みかん色の空と青い海

1.序章
 ~オレンジとブルーは補色なんだって、誰かから聞いたことがある~


2.森の中
 少女が目を開けると、そこにはいつもの天井があるだけ。小鳥の目覚ましが聞こえる中、少女は外を見回した。
 少女は大人でも子供でもない。もしかすると人間ではないのかもしれない。ただ、心があることしか、僕は知らない。少女の過去も、現在も、未来もわからない。
 なぜ僕が少女を知っているのかって?想像にお任せするよ。ただし、空想ではないことにご注意を。空想だととんでもないものにされてしまうからね。
 少女が窓を開けると、そこには木々が生い茂る森の中。木の実だってすぐに手が届いてしまうほど。少女の友達はたくさんいるようだ。
 しかし少女は笑わない。笑うことを知らないかのように、まったく笑わない。だからといって涙を流すわけでもなく、怒りだけが少女を苦しめる。傷付けてゆく。しかし、その怒りの感情さえ僕にはわからない。そんな僕も同じなのだけれど。


2.湖にて
 朝の水浴びに少女は出かける。森の奥にひっそりとある湖だ。この湖には毒がある。痛みもないし、苦しみもしない。そんな毒が昔から湖には混ざっている。この湖の水は普通では飲めない。人間も動物も、飲めば死に至るほど。植物も水がかかってしまえば、枯れて二度と復活しない。
 だが、少女は湖に向かう。その時に必要なだけの水を汲みに、少し入り組んだ木々の間を軽やかに飛び越えてゆく。毒があることは誰でも知っている。それでも少女は水が欲しい。どんなものよりも命を支えてくれるものだと知っているからだろうか。それとも死を覚悟してでも欲しいものなのか。
 少女は朝食を食べ始めた。何を食べているのかは僕には見えない。火の気も感じない。料理はしないのだろうか。それとも湖の毒が何かをもたらしているのだろうか。


3.花はどこ?
 朝食を終えた少女は再び歩き出した。時折、少女の足が止まる。具合でも悪いのだろうか。
 少女は花を持っていた。多くの色に囲まれた少女は純粋無垢な幼さを持っていた。少女の持つ花は、赤から青、緑までさまざまな色をしていた。
 少女が止まった。足元には真っ黒の花と真っ白な花、灰色の花がある。少女は迷わず選び採った。
 少女の手には、たった2本の花が握られているだけだった。


5.みぞれに襲われた過去
 太陽が天頂に登るころ、少女は日の当たらない洞窟にいた。少女の目からは何もわからない。だが、洞窟には絵が描いてあるのだ。
 炎に焼かれていく自分の姿。その隣には焼け爛れた己の姿。おそらく少女は何者かに殺害されようとしていたのだろう。しかし、少女は洞窟の絵を見ることなく、洞窟を去っていった。
 炎で焼かれている少女の周りを、少女の死を望むものが囲んでいた。


6.夕暮れの里
 夕暮れになると、少女は空を見つめだした。青からオレンジ、桃色、紫、そして紺へと変わってゆく空をただ見つめているだけ。
 僕は少女と向き合った。悲しみでもいい、喜びでもいい、怒りでもいい・・・何かを発してくれないだろうか。頼む・・・。
 少女は僕をしばらく見つめてから、その場を立ち去った。何も言わずに、何もわからないまま僕が立っているのを、どんな気持ちで見ていたのかさえわからないほどだった。


7.闇の中の光
 夜を目前にして、少女は野原に出た。あるものとしたら草ばかり。少女はその上に横たわった。草の香りが安らぎをくれるのか、少女は夢の国へ行ってしまった。
 夜の闇の中に、ギラリと光る眼が二つ、四つと増えてゆく。少女は目覚めた。その眼ににらまれながら少女は走った。ただ、ただ、安らぎの光を求めて。少女は何も言わずに駆け抜けてゆく。
 ギラリとした眼に囲まれ、少女は目を閉じた。その場に座り込み、宇宙を見上げて、目を開いた。眼に囲まれた少女は血みどろのまま、その場で動かなくなった。


8.愛されたい
 少女は眠ったまま、過去の世界に連れ去られていた。あのおぞましい眼はどこか別の獲物を探しに行ったのか、少女の周りには誰もいない。少女は過去の世界で初めて、自分の家族を見た。家族は笑っていた。少女を見つけると、そっぽを向いて、また笑い出した。大声で、少女の涙を誘うかのように大笑いした。何も笑う種もないのに、家族はただ笑う。少女はここでも涙と笑顔を出さないまま、死人のような白い顔をして立っていた。


9.心が吹っ飛んでった
 少女は家族を見ていた。そっぽを向かれてもずっと見続けた。
 少女の後ろから声がした。少女は振り返った。そこには自分よりも大きな体に小さな頭脳を持った、光ることのできない星がいた。真っ暗闇の中、星は少女の手に触れた。その瞬間、少女の目から涙が溢れた。星は次に少女の足を噛んだ。少女の目に炎がよぎった。星は最後に少女の頬を撫でた。少女の目に花が映った。


10.あなたに会いたかった、でも叶わない夢
 目が覚めると、少女の上にはいつかの洞窟が広がっていた。誰かが少女の顔を覗き込んだ。それと同時にしずくが一粒、少女の頬に落ちてきた。少女は一言こう言った。
 「星。」

                                                                                            終。

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