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日々是好日・心理学ノート

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#教育

「嫌なことを考えたくない」が基本

注意喚起をすると「そんな嫌なことを言わないでくださいよ」という反応が生じることは,よくあります。避難訓練なんかもそうですし,自動車の運転免許の書きかえなんかも典型的ですよね。 『人が死なない防災』(片田敏孝著)を読んでいたときに,こんな一節が出てきました。 日本の防災教育の間違いこの本の中には,日本の防災教育で陥りがちな間違いとして2点が挙げられていました。 ひとつは,脅しの防災教育です。とにかく「怖いぞ」「怖いぞ」と連呼して恐怖を喚起させようとする教育のパターンです。

ターマン博士の天才児研究が始まった頃

今回も昔の論文を見てみましょう。『ターマン教授の優秀兒研究計畫』という論文(記事?)です。1922年に発行された,心理研究第22巻に掲載されています。 この論文では,アメリカでスタンフォード・ビネー知能検査を開発したターマンによる,天才児を集めて追跡調査をした研究が紹介されています。 日本でもこのプロジェクトは教科書に書かれていたりして知られています。しかし,この論文ではちょうど研究が始まった当時(1921年開始)に,このプロジェクトの紹介をする記事となっていますので,こ

新型コロナウイルス感染症が教育に及ぼしてきた影響

2019年12月に中国で発生が発見された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,あっという間に全世界に広がりました。世界中の国々が,COVID-19の対策のために,手洗い,マスクの着用,人との距離をおくこと,集まりを制限することなどの対応をとることになりました。 また,自宅待機とロックダウンも世界中の多くの国で見られた対応策です。 対応策特に学校では,通学が制限され,多くの授業がオンラインで行われることになりました。一方でこの経験は,学校のオンライン化やデジタル化

高校入試と知能検査(100年前)

1921年に発行された心理研究第20巻の記事に「高等學校入學試驗成績と精神檢査との相關に就いて」というものがあります。 ここでの「精神検査」というのは,今でいう知能検査のことです。 著者は心理学者の黒田亮先生で,Wikipediaには「旧制新潟高等学校教授などをへて1926年(昭和1年)京城帝国大学助教授」と書かれていますので,ちょうどこの論文が執筆された頃は新潟高等学校に務めていた頃です。 高等学校この論文では,大正10(1921)年度の新潟高等学校の入学試験への志願

能力と教育が合致するかどうかが大切

先日,「学校の成績は能力の反映なのか」という記事をまとめました。 ポイントは,学校の成績には,その子が本来(生まれながらに)持っている能力がちゃんと反映しているのだろうかという点にあります。有名でのちに偉大な業績を達成した人々も,学校での成績が良くなかったことはいっぱいあるじゃないか,ということで多くの例が上げられている記事でした。 学校の成績は能力の反映かその続きになる記事が,1915年に刊行された木村久一著『學校の成績は能力の指數にあらず』です。同じく心理学研究の前身

アフリカ系アメリカ人生徒の理系成績に影響する要因

STEMとかSTEM教育という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。STEMというのは「Science, Technology, Engineering and Mathematics」の頭文字ことで,科学・技術・工学・数学の教育のことを指します。 これをアレンジした言葉もあります。 STEAMと書いてApplied Mathematicsということで応用数学とした表現とか「Art」を加えるとか,eSTEM と書いて「environmental STEM」と「環境教育」を加

子どもたちを運動させると自尊感情が上昇する

定期的な運動の良い効果については,さまざまなところで指摘されます。身体的な健康に対してももちろん良い効果をもたらすのですが,精神的な健康に対しても同じように良い影響を与えると言われます。 とはいえ一番の問題は,身体を動かす習慣をどのように普段の生活のなかに組み入れるか,ですよね。 子どもたちの運動習慣子どもたちは学校で体育の授業もあるし,授業前や放課後,休み時間にも外で運動しているし,部活動もあったりしてじゅうぶんに運動の習慣がついているのではないか,と思えます。もちろん

平等が不平等を可視化する

インターネットの普及は,情報の格差を低めてきました。以前は高価な本を買ったり,その道の専門家に教えを受けたり,海外のその場所に行かないと見ることができなかったものも,スマートフォンがあれば情報として手に入れることができるようになっています。 私が大学生の時にそういう状況は全くなかったのですから,この四半世紀の間の情報環境は本当に変化しました。コピーカードを手にして図書館に籠もって,論文を探していた学生時代がなつかしく感じます(主にこもっていたのは名古屋大学の教育学部図書館で

「こういうところがいいんだよね」という言葉

テレビで「おもしろ動画」番組って本当に多いですよね。予算と手間が少ないからかもしれませんが......。 年末年始にそんな番組を見ていて,そこで確かこの動画が流れていました。 空手か他の武道か名前はわかりませんが,白帯の小さな子がかかとの板割りにチャレンジしています。昇級試験に必要みたいですね。白帯なので最初のランクから次のランクへの昇級でしょうか。 ところが板がなかなか割れずに泣き始めてしまいます。先生が一生懸命に励ましながらチャレンジさせようとしています。 すると

2019年に読んだ本のまとめ4

今回も,2019年に読んだ本について紹介したいと思います。今回のテーマは「科学」と「大学」です。 日本の科学の危機最近流行のテーマのひとつが,「日本の科学をとりまく現状が危ないのではないか」というものです。この本『科学立国の危機—失速する日本の研究力』は,著者がこれまでBlogなどで発表してきた日本の科学関連データに基づいて書かれているものです。 最近の日本の科学技術政策は,基本的に「選択と集中」です。しかし,この「選択と集中」が,今の危機を招いた最大の原因だろうと考えら

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隠れた「自分たちは特別」という思い

これまでに何度か授業の感想を読んでいて,もやもやする感覚に陥ったことがあります。 たとえば 「こんなことを信じているなんて,日本人は〇〇だからでしょうか」 といった感想を目にした時です。 だいたい〇〇の中にはネガティブなことが入るのです。ですので,日本人がこんなことを信じているなんてこんなよくない傾向があるからではないか,という観点でこういった感想が書かれているわけです。 人間ってしかし,授業をしている時に自分の頭の中にあるのは「人間ってみなこういう傾向があるから気

相手の話を止めないこと・笑わないこと

アメリカの各都市では,英会話教室がほぼ無料で受講できます。English Language Acquisition (ELA)とか,English as a second language (ESL)と呼ばれるクラスです。 昨年,家族で2つの都市に滞在しました。 ホノルルの授業は有料でしたが,それでもとても安くてテキスト代がちょっと高いくらい。 オースティンでは基本的に授業料は無料でした。ただし申し込みが多く,募集が始まってすぐに申し込みに行かないと教室はすぐ埋まってしまって

授業中に聞こえる咳の音と効果的な教え方

集まりで話している最中に咳が聞こえだしたら,壇上にいる人は気をつけた方が良いかもしれません。 テキサス大学のペネベーカーは若い頃,咳に関する論文を書いています(Perceptual and environmental determinants of coughing)。 「ゴホン」「コホン」という音がする咳は,誰もが観察できる(音が明瞭な)行動です。録音した音声でも,比較的容易に判別できるのではないでしょうか。 ペネベーカーは大学の学部の講義(教室にいたのは40から210

高いレベルを当然と考える錯覚

『学力低下は錯覚である』という10年前に出版されたとても面白い本があります。 「学生の学力が低下している!」という話は大学について語るときにつきものです。 それに対して,「いや,低下していない!むしろ今の学生の方が真面目に授業に出てきて優秀だ」という話もあります。 実は少子化と進学率上昇によって,全体の学力が低下していなくても,あるところで定点観測していると学力が低下するように見えてしまう,というカラクリがあるのだということをわかりやすく示してくれるのが,この本です。