読書をすると本当に知能が高まるのか
知能がどのような構造になっているかについては,歴史のなかでさまざまな説が提唱されてきました。
陸軍式知能検査
知能の中身が分かれていくきっかけになった研究がどれなのかはよくわからないのですが,20世紀初頭にアメリカで開発された陸軍式の知能検査も,そのひとつではないでしょうか。陸軍式の知能検査は,第一次世界大戦でアメリカ陸軍が多くの人々を徴兵したときに用いられた集団実施式の知能検査です。作成したのは当時アメリカ心理学界会長だったヤーキーズたちです。
◎陸軍A式(Army alpha):言語を用いる検査
◎陸軍B式(Army beta):非言語式の検査。読み書きができない人や,英語を話せない人向けの検査。
それにしても,英語のWikipediaはこのあたりの記述が詳しくて良いですね。勉強になります。
アルファとベータそれぞれについて,項目が立てられています。
ここで用いられている検査の内容には,現在使われている知能検査でも用いられているものがあります。実に100年間,知能の測定に用いられていることになります。そう考えるとすごいことです。
流動性知能と結晶性知能
流動性知能と結晶性知能の分け方は1960年代にレイモンド・キャッテルによってされたものです。
流動性知能は,あまり文化や教育に影響されない知能を想定しています。抽象的な推論や,図形の組み合わせ問題,数列や文字列を処理する問題,あるものと別の者を連想する課題などで測定されます。
結晶性知能は,学習された知識や手順が反映する知能の領域です。
同じ問題でも,流動性知能的なアプローチと結晶性知能的なアプローチをとることができます。数学の問題を学校で習った方程式に置き換えて解くのは,結晶性知能を用いた問題へのアプローチです。それに対して問題から推論して答えを導いていくのは,流動性知能的なアプローチだと考えられます。
言語性・非言語性知能
言語と非言語で知能の種類を分けるというやりかたは,現在でも引き継がれています。陸軍A式の検査で測定される内容や結晶性知能に相当するのが,言語性知能と呼ばれる知能の領域であり,陸軍B式の検査で測定される内容や流動性知能に相当するのが,非言語性知能(動作性知能)です。
読書で言語性知能は伸びるのか
なんといっても言語性知能なのですから,なんとなく読書をすれば伸びるのではないかと予想できます。もしもこれを確かめたいなら,知能検査をして,読書をさせて,その後の知能検査の上昇が観察されれば良いですよね。
直接読書をさせているわけではない,ちょっと間接的な研究なのですが,関連する研究を見てみましょう。
言語性知能の測定内容のなかに,語彙力も含まれているのですから,本をたくさん読めば当然それも期待できます。ある時点での言語性知能の高さは,その時点での語彙力に関連しますので,これも読書量に関連することが予想されます。でも問題は,知能の「変化」です。本当に変化するのか,またその変化量はどれくらいなのかを確かめておくことに意味はありそうです。
少し長い期間で,若者の知能と読解力を検討したこの論文を見てみましょう(The influence of reading ability on subsequent changes in verbal IQ in the teenage years)。
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