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なまってるよ

愛知県から東京に引っ越してきて何年も経ち,子どもたちはすっかり東京のアクセントと言葉づかいになってきた......はずです。

そして,私が子どもたちに言われるようになるわけです。

「パパ,なまってるよ」

と。ほっといてくれ(尾張地方だと「ほっといてちょー」)。


特殊なことば

実家は代々尾張地方の家ですので,父母もいとこも近所の人たちもバリバリの尾張弁です(これがまた,名古屋弁とも微妙に違っていたりする)。そして,東京に来た私も,気をつければ何とかなる部分はあるのです。特に,特殊なことばについては使わなければそんなに違和感はないはず。

たとえば......「まわしする」「鍵をかう」「机をつる」「放課」「ケッタ」「たーけ」「かんこうする」「ご無礼します」「ちんちん」「かんかん」「きやっとする」「こわい」とか。

わかりますか?ええっと……

◎まわしする ...... 準備をする。
◎鍵をかう ...... 鍵をかける。
◎机をつる ...... (掃除の時に教室で)机を後ろに下げる。
◎放課 ...... 授業と授業の間の休憩時間のこと。5分休憩時間は「短い放課」,20分休憩は「長い放課」,給食の後の休憩時間は「昼放課」と言います。
◎ケッタ ...... 自転車のこと。「ケッタマシン」ともいう。
◎たーけ ...... あほ、ばか。「たわけ」だけど「わ」の発音は崩れます。
◎かんこうする ...... 工夫して何とかする。観光ではありません。語源は「勘考」だと思っていたのだけれど違うかなあ。
◎ご無礼します ...... お先に失礼します。実家で先に風呂に入らせてもらって「お先にいただきました」のかわりに「ご無礼しました」といえばOKなのですが,妻の実家(愛知県外)では言わないようにしています。
◎ちんちん ...... とても熱い様子。「ちんちこちん」ともいう。
◎かんかん ...... 缶のこと。
◎きやっとする ...... 急に痛みが走ること。「腰がきやっとする」というと,急にギックリ腰みたいにきつい痛みが走るイメージです。
◎こわい ...... 固い。もち米を固めに炊いた「おこわ」の「こわ(強)」だと思っていました。

こういう意味です。ああ,でもやっぱりだいぶ忘れています......。やはり使い続けていないと,ネイティブにはなれなさそうですね。中途半端に使ってしまうから,余計にタチが悪いと思います。

ちなみに大学生になるまで,机をつるとか鍵をかうとか,放課とかいうのは標準語だと思っていました......。

言い回し

単語以外にも,独特な言い回しがあります。

たとえば......「でらえらい」「えらいがね」「えらいでかんわ」「えらいかしらん」とか。ちなみ「えらい」は「偉い」ではなく「疲れた」です。

◎でらえらい ...... とても疲れた
◎えらいがね ...... 疲れたよ
◎えらいでかんわ ...... 疲れちゃったよ,参ったね
◎えらいかしらん ...... 疲れてるのかなあ,わかんないけど

書いていると懐かしい感覚が蘇ってきてしまいます。ノスタルジアですね。

ちなみに,愛知県はみな同じ言い回しを使うと思ったら大間違いです。尾張と三河は違う国だったので,尾張地方と三河地方で言い回しはずいぶん違います。

語尾に「じゃん」「だら」「りん」がついたりするのが三河弁です。

◎これ美味いじゃん ...... これ美味しいね
◎これ美味いだらー ...... これ美味しいでしょう
◎これ食べりん ...... これ食べなよ

さらに,三河から北の方に山を越えると,「だら」が「だべ」になっていきます。それを使っている大学の友人がいましたね。

東海地方アクセント

そして,一番厄介なのがアクセントです。単語や言い回しについては,気をつけて使わないようにしていれば,標準語を話しているような気がするのです。でも,それでもアクセントの修正だけは難しくて,自分でもどこにアクセントをつければいいのかがよくわからなくなってしまって「ああ,もうどうでもいい!」と思ってしまう時があります。

たとえば,「ありがとう」という言葉があります。どこにアクセントをつけて読みますか?

たぶん関東の人は「あがとう」の「」にアクセントがつくのではないでしょうか。

たぶん関西の人は「ありがう」の「」のあたりかなと思うのですがどうでしょうか。

そして,東海地方では「ありとう」の「」にアクセントがつきます。

Wikipediaの「名古屋弁」のページに,良い要約が載っていました。
共通語より遅れてピッチが上がり,共通語と同じ位置で下がる(ことが多い)
です。

共通語の「ありがとう」の「り」よりも遅い「が」にアクセントがつき,「とう」の部分はだいたい共通語と同じように下がる,といったところです。

関西弁のように明確なアクセントの違いでもなく,テンポをずらすように強く読むところが変わる点が,難易度が高いのではないでしょうか。

そして,それに慣れてしまうと修正も難しいという問題が生じるのですね。

質問項目と方言

心理学の研究を始めて,質問項目を作るようになると,方言を気にするようになりました。さすがに名古屋弁で質問項目を作ってしまうと,他の地方では違和感が出てしまいますので。

学生の質問紙づくりをするときにも,方言と同時に学生だけが使うような用語も注意して見ています。

でも,使っちゃうんですよね。「その言い回しは全国どこでも通じるの?」と思ってしまう質問項目を,本人も自覚なしに作ってしまうことがあります。

あとは,文章の難しさです。ずいぶん前に論文を読んだとき,「ずいぶん難しい言い回しを質問項目に使うんだなあ。意味が分からない大学生や高校生が出てきてしまうんじゃないかな」と思って著者の所属を見て,やっぱり自分を基準に考えてしまうのだろうか……という印象を抱いたことがあります。

方言とあわせて,要注意です。

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