮」「大胆」「粗暴」「社交」「反抗」「迅速」「散漫」「粗大」といった内容からなる。
◎内向性は外向性の逆方向となり「憂うつ」「冷静」「臆病」「温順」「羞恥」「暗示」「遅滞」「固執」「細密」といった内容である。
◎矛盾性は,「憂うつ」「興奮」「臆病」「粗暴」「羞恥」「反抗」「遅滞」「散漫」「粗大」「依頼」といった内容からなる。
◎調和性は矛盾性の逆で,「快活」「冷静」「大胆」「温順」「社交」「暗示」「迅速」「固執」「細密」「自立」という内容となる。
◎矛盾性は依頼心や内弁慶さによって特徴づけられ,調和性は自立心によって特徴づけられる。内向性・外向性は依頼心・自立心によって影響されるような形をとる。
◎性格は複雑な混合型が大部分で,純粋な外向型は5.3%,純粋な内向性は3.4%,純粋な矛盾型は1.8%,純粋な調和型は0.3%のみとなる。もう少し基準を弱めると,純粋な外向型は12%,純粋な内向型は11%,純粋な矛盾型と調和型はそれぞれ6%であり,その他は混合型となる。

得点の整理の仕方を見ていて,これは手作業で主成分分析(回転なし)を行っているようなものだなと思いました。「A対B」という質問項目を平面に配置して,そこに互いに直交する軸を引くイメージです。

また,外向性ー内向性に軸を加えて類型化しようとする試みは,アイゼンクのモデル(外向性ー内向性と神経症傾向の組み合わせ)にも通じそうなものです。この研究で見いだされた,矛盾性—調和性は,なんとなく神経症傾向(にいくつかの要素が加わったようなもの)にも思えてきます。

こういう論文を読んでいると,分析手法は洗練されてきているのですが,昔の研究者も今の研究者もやろうとしていることはそんなに変わっていないのかも,と思えてきます。

当時の研究者に,今のようなパソコンと統計ソフトを渡したら何をするのか......そんな想像をしてしまいました。

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