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ロミオとジュリエット

もう時効だろうから白状するが、もう30年以上昔、大学生の頃にお付き合いさせてもらっていたガールフレンドと真夜中にこっそり家を抜け出して、度々デートをしていた。
彼女は典型的な箱入り娘で、そうそう頻繁に会うことが叶わなかったので、苦肉の策として、そういうことになっていたのだ。

ぼくは男だから夜中に家を抜け出したところで母親に文句を言われる程度だろうが、彼女はそういうわけにもいかないから、かなりスリリングなデートだったわけである。

両親が寝入ったころを見計らって、そっと抜け出して終夜営業のレストランに行ったり、誰もいない海や町を見下ろせる高台の公園にドライブしたりして、明け方前に送り届ける。

家に入るのも足音を忍ばせて、というわけだから、ぼくは無事に彼女が部屋までたどり着いて灯りを点けるまでを見届けてから、その場を離れた。
なにかの事情で出られない時には、家の前に停めてあった彼女の車の中に手紙が置いてあった。
今日はゴメンね、とか、そんな内容だ。
合鍵をもらっていたから、ぼくはそれを受け取る。
2階の彼女の部屋を見ると、彼女は部屋の窓からぼくを見ていて手を振ったりした。
まるでロミオとジュリエットだ。

O Romeo, Romeo!
Wherefore art thou Romeo?

というやつだ。

ぼくは22歳で彼女は19歳だったと思う。
なんとも若い。
怖いもの知らずの頂点のような頃合いだった。

ある夜。
ぼくは車でレベッカの「Moon」を流した。
彼女は黙って聴き入っていたので、ぼくはなにも話しかけずに車を走らせた。
やがて曲が終わり、ぼくはどうだった?とか間抜けなことを尋ねようと彼女を見ると、彼女は慌てて涙を拭った。

Come, gentle night, come, loving,
black-brow’d night,
Give me my Romeo; and,
when he shall die,
Take him and cut him out in little stars,
And he will make the face of heaven so fine
That all the world will be in love with night
And pay no worship to the garish sun.

#moon #romeoandjuliet #エッセイ

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